09話「大魔王の嫁ぇ?」だべ
誰か居る!
あわてて振り返ると、壁に黒い魔物の像(ぞう)が飾られていた。
白いガイコツの様な仮面にツノが生え、黒い法衣にフードを被(かぶ)っている。
悪魔崇拝者(あくますうはいしゃ)!?
俺は身構えようとしたが激痛(げきつう)が走った。
「ぐ…」
動くと全身あちこちが痛い。
青い髪のエルフの少女は酒を呑(の)みながら、不思議な世界を映す瞳でこちらを見た。
「さすがドワーフ、ムダに頑丈(がんじょう)だな。だが回復魔法で傷を塞(ふさい)ではいても失った血は戻らぬし、痛みが全て無くなるわけでは無い」
敵では無いようだ。
すごい美人ではあるが口は悪い。
まぁ悪人には見えないかな?
青髪のエルフはフッと笑いながら盃を傾けた。
しかしこのお姉ちゃんよく呑(の)むなぁ。
ん?この香りはドワーフの火酒じゃねぇか?
青髪エルフが俺のヒョウタンから酒を注ぎながら呟く。
「治療代はこれで済ませてやる。感謝しろ」
やっぱ俺のかよ!
治療か。
そういえば全身からハーブの様な香りがする。
まぁ美少女だから良い香りもするわな。
青髪の美少女エルフが鼻で笑った
「ふん、その短足ビヤ樽(ダル)のどこが美少女だ」
いちいちうるせえな…ん?ちょっと待て。
こいつ…心が読めるのか?
「ようやく気づいたか」
あ!ヤバい。何か別なこと考えよっと
「もう遅い、お前が前世で集めたエロサイトの動画を観ているから、お前の性癖(せいへき)まで全部知っているぞ」
ギャアアアアァヤメてくれ!!え?じゃあ、まさかあの事まで知っているのか?
「知ってるぞ。初恋のミヨちゃんがじつは二股(ふたまた)かけてた事もな」
ぐおおお、思い出してしまったあああ!
「あまり悶(もだえ)るとまた傷口が開くぞ」
なんという悪魔の様なエルフだ。
いや魔女か。というか悪魔よりタチが悪いんじゃなかろうか!
…いやまて、心が読めるならひょっとして…
その時、頭の中に『あの声』が響いた。
『そうだ。お前の行くべき運命も知っているぞ、転生者の勇者よ』
「え?」
『あの声』の本人が目の前に居た。
まるで声優さんかVtuber本人に会った気分だ。
改めて森の魔術師の凄(すご)さを思い知った。
というかエルフにも勇者の予言があったのか。
「お前がここに来る事は7950年前から予言されておるからな」
え?誰に?
「あのお方からじゃ」
魔女が指差したのは黒い悪魔の像(ぞう)だった。
「悪魔がか?」
「無礼者(ぶれいもの)め!あの像(ぞう)こそは我らが神である神聖大魔王様のお姿じゃ!」
「え?これが魔王なの?」
初めて魔王の姿を知った。
この人が俺の杖を作ったのか。
不思議な像だった。まるで悪魔の大王の様にも見えて、膝の上には白い翼の天使の様な少女が白い虎猫を抱いて座っている。
また頭の上には犬のような人形が乗っていた。
(何だこれは??)
恐ろしげでもありながら、幸せな家族の肖像画にも見える。
なぜか懐(なつか)しくもある。
神聖大魔王か。
そういえば鞍馬山にも魔王尊が祀られていたな。偉大な魔神という意味か?
「そうじゃ、お前の杖を作ったお方であり、エルフ国の神であり、妾(わらわ)の夫であった」
えええ〜!!魔王の嫁!あんたがかよ!
嫁がコレならやはり魔王も悪逆非道(あくぎゃくひどう)だったのか。
「バカもの、神聖大魔王聖下(しんせいだいまおうせいか)は魔族やエルフを従えて悪鬼や巨人を撃ち倒し、世界を救った偉大なる神じゃ」
え?魔王って悪魔の王じゃ無いの?
「違う、悪魔を造ったのは巨人じゃ!
魔王さまは悪魔王たちの神でもあるが、悪魔などというチンケな存在では無い」
意味わかんねーよ…
「巨人も悪魔も神聖大魔王尊もこの世のものでは無い。虚像(きょぞう)であり、世界の全てである。
お前ら勇者は神と神の戦いに踏み入る者と心せよ」
虚像(きょぞう)をどうやって倒すんだよ。
「そのために魔王の杖が残されたのじゃ。
勇者の使命は折れた魔王の杖を三つそろえて復活させるのじゃ」
あ、なるほど。魔王の杖を三つそろえれば神や悪魔とも戦えるのか。
これはドワーフや教皇庁の勇者伝承と同じだ。
「それだけでは無い。まずお前はまだ勇者としてはまだ下手クソの未熟者(みじゅくもの)のチンチクリンじゃ。まず魔術を学べ」
魔術?俺が?
「そうじゃ。お前には魔術の素養(そよう)が全く全然ちょっとも無いからな。まずは魔術の基礎理論から学ぶのじゃ」
魔術に基礎理論なんてあるのか?
「まず一つに
・イメージを具体化する事じゃ。
・次に物体と心法が一体となる事。
・次に作用と世界の共鳴が一致する事。
最初は意識してこの魔法の基礎を磨(みが)く事じゃな」
イメージを具体化とは?
「お前は前世でアニメや特撮を見て、攻撃や破壊の大魔法のイメージをすでに身につけておるではないか」
アニメかよ!
「そうじゃ、アニメや特撮のイメージを『トリガーワード』として詠唱(えいしょう)すれば魔王の杖がそのイメージを具現化してくれる」
マジかい。…いや考えてみれば「変身」も「ぴぴるま」も「冷線砲」も「赤熱」も、みんなマンガや特撮のイメージが勝手に魔法になっていたか。
「そうじゃ、それは我々の世界では誰も知らないイメージなのじゃからな」
あ!言われて見ればたしかに!
この世界の住人たちがアニメで描かれていた戦闘イメージを理解できるとも思えない。
これが俺が勇者に選ばれた理由か。
「まずそのイメージを具体化(ぐたいか)する事じゃな。そうすればパワーは増幅され魔力は強大になる」
気合で増幅できねぇかな?
「気合や意識などは目に見える部分しか使えないものだ。
真の大魔法は無意識を使う」
無意識?
「無心であるという事は無限でもある。
つまり全宇宙と一体になったパワーという事じゃ。その無限エネルギーの循環を一方向に向ける舵取(かじとり)棒が魔王の杖じゃ」
なるほどワカラン。
まるで禅問答だ。
だが前世で観ていたアニメや特撮のイメージが、そのまま『トリガーワード』になるという事は理解した。
その時、通路側の御簾(みす)が開けられ、金髪エルフのお姉さんが入り口から入って来た。あの人喰(ひとく)い虫から助けた娘だ。
「目が覚めたか子供よ」
おお、さすがスーパーモデル。服を着ると一段と美しエロいな。
長い金髪にヒラヒラのエロいミニスカ。さすがはエルフだ!
異世界ファンタジーに転生して良かった。
金髪のお姉さんは魔女の正面に着座して大魔王の像に向かい何か儀式の様なあいさつをしている。
やはり魔女は格の高い存在のようだ。
「こちらのラ・デは私の曽祖母(そうそぼ)でエルフの女王だぞ、子供よ」
「ブッ!」大婆(おおば)ぁちゃんだと??
どう見ても10代の若さだ。
「ふっ、驚いた様だな小僧。今夜相手をしてやっても良いぞ」
いや断る。
金髪のエルフがニコリと微笑み巨にゅ…胸を張って言う。
「よかったな、大婆(おおばば)さまには御子(みこ)が300人も居(おられ)るからな。ベテランだぞ子供よ」
いや、ベテランはけっこうです。
「しかし、まさか俺を殺そうとしたアンタが助けてくれるとはな」
金髪エルフは身を正して答えた。
「お前は命がけで私を助けてくれた恩人だからな」ニッコリと微笑んだ。
いやカワイイな。
彼女は怖い印象だったが、いい娘だな。
「いやあ、俺は別に…あの時はたまたま」
ふとあの水辺で彼女が全裸で剣を振りかざした時に、つい凝視(ぎょうし)してしまったシーンを思い出し
「ぶははは!」と、いきなり魔女が笑い出した。
ぎゃ!魔女め、また俺の記憶を見やがったな。
金髪娘の名前はシャル。
森の魔女はラ・デと呼ばれている。
“ラ”とは、何かの尊称(そんしょう)らしい。という事は名前が“デ”か。
変わってるというか、原始的というか。
「八千年前の名前だからのう」
なるほど、そりゃ古い…
え?八千年?
「妾(わらわ)は7950年に、神聖大魔王様のおられる神界に連れさらわれ、そこで子供ができるまで2000年ほど仲良く過ごしていた」
2000年も魔王とナニしてたんだよ。
「ぶ、ぶわっかも〜ん!乙女の口から言えるか!」魔女は顔を真っ赤にして身を捩(よじ)りながら手足をジタバタさせた。
駄々(だだ)っ子かよ!しょうがねぇ嫁だな。
魔女はガバッと起き上がり、身を正して話を続けた。
「それ以来、妾(わらわ)は魂につながる神通力が備わり、成長も止まり、我が瞳には神界の景色が映り続けておるのじゃ」
ふむ、なるほど神界か…ふと教会に居た赤いフードのエルフを思い出した。
「あんたと同じ瞳のエルフを知ってるだが」
魔女は驚いた表情をして眼を伏(ふ)せ黙ってしまった。
何か悪いことを言ったか…
「ラ・ソラ様を思い出されたのだぞ、子供よ」
「誰だべ?」
「ラ・デの最初の姫御子(ひめみこ)様だぞ、子どもよ」
教会に居た彼女が魔女の娘?
そうか、彼女の不思議な容姿(ようし)は神界で生まれた子供だからか。
生命すら入れ替える強力な魔力は魔王譲(まおうゆずり)の神の力なのだろう。
魔女のヤツがすっかり落ち込んで一人酒をし始めたので、俺とシャルは魔女の神殿を出た。気分を変えて少し表を出歩く事にしよう。
シャルがエルフ村を案内してくれると言う。
外に出てみると周囲は見た事も無い巨樹(きょじゅ)の森の樹(き)の上だった。
意外にも広い、クリーム色の板状の平地がある。よく見ると藤細工の編み物を頑丈に重ねた板だ。
巨樹(きょじゅ)の森にツリーハウスや連絡橋(れんらくきょう)が組み合わさせて村を形造(かたちづく)っている。
さながら樹上都市というべきか。
家屋の壁や床は板状に薄く裂(さ)いた樹皮(じゅひ)を着色し、竹細工のように細かく編まれカラフルなモザイク模様になっている。
丸や四角の部屋が自在に作られていた。手に持ってみると軽くてすごく丈夫だ。
子供たちがトランポリンの様に飛びはねているが、あの部屋の床は弾力のある編み細工にしているのだろうか。凄い技術だ。
ゴモンさんから聞いてたがエルフには1000年修行を続けた金工や細工(さいく)の達人がゴロゴロいるらしい。
まさに村中が人間国宝だらけだ。
子供たちがチャンバラごっこで遊んでいるが、そのスピードもテクニックも遊びのレベルではない。オリンピック選手並みの身体能力じゃねぇか。
これが1000年単位で鍛(きたえ)たら、どんだけ強くなれるんだ。
「エルフってスゲぇな」
感心して言うと、シャルが大きな胸をさらに張って言う。
「ウチのおじいちゃんも剣術がもの凄く強いんだぞ!子どもよ」
というかシャルさんも相当強いのだが、おじいちゃんはそれより強いのか。
きっとヨーダみたいな理力(フォース)を使う仙人(せんにん)なのだろうか。
階段状の吊り橋を渡って下に降りると、広場の脇に太い蔓(つる)を編んで作られた大きな檻(おり)があった。
黒い革具足(かわぐそく)に身を包んだ若いエルフの男が牢獄(ろうごく)を見張っている。
黒具足(くろぐそく)のエルフは黒髪を背中まで伸ばし、長身で目つきが鋭い。
うわ、男もカッコイイな。まるでゲームから抜け出て来たかの様な美男子だ。
さて、檻(おり)の方から声が聞こえてきた。
どうやら『あの声』の主はここに居やがるらしい。
「あ〜ベロンさん、助けて下さい〜」
ボルゲルのアホが檻(おり)の中にブチ込まれている。
「なぁんで、お前がここに居るんだよっ、そのままエルフに食われろ」
「そんなあ〜」
ボルゲルが情けない声を出す。
ざまあみろ。
「エルフは人間なんぞ食わんぞ」
金髪スーパーモデルの横に、いつの間にか青髪の魔女が居た。
いや、アンタが一番、喰(くい)そうだけどな。
「ふん、人間を喰(く)うのはこの者どもに任せておる」
青髪の魔女は懐(ふところ)から黒いダンゴ状の動く固りを取り出した。
!まさかそれは…人喰(ひとく)い虫!
「そうじゃ。最強の防御装置だった。お前に壊滅(かいめつ)させされるまではな」
魔女はニヤリと笑った。
(あの虫の大群を操ってたのは森の魔女だったのか!)
しかし人喰(ひとく)い虫はシャルまで襲おうとしてたので完全なコントロールでは無いようだ。
何かの習性を応用して操って侵入者を襲わせるはずだ。
その「襲え」のトリガーになる条件が血液の臭いだ。
「ふむ、その考えでよろしい」魔女がユラユラと手を舞わせると人喰(ひとく)い虫は魔女の手に操られ飛び回る。
「コヤツは蟲(ムシ)どものエサにする」
「いやちょ!ちょっと待った!コイツは俺の村の仲間だべ」
「愚(おろか)な。お前は災(わざわい)を呼ぶ者どもの事を何も知らない様じゃな」
?どういう意味だ?災害級のアホというのは知っていたが、殺すのはあんまりだ。
青髪の魔女の手から離れた虫たちが檻(おり)の中に飛んで行く。
「ヒイい!」ボルゲルが悲鳴を上げた。
ヤバい!
「冷線(れいせん)砲!」虫がボトリと落ちた。
その瞬間、黒いエルフが俺の顔に金色の剣を突き付けて来た。早い!いつの間に剣を抜いたか全く見えなかった。
黒エルフは冷たい目を細めた。
「邪魔(じゃま)をすれば斬(き)る」
(…動けない)
動こうとすると黒エルフの切っ先がくっ付いて来る。
黒エルフはスラリと無防備に剣を構えている様でスキが無い。それは自然体でムダ無く変化できるという事だ。
コイツは恐ろしく強い!
「ヒイイ」檻(おり)の中では人喰い虫が飛び回り、ボルゲルが悲鳴を上げた。
クソっ!時間が無い。
俺は後ろに跳び退き鳶口(とびくち)を頭上に振り上げた。
「変身!」
「ぴぴるまぴぴるま超力招来(ちょうりきしょうらい)!!」
アニメ呪文を詠唱(えいしょう)すると鳶口(とびくちの先から光の輪が発生し、俺の全身を引き伸ばす。
手足はスラリと長く伸び、長く飛び跳ねた赤い髪、クビレたウエスト、ピチピチの小さな服からはみだしそうな大きな乳!
これでどうだ!俺の色気で!…
だが黒エルフは俺のナイスボディにも無関心で反応しない。なぜだ?!!!
森の魔女が呆(あき)れた声で言った。
「回りを見れば分かるじゃろ」
え?
振り返るとエルフ村の美男美女がひしめいていた。
クソっ!負けたか!
まぁ俺は美少女だけどな!
俺のお色気セクシー作戦が通用しないのならば、こうなったら実力行使だ!
「行〜く〜ぞ〜!だべ」俺は斧と鳶口(とびくち)の二刀を振り回して黒エルフに襲いかかった。
俺の変身後の打撃には空間操作、慣性制御の超加速が加わり超スピードで打撃を繰り出す事が可能なのだ!
だが黒エルフは俺の速攻をいとも簡単にフラリと避けて、足を引っ掛けて転がす。
俺は超加速の勢いでスッ転びながら二十メートルほど転がり回る。
「チキショウ、よくもやりやがっただな!」
ガバっと起きあがろうとした所を、背後から俺の尻を剣で叩いてズッコかした。
また立ち上がると、今度は足を払われる。小手を引かれて投げ飛ばされる。剣で巻かれて突き倒される。
その度に俺は盛大に地面を転がり回った。
黒エルフは、まるで達人が少年剣道に稽古をつけてやるかの様に、そのまま自然体で立っていた。
「ちっくそ〜!もう手加減しねぇど!」
(してなかったけど)
俺は起き上がって斧を大上段に振り上げた。
「ダブルトマホウク!ブーメラン」
空間操作で自在に回転するブーメランだ!
今まで多数の魔獣を倒してきた!…はずなのだが黒エルフはまたフラリフラリと超高速攻撃をかんたんに避けてしまう。
え〜?なんでや〜!!
超高速で飛んでる物をあんなゆっくり避けられるモンなのか?
「ま、ま!魔法か!きっと魔法を使っているに違いねぇだべ!
だがな!魔法ならこっちにもあるだ!」
「冷線(れいせん)砲!」
と、鳶口(とびくち)を向けた瞬間、黒エルフは二人に分身した。
「何ぃい?!!」
こんどは二人の黒エルフに同時に掴(つかま)れ投げられてまた転げ回された。
地べたから見上げると黒エルフは平然と剣を構えて立っていた。
ダメだ強過ぎる…変身してスピードもパワーも強化されてるハズなのに全く歯が立たない。
黒エルフがゆっくりと確実に近づいて来る。
歩き方で達人だと分かるレベルだ。
俺は起き上がった。
黒エルフは歩きながらこちらに切っ先を向けて来る。
次に何かしたら顔面を刺すつもりだろう。
斬るなら斬りやがれ美少女の顔面の一つぐらいくれてやる!
顔を刺される覚悟で俺は一歩踏み出し、斧を大上段に振り上げた。
(刺された瞬間に相打ちで斬る。それしか無い)
覚悟が決まれば不思議と心が落ち着いた。
なるほど、さっき魔女が言ってた無我無心(むがむしん)とはこの様なものか。
脇で観ていた青髪の魔女が、驚いて眼を見開いた。
「まさかこやつ無為(むい)無心が使えたのか…」
黒エルフが前足をフワリと踏み込んだ様に見えた。その瞬間にはもう目の前に切っ先が来ていた。
今だ!斬る!
と、思ったその時、細長い手が伸びて、ガシッと黒エルフの剣を掴(つか)んだ。
シャルだ。
黒エルフの動きが止まった。
剣を動かせばシャルの指が落ちる。
今まで冷たい表情だった黒エルフの顔から緊張が解けて、驚き悲しんだ様な表情にも見える。
ありがたい、今がチャンスだ。
今、俺が勝てる武器は何かあるか?
落ち着いて考えろ。
ふと頭の中に先ほど青髪の魔女から聞いた言葉がよぎった。
アニメのイメージをトリガーワードにする…
そうか!
「大魔法!」
一瞬、横で見ていた青髪の魔女がビクッと驚きの表情に変わった。
そうだ!大魔法が使えれば…
『大魔法は無意識下のイメージじゃ』と魔女から聞いた。
あの時、青髪の魔女は異世界を映す瞳で見つめながら、こう言った。
「目の前の事象(じしょう)なら意識的に操作ができる。
それは自分がイメージできる範囲と、魔法の対象(たいしょう)範囲が一致するからじゃ。
だが大魔法は目に見えない広範囲の力、宇宙の流れを使う。
そのためには自分自身の精神が全宇宙と同化する必要がある。
それが『真空の無』じゃ」
自分が『真空の無』となれば全宇宙の流れは我がエネルギーとなる。
孟子はそれを『浩然之気(こうぜんのき)』と言った。
「無為(むい)自然の循環する流れ
その宇宙のパワーの舵取りがこの魔王の杖じゃ。
全世界の強大な流れを一つの方向に向ければ無限力の大魔法となるのだぞよ」
魔女はそう大魔法の原理を語っていた。
だが、その大魔法を発動させるためには
『宇宙の流れ』と術者の
『宇宙のイメージ』
が一致しないと力は発揮されない。
今までは誰もそれができなかった。
そりゃそうだ。大魔法のイメージなんて誰も知らないはずだ。
だが、そのトリガーワードこそ、俺が前世で観ていたアニメや特撮のシーンと、たまたま同じだった。
そういう事らしい。
言われてみればダブルトマホウクも冷線砲も『俺は最初から知っていた』
だから魔法のイメージが、俺のトリガーワードによって『形』として顕(あらわれ)たのだ。
(という事は…アニメの必殺技を叫べば、それが魔法の形になって顕(あらわれ)るのではないか?)
俺が知っている限りで最強の大魔法は…
無限力!
青髪の魔女は目を見開いて拳を握りしめた。
「まさかコヤツ、神界の定理を一瞬で頓悟(とんご)したのか」
俺は両手を伸ばして斧と鳶口(とびくち)を檻(おり)の屋根に向け、狙いを付けた。
「行くぞ!…」
両手の斧と鳶口(とびくち)をカチち合わせた。
「波導(はどう)ガン!!!」
一瞬、周囲の光が消え、稲妻と共に光の竜巻が飛び出して行く、
爆音と共に真っ黒な稲妻が飛び走り、
爆風で周囲の樹木の枝が折れ飛び、ボルゲルの居る檻の屋根も一瞬で弾け飛ばした。
さらに延長線にある大木を吹き飛ばし、渓谷の崖を貫通し、さらに遠く彼方の山をえぐって光の竜巻が宇宙の彼方へ飛び去って行くのが見える。
「すげ…」
自分でも驚いたが軽く叩き合わせただけで戦艦の大砲並み、いやそれ以上の破壊力だ。
こりゃ悪魔の城も落ちるワケだ。
(このトリガーワードは封印しておこう…)
自分でビビった。
「ヒイイ」と情けない声を出しながらボルゲルは飛び出し、小屋の傍(かたわら)に打ち捨てられていた古本の山にしがみ付いた。
そっちかよ!どアホう。
ちょっと呆れた。
シャルに剣を掴(つかまれ)た黒エルフは驚きと困惑で固まってしまい動けない。
勝負ありだな。
俺は変身を解いた。
シャルの勝ちだぞ、なぁ魔女よ。
振り返ると魔女は怒りの表情でこちらを見ていた。
「お前たち三人、この村に居る事まかりならぬ」
魔女はきびすを返して去って行った。
その日のうちに俺たちはエルフ村を出た。
大魔王を祀(まつ)るエルフ神殿では森の魔女がちゃっかり俺のドワーフ火酒でヤケ酒を呑んでいた。
黒エルフが着座(ちゃくざ)して言う。
「逃がしてよろしかったのですか?」
「良くは無い… が、あれで良い」
「どの様な意味ですか?」
青髪の魔女は手を止めた。
「イーグ、お前は巨人に勝てるか?」
「この命に賭(かけ)て全力で立ち向かうつもりです」
黒エルフは表情一つ変えずに即答(そくとう)した。
「勝てるか?と、聞いたのじゃ」
「………いいえ」
「ならば勝てる者に任せるしかあるまい」
「分かりました母上」
神殿の奥で黒い大魔王像と天使の少女が静かに見守っている様に見えた。
つづく!だべ
あとがき
【ボルゲルのファンタジー用語解説】
さて今回も異世界ファンタジーの基礎知識を勉強しましょう。
⚫︎ 革具足(かわぐそく)
レザーアーマーですね。
日本でも革は甲冑の部品に使われてました。
⚫︎ 無我無心、無為(むい)無心
無心とは自我が無い状態です。
自我とは自分と他が分離している状態。つまり相対です。
無為とは、無意識で自然な状態。つまり絶対です。
何も無いという事は全宇宙との区別が無い、絶対の存在とも言えます。
⚫︎ 波導ガン
アニメ界最強必殺武器の一つですね。
威力も射程距離も無限で、亜空間まで破壊するというトンデモ兵器で、地球上で使うと周囲の都市が壊滅する迷惑兵器です。
皆さんもぜひお試しください。ではまた。
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