第39話

 赤く光る巨人の目が体内までも見透かそうとするように俺たちの全身を照らす。


 あいにく俺の『喚装』で呼び出せるのは武器だけ。

 目の前の奴のような無機物相手には人間が扱える武器だと威力が足らないことも多い。


 というかそもそもいかなる時も人類の味方だった神々の兵器と戦うことになるほうがおかしいんだよな。罪人ならともかく、勇者だった俺が兵器と戦う機会なんてあるはずもなかったのだ。


 防御用にデュランダルだけ『喚装』し、戦闘態勢を取った。


「らむね、準備はオーケー?」

「むしろ待ちきれないくらい!」


 目の前に迫ってくる鉄の拳に向かってらむねはステッキを掲げた。


「『三重詠唱トリプル・スペル:キャンディーフレイム』! わっはー! 溶けたんだけど!」


 ステッキから放たれた超高温の炎は巨人兵の拳を丸ごと包み込むと金属の外殻を一瞬にしてどろどろに溶かしていく。


 燃え盛る赤い球体から溶解した金属がしたたり落ちていく様はまさに飴細工のよう。

 不思議とこちらには熱さを感じさせないその光景に見とれていたのもつかの間、巨人兵の手首から先はどろどろの鉄塊となって地面に広がっていた。


『敵性体に反撃能力を確認。修正プログラムを構築します』


 機械音声と共に巨人兵は拳が消滅した腕を引き戻していく。


「こいつなんで律儀にアナウンスしてるんだろうな」

「ん~事故防止?」


 だったら神々にしか伝わらないようにした方がいいと思うんだけど。

 まあ、今はそのおかげで行動を予測できるからいいけどさ。


 呑気に棒立ちしている巨人兵に向かってらむねが駆ける。

「このままいっくよ~! 『際限なき火花の競演』アンリミテッド・ファイアワークス!!」


 らむねが詠唱したと同時にステッキから大小さまざまな大きさの球体が巨人兵の周囲に現れる。


 その数は数百。

 夜空の星のような光源が隙間なく巨人兵のまわりを埋め尽くしていく。


 巨人兵は身体にまとわりつく羽虫を振り払うように、煩わしそうに首を回している。


「『開演タクト』!!」


 らむねがステッキを振ると火球が一斉に爆発する。

 その様はまるで花火大会のごとく豪華絢爛。

 その威力は真夏の太陽のごとく苛烈。


 お腹の奥から揺らす轟音とじんわりと肌を押すような熱に身体がこわばる。


 まばゆい光と共に巨人兵は跡形もなく破壊された。

 はずだった。


「うそ……い、いちおう最大火力だったんだけどなぁ?」


 光が収まるとそこには何一つ傷ついていない巨人兵が無機質な表情のまま仁王立ちしていた。

 その表面は先ほどとは違い、赤銅色に変化していた。


『耐熱殻:動作問題なし。戦闘を続行します』

「攻撃を学習したのか……?」


 巨人兵が纏ったのは耐熱の外殻。炎熱系統はもはや効果がない。


「あぶなっ……!」


 らむねに迫る拳をデュランダルの刀身で押し返す。


「おもっ……!」


 身体じゅう骨が軋む音が響いているが何とか押しつぶされるのは防げている。

 が、無尽蔵の体力を持つ機械兵相手に消耗戦で敵うはずがない。


 押し返そうと剣を握る手に力を込めた瞬間、もう一つの拳が目の前に現れた。


「さすがに修復されんのは聞いてないかなっ……!」


 先ほどの2倍の膂力が俺の身体にのしかかる。

 頭上には確かに2つの拳が乗っかっている。


「守ってくれてありがとね! 『細氷砕き』!!」


 らむねが唱えると地面から氷の棘が巨人兵の拳を押し返すように伸びてくる。

 タケノコのように伸びた氷の棘は俺の頭上にまで達すると細かく砕け重力に逆らって巨人兵の腕に突き刺さる。


 穴だらけになった巨人兵の腕が耐えきれなくなったとでもいうようにだらりと垂れ下がる。


「あぶなー! 氷も使えてよかったー」

「3属性使えることが珍しいの?」

「そうだよ! 日本だと私しかいないんだから!」


 ステッキをくるりと回し、らむねはカメラに向かって決めポーズをとる。


「手数と種類なら自信があるんだから! まかせて!」

「なるべく攻撃されないように手数で押そう! 活路は俺が見つけるから!」

「了解! よっしゃい! いくぞーう!」


 再びらむねが巨人兵の足元へ飛び出していく。

 その後ろ姿を眺めながら俺は新たに『喚装』する。


「『喚装:アガメムノン』!!」


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