金蛇
黒芝 百次郎
序章
俺は、高橋等。五十四歳、ごく普通の営業職、事務所勤めで、大して力もいらず、頭も必要ない。正直、若い頃から続けているプログラミングの知識など全く必要ない仕事を延々と繰り返している。有り体に言えば、どこにでもいるような普通のおじさん、冴えないサラリーマンである。
趣味は車とオートバイ。空冷エンジンの美しさに魅せられた、典型的な昭和の人間である。
なるべくトラブルを起こさず、周りにいる若い人達に迷惑を掛けないように生きている。数名の部下を持ち、彼らが如何に評価を上げられるか、いつも気にかけている。まあ、いいおじさんを演じているわけである。
楽しみといえば、ガレージに大人しく佇む車やバイクを手入れしたり、少し走らせたりすること。毎日通勤に使っているバイクは、手入れが行き届かないことがある。不憫でならないが、日々の激務を理由にサボっている。
「今度の土曜日にピカピカにしてやるからな。辛抱して俺を会社に連れていってくれよ。」
独り言である。最近増えた気がする…。
今よりも若い頃は、各地の美味しいものを食べ歩くことも趣味の一つであったが、最近は妻が作ってくれる料理の良さが分かるようになり、家で食事することが楽しみな毎日である。何とも退屈で平凡なおじさんであることか…。そう思うこともあるが、それなりに幸せでもある。
俺の家族は、妻の静香、娘の瑠奈、柴犬のジョニー。妻は中学のときの同級生、娘は大学二年生、ジョニーは十三歳である。
娘の瑠奈は、県外の大学に通っており、一人暮らしをしている。看護学科で、日々勉学に励んている。はずだ。俺によく似て、車やバイクが好きで、アルバイトで貯めたお金で、最近バイクを買ったそうだ。先日ラインで写真が送られてきたが、不鮮明で車種は不明。夏休みには家に帰ってくるだろう。
俺の家には、妻とジョニーしかいない。少し寂しく感じることもある。ジョニーは、娘の瑠奈によく懐いている。妻には愛想を振りまくが、俺には餌をもらうとき以外、まったく興味を示さない。少しくらい懐いてくれてもいいのに…。
妻は、本当によくしてくれる。中学のときに知り合い、そのまま結婚した。今だに愛想を尽かされることもなく、仲の良い夫婦であると自負している。たまに、調子が悪いときがあり、一日中看病しなくてはいけないときもあるが、休みには夫婦揃って食事に行ったり、映画をみたり、ごく普通の生活を送っている。俺の趣味のバイクにもケチをつけることもなく、黙って認めていてくれる。ただ、車には一家言あり、俺が知らない間に、旧いシトロエンを買ってきたこともある。曰く、
「車はハイドロじゃなきゃね!」
だそうだ。壊れそうな車なのに、何故か調子が悪いところをみたことがない。ガレージには立派な工具セットが備えられており、簡単なメンテナンスくらいは自分でやっているそうだ。あまりに立派な工具セットなので、俺のバイクをメンテナンスするときに、拝借している。冷たく、美しく手入れされた工具は、使うほどに手に馴染む。使ったあとは、ウエスできれいに拭き上げてから元に戻している。磨いた金属は美しい。そんなふうに考える俺は、きっとおかしいのだろう。
そんな俺にも、苦手な奴はいる。飽きもせずネチネチと嫌味を言ってくる上司などは、その筆頭である。こんな奴、いなくなればいいのに…。などと夢想してみるが、いざとなると文句のひとつも言えない。情けないが仕方ない。
仕事は収入のためと、嘯いてはいるものの、俺にも感情というものが少し残っている。大声で叫びだしたくなるのを必死でこらえる毎日である。
七月のある日、いつもと変わらず、俺は出勤しようとしている。
「また、会社か…いつまで続くんだろうな。あと五年は働かないとな。家族を養っていくってのも、結構大変なんだよな。今日も嫌味を言われるんだろな…。正直、辛いんだよ。」
既に憂鬱な気分になっている。考えなければいいのに、出社前には必ず思い出してしまう。これを他人に愚痴って同情してもらったら、それはそれで恰好が悪い…。恥ずかしいだろう。
人に打ち明けて、ストレス解消とならないのは昔からだ…。損な性格である。
「仕方ない。行くか。」
俺は、夏でもバイクに乗るときは長袖、少し厚手のジーンズ、革のグラブを必須と思っている。当然暑い。更にフルフェイスのヘルメットも被る。エアコンはついていない。普通に考えて、不快なものを全て身につけるわけだ。しかし、これを不快と言ってしまうのは癪だ。大して痩せていないが、ここは痩せ我慢している。
薄手のジャケットに袖を通すと、じんわりと汗が滲んでくる。ヘルメットを被り玄関のドアに手を掛ける。
「今日も暑くなりそうだな。」
一歩外に足を踏み出し、バイクの鍵を忘れたことに気づく。
「まったく私としたことが。」
最近、こういうことが増えたな。やたらと、
「私としたことが…」
という台詞を多用している…。某ロボットアニメの準主役の口癖が伝染ってしまったようである。俺は影響されやすい。しかし、物忘れが酷くなりつつあることは、どれほど妻から指摘されても否定したくなる。それは、歳と共にやってくる衰えを、どんな言葉を弄してでも認めたくないのである…。
バイクの鍵をとりにリビングに引き返すと、妻がテレビの前で気だるそうな表情をみせている。元々低血圧なうえ、ここ一週間位、妻の静香は調子が悪く、なかなか起きてこない。今日は珍しく俺と同時に起きてきていた。心なしか顔色がいいようだ。少し眠そうにテレビを見ていた妻は俺の姿を確認すると、
「おはよう。今から仕事?大変ね。朝ごはんも作らず、ごめんね。明日からは朝ごはん作るからね。」
と話しかけてくる。やはり、昨日よりも声に張りがあるように感じる。
「うん。いいんだよ。明日の朝ごはん、楽しみにしてるよ。それより、調子はどう?無理しないようにしてね…。じゃあ、行ってくるね。今日も暑いから気をつけてね。」
と、妻に声をかける。本当に心配している。嘘じゃない。
ついたままになっているテレビの画面を何気なくみると、一直線に伸びた二車線の道路上に、白と赤に塗り分けられた大型バスが大写しになっている。ヘリコプターからの空撮なのだろうか、時折ノイズが入って解像度も低く感じられる。カメラの向きが変わると、バスの前方に乗用車が原形をとどめないように横たわっている。わずかに白い塗色だけが判別できる。リポーターが事故の状況を早口で説明しているが、ゆっくりテレビを見ている時間はない。急いで玄関に向かおうとしたとき、妻が、
「酷い事故ね。正面衝突だったって。乗用車の人、心配ね。」
気だるそうに呟く。まだ、調子は完璧ではなさそうだ。
「この事故で乗用車を運転していた岐阜県岐阜市の川崎慶次さん46歳が救急搬送されましたが、病院で死亡が確認されました。死因は…」と、リポーターの声が飛び込んてきた。
俺は、一気にテレビの画面に引き込まれた。
「何だと…?嘘だろ?」
出身地と年齢と名前が同じであるだけだ。年下の、くそ忌々しい上司であるはずがない。そう、あんなやつが死ぬわけがない。殺したって死なないような男だ。少しくらい会社を休んでくれると嬉しいのに、めったに休まない、鬱陶しさだけが取り柄のような男だ。
「風邪すらひかないのに、死ぬなんてあり得ない。あいつじゃない…。そんなに都合よく…。」
そう思い込むことにして俺は玄関を出た。何か不吉な予感がする。別人だと思ってはいても、 胸騒ぎが止まらない。あんなに嫌っていたのに、事故の当事者かも知れないという状況では心配してしまう。俺はお人好し過ぎるようだ。正直にざまあみろ!と叫ぶことができない、いい人ぶっている自分に少し腹が立った。
ひとまず上司のことは忘れよう。仕事に出掛けることとする。人違いであるはずだ。自分に言い聞かせ、バイクに跨りキーを回す。
今日も快調にエンジンが掛かる。手入れも十分にしていないのに、一切クズることもなく呆気なく目覚める。人間なら、少しくらい文句もいいたくなるだろう。機械というやつは、常に人間の命令通りに動く。少し後ろめたさを感じる。最早バイクを擬人化しているみたいだ。
規則的な振動を感じながら、軽いクラッチレバーを握り、ギヤを一速に入れる。ドッグミッション特有の軽いショックが左足に伝わってくる。ほんの少しスロットルを開けながら、そっとクラッチを繫ぐ。住宅地では、最低限のマナーである。
動き出したら、すぐにシフトアップを繰り返し、できるだけエンジンの回転数を低く抑える。近頃のエンジンは、本当に静かだ。水冷だと尚更、低回転時のメカノイズもほとんどない。通勤の手段として、これ程優れた乗り物は他にないと思う。
電車で通っていたときは、周りに人がいっぱいで、リラックスできる環境ではなかった。妻の静香が、
「お父さん、ガレージに飾ってあるバイクで仕事行ったら楽なんじゃない?ほら、会社までの距離って、電車で行くより近いんじゃない?」
その発想はなかった。会社は電車で通うものと決めつけていた。バイクが楽な乗り物であることよりも、楽しい乗り物であるという、ごく簡単な理由で、俺は次の日からバイク通勤を始めた。朝起きる理由ができたような気がした。
そんなことを考えながら、バイクを走らせていると、ふと、上司の川崎に呼ばれた気がした。早く出社しろとの課長命令だ。
せっかくの充実した朝の時間を邪魔されたようで、少しイライラしてしまう。
「勤務時間外だ。邪魔すんなよ…。少しくらい早く出社して何しろって言うんだよ?」
薄っすら浮かんでくる汗を拭いながら、いつものように事務所の自分の席につくと、妙に騒がしい。何かあったのか?隣の席にいる女性社員にたずねてみると、
「高橋さん、聞いてないんですか?川崎さんが亡くなったんですよ。北海道に出張で出掛けてて…でも目的地…釧路なんですけど、何故か函館で自動車事故って…。」
ここまで喋って女性社員は慌てて口を噤んだ。この部署を統括する部長、小林が入ってきていた。かなり憔悴していて、顔に血の気がない。めったに俺達の事務所に顔を出さない小林であるが、職場の皆を集めると神妙な面持ちで切り出した。
「皆さんに悲しいお報せをせねばなりません。
皆さんの上司である川崎君が、本日早朝、事故により亡くなりました。会社からの出張中であり、遠い北海道の地で無念の死をとげられたのです。詳細はまだ判っておりません。」
小林部長はここで言葉を切ると小さく咳払いをしてこう続けた。
「皆さんは、通常通り業務を続けていただき、静かに彼の冥福を祈って欲しいと思います。混乱するのもわかります。しかし、決して大騒ぎしないよう…私からのお願いです。」
そう語った小林部長の目には、薄っすらと涙が浮かんでいた。この部長とは入社して以来、ほとんど関わったことがない。どんな人物なのかも知らない。今日の態度をみていると、誠実そうな人だとわかる。…ような気がする。
俺は、川崎から目の敵にされていた。何をしても人前で叱責され、無能扱いされた。成果が上がったときには、俺の作った報告書の作成者欄に川崎の捺印があり、承認者の欄にも川崎の捺印が…。俺が時間をかけてデータを集め作成した報告書を、いかにも自分で作成したかのように、意気揚々と上に報告するようなこともあった。そのあとは、きっちりと俺の報告書にちまちまと文句をいう。どういう精神構造をしているのか?分解して解析してみたくなることもあった。人間、ここまで浅ましくなれるのかと心の底から軽蔑していた。誇張ではない。
川崎が俺の直属の上司になってから、俺の評価は下がる一方であった。川崎の失敗を、全て俺に押し付けてくるからだ。平気で嘘をつける、ある意味恐ろしく強いメンタルの持ち主である。お世辞ではない。
仕事は収入が目的であり、人との関係などどうでもいいと考えることにして、心の平安を維持してきた。会社では、誰にも愚痴を言わずに…。
地元名古屋の無名の大学を卒業したあと現在の会社に入り既に三十年がすぎ、それなりに仕事をこなしてきた自負はある。特に統計学的な数字を読む力は誰にも負けないと思っている。
営業職である俺の職場には統計は必要ないというのが川崎の持論であった。そんなことに割く時間があれば営業に行くべきだ。
数字を読んで効率化するという俺のやり方とは相容れない。何時しか俺は川崎の攻撃の対象となっていた。川崎とは思想が相容れない。俺は、仕方なく彼の指示に従っているが、それとて彼には気に入らないことの一項目になっているようだ。
どこの職場に行っても、この手の人は必ずいるもんだと諦めるしかない。そう思っていた。
先日も川崎から一時間ほど説教を受けた。下らない話を延々と…。 ほとんど俺は聞いていなかったが、後輩たちが後ろで聞いている。
やっと解放されて席に戻ると、
「高橋さん、大丈夫ですか?あんなに言われて…俺ならメンタルやられてますよ。」
などと後輩が声をかけてくれる。
「平気さ。現にこうして君たちに声をかけてもらえている。俺は幸せ者だよ。」
俺はこう答えたが、やりきれない思いが湧き上がってきていた。やりきれないのだが、一時間、何を言われたのか全く覚えていない。
こんなとき俺は、早めに退社しバイクを走らせ、どうということのない都会の景色を眺めるのを日課にしている。感動するわけでもないが、怒りや哀しみのような感情が、すっときえていくようで、心地よさを感じるのだ。喜怒哀楽のうち、怒と哀だけが突出するときはいつもそうしている。喜と楽って、なかなか表に出しづらい。意識せずにやれる奴をみると嫉妬すら覚える。こいつ凄い!と…。
職場でのことは、気にしないようにしてきたつもりであるが、家で酒を飲み少し酔ったとき、妻に川崎のことで愚痴をこぼしたことが数回だけある。
妻は、俺のそんな話を親身になって聞いてくれた。話したところで何の解決にもならないことは重々承知の上だ。それでも俺は妻の前で延々と話し続け、妻はそれに相槌を打ってくれた。俺が話すことによって、妻にストレスを与えていることも、妻はこんな話をききたくないであろうことも、分かっているのに愚痴が止まらなくなる。情けないと思うが、どうしようもなく話したい。一方的に喋って、酔っ払って眠りにつく。迷惑な男だ。
妻の膝の上には柴犬のジョニーが大人しく座っており、二人で話しを聞いてくれているようで、微笑ましくもあり俺は満足していた。仕事中だというのに、家族のことを思い出していた。平和な時間である。
そんな川崎はもういない。不思議なことに、妙な淋しさを感じている。今となっては、彼の小言も少しは聞いてやればよかったなどと考えてみる。説教を少しも覚えていないのも問題だな。生意気な年下の上司であり、俺とは考え方も違い、後輩たちの前で延々説教してくるような男ではあったが、仕事はしっかりする男だ。ある意味、尊敬していた面もある。嫌いではあったが…。
「これからどうなるんだろう?」
形のみえない不安が俺を襲う。
「あいつのことは嫌いだったが、頼りにしてたんだよな。しかし、清々するよ。あばよ。あの世で鬼にでも説教して、逆にぶちのめされてこい。世間は俺みたいなお人好しばっかりじゃないことを思い知れよ。」
独り言を呟き、パソコンの画面に集中する。目の前の仕事を、まずはこなすことにする。川崎から指示されたくたらない仕事ではあるが、何故か今やらなければならないように感じていた。嫌いな上司への鎮魂歌?のようなものだ。
いつもより集中していたせいか、データを整理しているときに、おかしな点に気づいた。どうしても合わない。いや、合っているようにみえるが、巧妙に何かが仕掛けられている。巧妙に、俺が気づくように仕掛けがされている。川崎のメッセージなのだろうか?
幸い誰も俺の仕事に興味をもってはいないので、黙々とパソコンのキーを叩いている俺の姿に、異常なことがあるのに気づく者はいないであろう。
掌、指先に緊張が走る。この異常なデータを暴かれて困るやつは誰だ?川崎ではないと俺の直感が告げている。川崎は、この素人くさいファイルを俺に託し、何を伝えたかったのか?
これは、精査する必要があるな。そして、俺がデータを精査していることに気づかれてはいけない。俺は、データのファイルをコピーして、自分のパソコンのローカル環境で操作することにした。ここの社内には、俺が重要なファイルをコピーしたことに気づく者はいない。俺が管理しているからだ。
このことを知っていて、共有のサーバーにファイルを置いて、更に俺に調査するように命じたのは、他ならぬ川崎である。奴は何を掴んだんだ?俺は、少し恐怖を感じていた。何も知らないふりをして、画面をスクロールさせる。
元々、俺が作ったフォームである。異常があれば、すぐにわかる。数分間見ていると、所々に俺の作った関数とは違う、有り体にいえば、手打ちされている箇所を見つけた。これらが何を意味しているのか?
恐らく打ち込んだのは川崎である。では、打ち込みを命じた者がいるはずだ。そいつを探し出すことが、俺の使命であるように思えてきた。このデータを打ち込ませた奴は、恐らく俺に探りを入れてくるはずだ。今は、その時を待とう。
それにしても、ちらりと見ただけで数億円のズレがある。何に使ったのか?
「髙橋君、ちょっと…。」
早速、部長からの呼び出しだ。用心にこしたことはない。余りにも露骨な知らぬ存ぜぬは、却って不自然である。ある程度、川崎から命じられたことを開示する必要がある。
部長である小林の前に立つと、自然に緊張する。これは、前からそうなので不自然ではないと自分に言い聞かせ、
「お呼びでしょうか?」
俺の目の前の小林は、先程とは打って代わって落ち着き払った表情をみせている。部長の前で緊張しきっている俺とはえらい違いだ。
「髙橋君、大変なことになったね。まあ、座ってくれ。君には、これから川崎君の代わりを務めてもらわなければならない。相当辛いと思うが、会社のためだと思って頑張ってくれるか?」
まあ、想定内の話しに少し落ち着いてきた。
「自分にできることは、精一杯やらせていただきます。」
この男、何かを探ってくるわけでもなく、俺を威嚇するわけでもなく、淡々と落ち着いている。次の言葉を待っていると、
「髙橋君、君は川崎君から、随分酷い扱いを受けていたそうだね。かなり辛かったんじゃないかね?そんなことを、放置していた我々を許してほしい。彼の経歴に傷をつけたくなかったんだよ。まあ、今となっては、要らぬ配慮だった訳なんだが…。君には辛い思いをさせてしまったが、これから先、川崎君の分もやってもらわなければならないんだ。思うところもあるだろうが、一つ、よろしく頼むよ。」
一気に話し終えると、部長は、ふっと溜息をついた。演技なのかも知れないが、この男は不正に手を染めてはいないんじゃないか?そう思えてきた。あまりに誠実だ。
じゃあ、誰なんだ?数億円の不明瞭な会計が、この会社では罷り通っている。それは、残念ながら間違いない。川崎は、そのことに気づいた、或いは、直接手を染めていた。しかし、営業の課長が独断でできることではない。
もっと立場の下の者が、私利私欲でやったことでもないであろう。俺は、とりあえず当たり障りのない返答をして、その場を辞した。
もし、川崎に指示して、それなりに大きな額の不正を行えるとすれば、それは、常識的に川崎よりも立場が上の人間に違いない。
とことん追求することで、川崎の供養になるなら、そうしてもいいが、得体のしれない怪物をつつき出しそうで、正直なところ、恐怖を感じてきた。俺は、どうなってしまうのだろうか?この暑い日々を乗り越え、快適な秋を迎えることができるのだろうか…。
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