体育編



次の日学校へ行くと、もう姫宮さんと天音さんが登校していて、姫宮さんの席で話している。


『お、おはよう。2人とも』

『鈴、おはよう』

『すーちゃん、おはよ〜』


勇気を振り絞って挨拶したのに呆気なく返され、少し驚いてしまった。それに安堵した私は気を取り直して、先生が来るまで3人でとりとめのない話をする。


天音さんからは特に何の言葉もないまま、授業が始まった。私は警戒心を強めていたが、何事も起こらなかったことに、戸惑いを隠せなかった。昨日の出来事は、幻想だったかのように思えてしまう。だけど昨日起きたことは紛れもなく事実だし現実だ。

そう悶々してると体育の時間がやってきて、更衣室まで移動することになった。



『すーちゃんってずっと思ってたけどお胸大きいよね〜』

『!?』


え、ちょ、姫宮さんなにしてるの。いきなり着替えている最中の私のおっぱいを揉んでなにを言ってるんだ!?


『ん...///ひ、姫宮さん!?ちょ、やめ』

『あーちゃんはちっちゃくて揉みごたえないないけど、すーちゃんのは揉みごたえしかなくて気持ちいいね〜』

『小羽!なに言ってるんだ!?しかもなんで鈴の胸を揉んでいるんだ!?』

『天音さんはこんな時に来ないでー!』


天音さんまで来て更衣室は更にカオスになっていく。って、どさくさに紛れて天音さんまでおっぱい揉んできてる!?


ひとしきりおっぱいを揉まれた私は、満足したのか揉むのをやめた2人とグラウンドに向かう。到着すると同時に授業開始のチャイムが鳴り響く。 (危なかったぁ...おっぱい揉まれて遅刻とか最悪すぎでしょ...)


『ではこれより、体育を始める。まずは2人1組になって準備運動だ。早くペアを作れー』


体育の先生が口にした一言に私は、深い絶望感に襲われる。心の奥底に眠らせ、鍵を閉めたはずの小中学校時代の記憶が、再び蘇り始めた。


あの時、誰とも組めずにひとりぼっちでいるという孤独感は、今思い出しても辛い。

しかも、中学の頃なんか女子の人数が奇数だったのに、私は先生とペアを組まされた。ペアを組めと言われているのになぜか3人組を作る馬鹿のせいで、私だけがひとりぼっちであることの意味がわからなかった。だからその日から体育がある日は全て休んでやった。


『鈴!早く私と組むぞ!』

『!!!』


そうだ!私には可愛くて性格もいい友達ができたんだ!姫宮さんは瀬名さんと組んでるしまぁ、天音さんでいいか。


『おーし、ペアを作ったやつから準備運動始めろー。このクラスには外部生は中西しかいないしやり方の説明は不要だな?中西はペアに聞いて一緒にやれよー』


先生に言われてペアストレッチがはじまる。うぉぉぉ、ペアストレッチなんて初めてだ!そうワクワクしてるのも束の間、


『痛い痛い痛い痛い!!!』

『いや、まだいけるぞ鈴!あと10回だ!』

『むりむりむりむりむり!』


なんだこれは、まず始まったのは前屈からで、足を伸ばした私の後ろに天音さんが立ち、ありえないくらい前に私の背中を押してくる。体がガッチガチな私には単なる地獄だ。体を前に倒して、戻してを20回ほどしたら交代らしい。

交代した私は気を取り直して仕返しするために、全力で天音さんを押す。


『は!?天音さん柔らか!』


だがそんなものは通用しないと言わんばかりに、天音さんは人間ができる最大限まで前屈をしてくる。ぐぬぬぬぬ...


その後もペアストレッチを続けた。最後のペアで背中合わせをして腕を組んで相手を交互に持ち上げるやつは、みんなからの視線がすごい刺さって怖かった...


『やっぱり鈴は胸が大きいから皆見られやすいな、みんな鈴や瀬名のことを羨ましがってるよ。私の鈴に対して変な視線を向けないで欲しいけどね』


天音さんにそう言われて納得いった。みんな私のおっぱい見てたのか。天音さんの最後の一言は無視しながら、同じくストレッチが終わった姫宮さんと瀬名さんの方へ向かう。


『すーちゃん、次は私と一緒に組もうね〜』

『お、お手柔らかに...』

『鈴ちゃん、次は私と見学してよっか』

『え、いいの!』


そう冗談を言い合っていると先生から招集がかかる。


『おし、ストレッチも終わったし今日は50mのタイムを測るぞ』


50m走かぁ...最後に測ったの何年前だっけ...ペアと走るらしいから天音さんと並びながら考える。うーん...5年前かなぁ?いや、小学6年が最後だから4年か。


『鈴、次私たちの番だぞ』

『うぇ!?』


考えてると私の番になっていた。ワタワタしながら腕を構えながら隣を見ると天音さんが陸上選手がやってるみたいな格好で待機している。なんだっけ、クラッチスタートだっけ?


『みてみて寝夢ちゃん!すーちゃんの待機ポーズ可愛いよ〜!』

『へー、今どきクラウチングスタートしない人いるんだ...』


って声が聞こえて私は場違いなことに気づき、慌てて天音さんの見よう見まねでなんちゃらスタートの姿勢をとる。


「On your marks・・・set」

パァン!


ワタワタしてると始まった。出遅れた私は一生懸命走るが、天音さんとありえないくらい差が広がる。


『あっ!』


転んでしまった。おっぱいのせいで足元にある石が見えなかったのだ。急いで立ち上がるも走り直すも、天音さんはとっくにゴールしていた。頑張ってゴールするも結果は15.7秒だった...転ばなくても多分10秒くらいだけどね。それに比べて、天音さんは6.4秒らしい。早すぎやろ...


『鈴!大丈夫か!?血出てるじゃないか!?保健室へ行くぞ!』

『これくらい水で洗えば大丈夫だよ』

『だめだ!行くぞ』


そう押し切られ、保健室に行くも保健室の先生はいなかった。少し待っても来なかったから仕方なく勝手に絆創膏とか拝借して処置する。


『鈴...私のせいで転んでしまったんだろう?ほんとにすまない』

『え?なんで天音さんのせいなの??』

『私が昨日あんなこと言ったからだろう?そのせいで私と一緒にいて考え事をしていたんだろう。そんなことになるくらいなら昨日のことは忘れてほs...』

『いや、違うけど』


足にあった石のせいだと説明し天音さんの誤解を解く。天音さんは私の言葉に安堵の表情を浮かべ、少し笑ってから言った。


『じゃあやっぱり今のはナシで。昨日のことは本気だからきちんと考えてほしいな』


こいつはこんなやつだったわ...




あとがき


こんにちは、ツナ缶です。7話までお読み下さりありがとうございます。星マークやいいねも着実に増えて嬉しいです。


昨日言っていた週間ランキングもさっき見たら489位から322位まで上がっていてモチベすごい上がってますありがとうございます。


ここで少しお知らせなのですが、9月からひと月ほど結構大きめの用事が入ってて更新頻度が少し下がると思います。一応週3以上更新したいとは思ってるのですが毎日更新できなくてすみません。次回も楽しみにしていてください。

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