第42話
らむねとのコラボから数日後、ついにネメシスとの約束の日になった。
装備としてはほとんど変わらない。
ただ、一つだけ装備が増えた。
その装備の動作確認をすべく俺はギルドの自室で煙から託されたマニュアルを開いた。
渡された装備の名は『超魔壁シールド』。
実用的で安直な名前のこれはその名の通り盾である。らむねと戦ったあの巨人兵からドロップした魔力炉を煙がシールドに加工してくれた。
盾を左手で持ち、魔力を流すと半透明のシールドが出現した。
魔力を伴った攻撃、魔法や魔力を使用するスキルなどを防いでくれるらしい。
コアに巨人兵の魔力炉を使っているおかげで神々の攻撃も防げるらしい。
あの魔力を生み出すだけの生活用アイテムみたいなやつが戦闘用に加工できるなんてな。
煙にはあとで何かプレゼントでも渡しておくか。
でもその前に俺が生きて帰ってこなくちゃいけない。
ネメシスだけでも今まで戦った神々と同じような激しい戦いが予想できる。
今回はその上、ステンノの妹という不安要素がある。
ネメシスが彼女の封印をそのまま何も細工せず解くことはまずないはずだ。必ずこちらが不利になるような何かを仕掛けているはず。
だからと言ってこちらが封印解除のパーツをもっていかないわけにはいかない。
妹の解放がステンノとの約束になってしまった。
神々との約束は契約に近い。一方的な破棄は神々にとっては裏切られたのも同然。
俺も神2柱を同時に相手したくはない。
マニュアルを掌でもてあそびながら思考の海に沈んでいるとドアがノックされた。
ステンノがおずおずとドアを開けて覗いてきた。
「今いいかしら?」
「出発までなら時間あるしいいよ」
「ちょっとお話ししましょう」
ステンノはちょこんとベッドに腰かけた。
「もうすぐね」
「そうだな」
ステンノが妹に再開できるのももうすぐ。
俺がネメシスと再選するのももうすぐ。
現実世界に帰ってきて初めての大型クエストが終わるのももうすぐ。
「自信はある?」
「それなりに。まあお前の妹しだいだけど」
封印が説かれた妹のメデューサがこちら側についてくれるのかネメシス側に行ってしまうのか、それだけでこちらの負担は変わってくる。
「どちらにしろ。負ける気はないよ。1度勝ってるしね」
「そう。ならいいわ」
ステンノは窓の外を見上げるとぽつりと語り始めた。
「天界って知ってるかしら」
「神々が住む世界だろ」
「そう。私たちやネメシス、ニュクス、数多の神々が住まい人間界を見下ろす世界が天界なの。その世界の端にある小さな島で私たちは育ったの」
ステンノの昔を懐かしむ声は少し湿っぽかった。
「私たちは神々では珍しい『成長する神』だったの。だから様々な神たちに守られながら大人の、一人前の神になるまで静かにその島で暮らしていくはずだった」
ステンノは自分の華奢で幼い身体に視線を落とす。
「でもある日、あの子だけ連れ去られてしまった。有害だとかいわれのないこと言われてね」
「何を有害だと思ったんだ?」
「あの子の権能よ。でもあなたが力を借りている神々やネメシスよりはずっと安全なはずなの」
権能の名は『石化の邪眼』というらしい。
魔力を持つ生命体を、視線を向けるだけで石化させてしまう権能だそうだ。
それだけを聞くと確かに神々が有害だという理由にも正当性があるように思えてしまった。
不死身の対生物最強兵器には変わりはないんだよな。
「でもスライムを石化させるのでやっとの権能よ?」
「お前たちは成長するんだろ?」
「権能は成長しないわ。私もまだ成長途中だけど、権能に変化はないし」
ステンノはベッドから立ち上がるとこちらを向く。
「危険分子を排除したい気持ちもわかる。神とはいえ自分のことが一番大事だもの。でも、だからといってあの子が一生ダンジョンにとらわれるなんて理不尽を受け続ける必要はないでしょう?」
まだ幼い女神はそっと俺の手を握り、額を寄せる。
「あなたにとっては関係のないことかもしれないけど、あなたの神のお願い、聞いてくれますか?」
異世界で魔王を倒してこの世界に戻って来た俺にはこの世界に封印されていた神のことなんて1ミリも関係がない。これはただの事実だ。
でも、ステンノと出会い、黒崎さんや煙たちギルドのみんな、さらにはあっちの世界で魔王だった奴にまで出会った。
配信を始めて、変異神域に赴き神々を相手にする。その生活は命のやり取りの連続で、時に人に、時に神々に振り回されたけど、なにより、楽しかった。
この恩が返せるくらいならその程度のお願いなんて拒否するはずがない。
「妹なら任せろ。必ずお前の隣にいさせてあげるから」
俺も彼女の手を取りそう誓う。
相手が神だろうが、最悪2柱の神を相手にすることになろうが関係ない。
俺はただすべきことをするだけだ。
顔を上げたステンノの瞳を吸い込まれるように見つめていた。
突然ドアが開いたかと思うとしかめっ面のエリーが部屋に入ってきた。
「ちょっといちゃつかないでもらえるかしら」
エリーの姿に気が付いた途端、ステンノの顔に人の悪い笑みが浮かぶ。
「あら? カメラマンさんじゃない。私のケイに何か用?」
「なっ、私のって……わ、私のケイくんなんだけど!?」
ステンノの高笑いが部屋に響いた。
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