第11話 荒ぶる格ゲーマー

「……納得いかんな」


 トーヤの頬に大きな手形がついていた。ジト目を向けつつ着替えたキャミーにトーヤが文句を口にする。


「だからそれに関しては謝っているだろう」

「ブルルッ」


 腕を組みまぶたを軽く閉じながらキャミーが答えた。隣ではキャミーが助かったことを喜ぶディカプリの姿があった。


「大体貴様も目を逸らすとかなかったのか! ガン見しおって!」

「女の裸が目の前にあったら見るだろう。男なんだから」


 トーヤはその辺りわりと素直だった。はっきりとした自分の考えを述べることの出来る男だった。


「クッ、それで、ど、どれぐらい見えたんだ?」

「バッチリ見えたぞ。お前おっぱいでけぇな。チュンマイぐらいデカかった」

「お前は少しは遠慮せんか!」


 目を剥いてキャミーが怒鳴り散らした。ちなみにトーヤの言っているチュンマイとはKBFの女性キャラだ。そのたわわな胸とセクシーな衣装が相まってKBF屈指の人気キャラでありヒロインでもあった。


「安心しろ。服が破けたり脱げるぐらいKBFではよくあったことだし、俺は見慣れてる」

「何をどう安心しろと? くそ、本当に頭が痛くなる」


 キャミーが頭を抱えた。トーヤは不思議そうな顔をしている。


「ところでこいつはどうするんだ?」

「勿論解体していく。モンスターの素材と魔石は冒険者の大事な収入源だ。肉もギルドで買ってくれる」

「倒したの俺だよな?」

「……も、勿論だ。ただお前は袋を持ってないだろう? その分を考えてだな――」


 仕方ないのでトーヤは折半ということで納得した。倒したのはトーヤだが解体はキャミーが行い魔法の袋に入れて運んでくれるということで納得した。


「その変わり盗賊を多くよこせよ。コボってコボってコボってやるから」

「わかったわかった。さてそろそろ出るぞ」

 

 キャミーが泉の水を水筒に汲み、そして再び二人はディカプリに跨り目的地へ向かった。


「ここからは歩きになる。ディカプリは大人しく待っていてくれよ」

「ブルルッ」


 適当な木にロープを括り、キャミーが愛馬を繋いだ。魔法の袋から桶を出し水をためて置いておく。


「馬はこんなところで大丈夫なのか?」

「このロープには魔除けの効果があるからな。この辺りのモンスターなら近づいてこない。時間が経てば勝手に緩むようにもなっている。万が一の場合はそれで街まで戻るように躾けられてもいる」

「なるほど賢いんだな」

「ブルルッ」


 キャミーが鬣を撫でると気持ちよさそうにディカプリが目を細めた。


「よし! もふもふ力も補充できたし行くとするか」

「何だもふもふ力って」

 

 やれやれとトーヤは思いつつ、一緒に山登りを始めた。話によるとこの山の中腹あたりにアジトがあるようだ。


「アジト周辺には見張りがいるだろうから油断するなよ」

「見つけたらすぐコボっていいのか?」

「脳筋か貴様は! 先ず状況を見極めてからだ馬鹿!」


 キャミーに叱られつつも進み、いよいよ盗賊のアジトがあるという周辺まで来た。


「おお。ここに盗賊ってのがいるのか」

「でかい声を出すな――足音と喋り声だ」


 藪の中に身を潜め足音が近づいてくるのを待つ。


「最近商人も警戒してるようだな」

「あぁ。金目のもんを運んでる奴らはそれなりの冒険者雇ってるしな」

「そろそろまた場所を移動する時かね」


 そんな会話をしながら三人の盗賊が歩いてくる。


「よし。近くまで来たらしかけるぞ。ただし基本は生け捕りだ。情報も手に入れたいからな」

「あぁわかった。しかし相手は太いのと普通のと女か。ふふ三タイプも来るとは――」


 盗賊は男二人と女一人という組み合わせだった。キャミーが眉を顰めトーヤを見る。


「おい。女だから手は出せないとか甘いことを思ってるなら――」

「女キャラは浮きやすいんだよな。ノックバックが大きいから地上コンボが入りにくいが浮いてからは女限定で決まるコンボもある。お前はコボらせてくれなかったらここで思いっきり……」

「心配した私が馬鹿だった。てかボコる気満々か。自分で言っておいて何だがお前は本当に最低な奴だ!」

「お前は俺に容赦して欲しいのか欲しくないのか?」


 納得のいかないトーヤだったがそうこうしている内に盗賊がすぐ近くまで迫ってきたわけだが。


「待て! そこに何かいるぞ! 俺の気配察知がそう告げている」

「チッ、いくぞ!」


 どうやら一人気配を察せるスキル持ちがいたようだ。


 キャミーが飛び出すとトーヤも後に続く。


「チッ! やっぱりいやがった!」

「だが二人か。それなら――」

「チェストーーーー!」

「ギャッ!」


 太いのと小さい男が相談していたその時、飛び出したトーヤがまっさきに後方に控えていた女盗賊の顔面に見事な飛び蹴りを喰らわせた。


「オラオラオラオラオラオラ!」

「ヒッ、ちょ、ま――いた! 痛い痛い痛い痛い痛い!」


 飛び込みからの屈小足からのスタートだった。女の剥き出しの足首目掛けて屈蹴りをひたすら連打する。


 格ゲーでは基本の入りだが喰らってる方からしたらたまったもんじゃない。


「おら浮けゴラァ!」


 スキルの浮撃を発動。大ぶりの振り上げる攻撃を当てれば相手が浮く。


「ゴボッ!」


 顎に強烈な一撃を受け女盗賊が浮いた。涎が撒き散らされうめき声が漏れている。


「よっしゃーーーー!」

 

 喜び勇んでトーヤがジャンプし、空中の相手に更にラッシュスリーーで三回攻撃を繋げそこからキャンセル破光空拳、更に破天降で降下しながらの蹴り。しかし女キャラは浮きが長い為そこから更に繋がるのだ!


「落ちてくるところに破天で追撃だぁああ!」

「キャァアアァアアアア!」


 散々ボコボコにされた女盗賊は、更に必殺技で服が破れあられもない姿で地面に落下した。


「うん? おいおいもう終わりかよ。くそまだやりたりねぇってのに!」


 必殺技で服が破ける――それはトーヤにとって見ればKOした証明でもあった。流石に倒した相手に更に追撃するような真似はしない。


 だが――その様子を残った盗賊二人がポカンとした顔で見ていた。キャミーもどこか侮蔑の感じられる顔であった――

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