君を想うために、息をする
常夏真冬
恋というものは単純で複雑だ
恋には消費期限がある。
「今日は天気がいいね」
「そうだな」
それが切れた恋は美味しくないただの廃棄物となる。
「私たちもうだめだね」
「そうだな」
好きだよ、愛してる。というチープな言葉に満足できなくなった俺たちは体を何度も重ね合わせた。
そしてそれにも満足できなくなった。
恋愛のその先にあるのは何なのか? それはただの無味無臭の恋が残るだけだ。
幸せな結婚も、健やかな家庭も、静かな老後もこの相手と歩む想像ができなかった。
一時の気の迷いで起こったこの恋慕はいともたやすくただの無関心へと成り果てた。
「じゃあね」
「ああ」
薄い紙くらい軽い別れ、この恋もそんなふうに軽かったのだろう。
日光が眩しい部屋でそう思った。
「あなただっていつも遅れるでしょう!」
「そうやって自分の事を棚に上げて恥ずかしくないのか」
また始まった。
耳の鼓膜が破れそうなほどキンキンする母の声と一切感情の籠もってない父の声。
流石に飯を食べているときにはくだらない痴話喧嘩をしないで欲しい。
それに大抵この喧嘩は気持ちの悪い集結を迎える。
「ごめんなさい……私が悪かったわ。あなたのことが好きよ。嫌いなんかじゃないわ」
「俺の方こそ悪かった。愛しているよ
目の前で抱き合う二人を見て本当に気持ちが悪いと思う。
能面を貼り付けた顔で薄らと笑う父と
愛しているなら小さいことで喧嘩をするなよ。今回のことだって連絡を怠っていなかったら免れたことだ。
安い言葉で終わる喧嘩なんて二人の一生の発展になど成り得ない、ただの無駄だ。
だがそんな光景を見て酷く焦燥に駆られたのは気の所為では無いだろう。
――君に会いたい。
そう思ってしまった。
誰も居ない部屋に佇む。
「ユリ……」
いつもこの部屋にいたあの人が居ない。
君がいない。
そう思うと心臓がぎゅうっと掴まれるような感覚が俺を襲った。
いつもどうやって寝ていたっけ。いつもどうやって歩いていたっけ。
あれ? どうやって息をしていたっけ。
ぜぇぜぇと呼吸をしながら俺は玄関に向かう。
なんとなく君がいる所は分かっていた。
俺は夜の街に駆け出した。
「ユリっ」
「ルイ。やっぱり来たんだね」
ユリは俺が来るのが分かっていたかのように近づいてきた。
彼女の顔を見るだけで俺の存在意義が溢れるような、そんな錯覚を覚えた。
君のために生きたい、君の側にいたい。
ずっと。
「会いたかった」
「ええ。私もよ」
夜の神社の前で俺たちは抱きしめ合う。
結局俺はユリがいないと駄目なようだ。
好きという言葉では表せないこの恋慕はまたいとも容易く燃え上がる。
「好きだ」
幾度となく吐き出した言葉をもう一度言う。
何度も何度も言い合った言葉だ。
「私も好きよ」
青白い月光が俺たちを照らす。
歩くと砂利がザリザリと音を鳴らした。
「君はここから落ちてきたんだよね」
ユリと出会った日、彼女は神社の階段から転がり落ちてきた。
それを受け止めてすべてが始まった。
「ええ。また落ちてみるのも面白いかもしれないわね」
とすっ。
「そう、だな……また受け止めるから。ユリのこと……」
多分俺は君を想うためにこれからも呼吸をするのだろう。
またチープな言葉を君に吐き続けるのだろう。
朦朧とする思考の中、思った。
「ええ。私も愛してる。殺しちゃうくらいに。待っててルイ」
たまには真面目なのも書かなきゃね。
感想待ってます。
君を想うために、息をする 常夏真冬 @mahuyu63
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