【短編ホラー】天使様のお話

歩致

第1話E高校

新潟には私立E高校という今は無い高校の校舎が存在する。その高校は県内でも有数の進学校だったが、課題を大量に出すタイプの学校だったらしく毎年自殺者が何人か出ていたそうだ。しかし、ある年の夏休み前に立て続けに自殺者が出たそうだ。ネットでは13人も自殺したという噂もあるが遺族のことも考えてかマスコミでは詳しく報道はなかったせいで真偽は今となっては確かめようがない。その事件の後、校長や数名の教師の辞職と共に高校の建て壊しが決定した。建て壊しとともにその事件は風化し人々から忘れ去られるはずだった…。建て壊しを行っていた職員4名の自殺、その他数名の事故などがありその建て壊しは中止された。それ以来その校舎は自殺の名所として心霊スポットと県内の人々から恐れられている。


私は今、その校舎の屋上にいる。何故かって?それは…

あ、ちょうど来た。ここには肝試しで来る連中に紛れて自殺しようとする子が偶に来る。その子らの話を聞いてあげるのが私の仕事なのだ。


「やあ?どうしたんだいこんなところで。1人では危ないよ?」


「!?……誰?」


「そんなに怖がらなくてもいいじゃない。幽霊では無いよ。君の悩みを聞いてあげようと思って。」


「な、なんで?ていうかどうしてこんなところにいるの?」


「こんなところにどうしているのか、っていうのはブーメランじゃないかい?まあいいさ、私は君みたいな自殺しに来た子達の相談に来ているんだよ。街中で相談募集するよりも手っ取り早いからね。」


「な、なんで自殺なんて……肝試しかもしれないじゃない!」


「その動揺っぷりが証拠じゃないかい?それにこんな廃墟に昼間とはいえスマホ1つでやってくるのは流石に肝試しって言い訳も冗談ってものだよ。」


「……そうよ、死にたくなったの。何か悪い?自分の最後くらい自分に決めさせてよ。」


「ふふ、言ったじゃないか。私は相談にのりに来ただけ、別に君が死のうとするのを止めるつもりも説得するつもりもないよ。」


「信用しろっていうの?」


「むしろ今から死ぬ君がそんなこと気にするのかい?」


「わかったわ。相談に乗ってもらおうじゃない。」


「ふふ、いいね。さ、こっちに来なよ。いい景色を見ながら話そうじゃないか。」


「なんでわざわざそんな端っこに行くのよ……。」


「まあまあ、気にしない気にしない。じゃあ1つ目。どうして君は死のうと思ったんだい?」


「あ、そういう感じなのね。まあいいわ。裏切られたのよ、周りのヤツらに。」


「裏切られたってのは?」


「冤罪よ、冤罪。高校でやる文化祭のためにみんなから集めたお金が無くなったの。それで、それで私が盗んだんじゃないかって言われて。当然私は否定したわよ?その無くなった日はほとんど友達と一緒にいたし、それ以外の時間も先生に呼ばれたりしていなかっただけなの。なのに先生も友達だと思っていた奴らもみんな私ならできるかもって、庇ってくれたりしなかった。だから、裏切られたんだ。」


「ふーん?一応聞くけど君が二重人格で実際はやっていたっていう可能性は否定できるのかい?」


「とんでもない言い草ね。でもそれもないわ。だって犯人はもうわかっているもの。」


「へぇ?一体誰だったんだい?」


「学級委員長よ。あいつわざわざ自分から言いに来たのよ。でもこの状況じゃ私が何言ったって誰も信じない。だったらいっそ死んであいつらに一生物の後悔を植え付けてやろうかと思ったのよ。」


「ふーん。思ったよりもつまんない子なんだね君。」


「は?バカにしてんの?」


「違う違う。いいかい、君は本当に裏切られていたのかな?君は話を聞く限りみんなから好かれていた方だ。それがなんの前触れもなく裏切られるというのは少し考えにくい。それに教師もグルというのがおかしい。教師なら共犯者になるよりも傍観者になる方がよっぽどいいからね。」


「じゃあなんだって言うのよ!私がみんなから裏切られたのは事実でしょ!」


「そこだよ。どうして裏切られたと思っているんだ?むしろドッキリと聞いた方が納得のいく内容だ。私の思うに君はドッキリにあったんじゃないかな?委員長が君に話に来たのはネタばらし、でも君はそれを最後まで聞かずに裏切られたと思い帰ってしまった。そして今に至るというわけだ。」


「そ、そんなこと……そんなことあるわけないじゃない!」


「どうしてだい?私の話は否定する材料は無いはずだよ?むしろ今君は心の中でどこか納得いっていることがあるんじゃないかい?」


「そ、それは……。なら、なら私がここまで来て死のうとしたのってなんだったのよ……。無駄だったっていうの?」


「いやいや、無駄じゃないさ。私という素晴らしい存在に出会えたんだ。むしろいい経験をしたと思えばいいんじゃないかな?」


「はぁーー死のうとしていたのが馬鹿らしくなってきたわ。」


「そんなものさ。どうだい?心は晴れたかな?」


「ええ、なんだかスッキリしたわ!これからも何とかやっていけそうな気がするわ!」


「そうかい、なら良かったよ。私も相談に乗ったかいがあったってもんだ。ところで私の相談にも乗ってくれないかな?」


「ええ、力になれるかは分からないけど私も相談に乗るくらいならいいわよ。」


「ふふ、良かった。時に君、どうして新潟はこうも雨が多いのか知ってるかい?」


「え?うーーん、あんまり深く考えたことなかったけど地形的な問題じゃないかしら?」


「うん、そうだねそれもある。」


「それも?」


「そ。もう1つの理由っていうのが新潟には昔から人身御供があったって聞いたことあるかい?昔から新潟は川がよく氾濫するくらい大量に雨が降っていたんだ。雨は作物を育てる恵みの雨であると同時に川の氾濫を引き起こす死の雨でもあった。そこで昔の人達は村の人間を神様の生贄にして雨の量を抑えてもらったんだ。神様は人間の生贄欲しさに新潟を守護してきているんだ。」


「なにそれ?オカルトにも程があるでしょ……。ていうかどうやって昔の人達は雨が神様の引き起こしたものって知ったのよ。」


「簡単な話だよ。神様は使いを人間達の元へ遣ったのさ。そして氾濫をやめさせたければ村の人間を生贄に捧げよってね。」


「酷い神様もいたものね。でも昔ってことは今はもうやってないんだ?」


「そうだね。この現代じゃ生贄なんてなかなか無いからね。そのせいで新潟では雨が多いって言われてるのさ。」


「ふーん?あんまり信憑性がない都市伝説みたいな話ね。……それで、あなたの相談って?」


「うん?そうだね、僕はその神様の使いなのさ。現代での僕の使命は神へと生贄を捧げること。これがなかなか難しいんだよ?この現代で死んでも問題のない人間って意外といないし神様は偏食家だから適当なホームレスの魂持っていく訳にもいかないしで。」


「な、なに……を?」


「だからね?君は生贄に選ばれました!やったね!じゃ、ここで死んでおくれ。」


「………え?き、キャアーーーーー!」



「ふぅ、やっと仕事が終わったよ。人生を諦めた魂より生きる活力に溢れた状態からドン底まで絶望した新鮮な魂がいいだなんて天使も楽じゃないね。」



本当に恐ろしい存在は噂なんて立たない。何故ならば噂をたてることの出来る人間は全てこの世からいなくなるのだから。

もしも私が怪談として語り継がれるのならその時の教訓は死のうとしてる人間に優しい奴は信用するな、かもしれないね?



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【短編ホラー】天使様のお話 歩致 @azidaka-ha

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