100万年の永久封印を解除したのは”魔法使い”で”吸血鬼” 【フラスコ イリヤ】 

ふるみ たより

フラスコ イリヤ

第1話 永久封印解除

準備が整った。


長い間掛けて考案した術式を、体中に巡らせ、そして、発動させる。

 

 封印解除魔法クインタス


複雑な術式がほどけ、魔法が崩れ去る音を確認した。

――――無事、成功だ。


永い間、五感が封じられていたためか、不思議で懐かしい感覚が体内をめぐる。


―――といっても、久しぶりに耳を撫でるのは、空気が擦れる音、窓も見当たらず光源もないためなのだろうか……視界は暗転している。


首を動かそうと思ったが動かない。

目をぐるりと動かしてみるが、やはり真っ暗で何も見えない。

どこかの部屋なのだろうか。


すーっと思いっきり息を吸う。

やや埃っぽいが、これ程まで鮮烈に空気の味を感じたのは始めてだ。


そうして――ようやく体に意識を向け始めた。


 グッグッグ


体のどこを動かそうにも、全く動かない。


全身の神経を辿る。


どうやら肉体は十字架に磔にされ、そこかしこに杭が撃ち込まれ、全身を鎖で固定されているようだった。


しかし――――痛みはない。

いや、痛みはあるのかもしれない。だが――この体は既に、それに慣れてしまっている。


全身にぐっと力を入れながら、封印された瞬間を振り返る。


―――――あの日、永久封印をかけられたあの瞬間を。


彼らの封印術式は完璧に作動していた。

しかし―――肉体は封じられたが、意識は保つことができた。


正確に言えば、あの一瞬…刹那のタイミングで、脳だけは何とか魔法を発動させて保護することができた。


高等な封印魔法であったため、解除には中々に手間取ったが、色々と思考しながら封印解除魔法の考案と共に、魔力操作に魔力強化、新魔法の開発。そして魔力の貯蔵。


眠ることなく、永遠と修行を積む日々を送った。


まぁ、それも今日でお終いだ。


永く、長い拘束から解放される。


 バァリィィン!


体の芯から魔力を一斉に放出し、体中を拘束していた純銀の杭と鎖を破壊する。


破壊と同時に体にできた穴や傷は一瞬でふさがった。


体は万全。

体中を覆う骨や筋肉は、今まで封印されていたとは到底思えないほどに生き生きとしている。


なぜか、と思うだろう。


常人であれば、幾度も死んで生まれ変わっているとも言える年月。

だが何ら問題なく稼働する骨と肉。

それほどの時を経て、なぜ生きているのか、なぜ肉体は腐敗することなく、人であり続けているのか。


答えは簡単。

不老不死だからである。


そう俺「メルキオール・ウィスト」は当時不可能とされていた魔法である不老不死に到達したことと、もう一つの禁忌を犯したことで封印されたのだ。


 「さて、どうするか」


一周ぐるっと周囲を見渡す。

やはりここはどうやら部屋?のようだった。

部屋と言うよりもこれは―――。

牢獄だろうか。

そして壁には血の結界が厳重に張り巡らされている。


 「まさか――」


 ダッタッタッタッタ!!


部屋に備え付けられている金属製の扉の向こうから、複数の足音が聞こえる。

1、2――4人か。


その足音に敵意はない。


ああ、よかった、半ば諦めいたけど―。

この足音を俺は知っている。

そして近づいてくるこの気配は―――。


 ガシャ! ドドド!


扉は開けられることなく、もの凄い衝撃音と共に粉々に破壊され、部屋中にほこりが舞う。


埃の中から、少しづつ複数の人影が見えてきた。


そして、激しい破壊音に混じって、シクシクと鼻水をすすりながら泣く声が聞こえる。


懐かしい気配。


 「みんな長い間待たせたね。あえてうれしいよ」


ほこりで姿が見えない中、その人影達に声をかける。

4人が土埃の中すごい速度で寄って片膝をつき頭を下げる。


近寄った4人の名を呼ぶ。


 「トガ、ルツ、ウル、エリ」


4人は深くうなずく。


扉の破壊によって立ち籠ったほこりは徐々に落ち着いて、4人の姿を鮮明にしていった。


彼女たちは吸血鬼。

この世界で唯一と言われる不老不死の存在。

そして人類の敵。


 トガは金色の髪色で、ショートヘアー。

 スラっとしたシルエット。

 責任感が強く、皆のまとめ役。

 キリっとした顔立ちはとても凛々しい。


 ルツは銀色の髪でロングヘア―。

 中々の豊満ボディ。

 賢く、おとなしく、おしとやか。

 4人の中では一番気配りができる。


 ウルは、濃い紫色の髪で内巻きのカールがかかったボブヘアー。

 4人の中で一番背が低く幼く見える。

 元気で積極的かつ好戦的。

 ムードメーカー的な存在。


 エリは、薄い赤の髪で、長めの髪をまとめてお団子にしている。

 華奢ながら、ルツに近い胸の持ち主。

 いつも天然なのか狙ってなのか、かなり際どいところを攻めてくる。

 

あれから変わってないな。

相変わらずの、闇に溶け込む黒色の服。


彼女たちは、大粒の涙を流している。


少しして、トガが涙を拭いながら話し始めた。


 「この時をずっと待っておりました。あなたが居ないこの世界は生きる意味がないほどに。やっと――やっとです――――ウィスト様」


 「だから――様はやめてくれって言っているだろ?昔から」


 「いいえ、いけません。ウィスト様のおかげで今の私たちがあるのです」


トガが泣くのを堪えながら、そう言い終わった途端、4人が抱き着いてきた。


それをぎゅっと抱きしめ返す。


頬を涙が流れていく。


この日は一日中抱きしめあった。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る