第38話
「え!? 巨大ロボって実在したの!? めっちゃかっこいいじゃん!!」
らむねがはしゃぎまわっている砂浜にはローマの剣闘士のような見た目をした巨大ロボットが胸から上を空気にさらけ出していた。
それ以外は全く普通のビーチである。
沖縄にも匹敵する水面煌めくエメラルドの海に水平線まで広がる澄み切った青空。
ただ一つ、人型の鉄塊だけが異質な存在感を放っていた。
「う~みだ~!!」
「一応変異神域だからなここ」
振り返れば俺たちが通ってきたダンジョンが続いている。
脳天を焼いてくる強烈な日光に顔をしかめながら、らむねの元へ向かった。
「なにしてんの……?」
「うん? サービスショットだけど?」
らむねは波打ち際でカメラに向かって構図を変えながらポージングしていた。
到底変異神域に来たとは思えない光景である。
ほんとにこの人Sランクだよね? ただの観光客とかじゃないよね?
「久しぶりの海だからさ~ちょっとは海っぽいことしたいじゃん?」
「一応変異神域ではあるよ?」
「まあまあちゃんと調査はするからさ~。どう見たってあのロボが怪しいし?」
決めポーズと共にらむねは巨大ロボを指さす。
確かにこの南国の神域内に怪しいものはロボしかない。
けどいつ動き出すのか、またこの神域の消滅条件がわからない以上油断はするべきではないと思うんだけど……本人に言っても無駄っぽいな。
「わかりましたよ……気が済むまで遊んでてください」
「あそびじゃないぞ~ファンサービスだから!」
「はいはい。俺はロボ調べてきます」
「いってら~戦闘になったらよんで~あたし強いから」
ため息をつき、てくてくとロボに近づいていく。
触れられるほど近づいても動き出す気配はない。
顏と思われる部分に埋め込まれた目にあたる一対のガラスも光る気配はない。
良く目をこらしてみるとところどころ錆びが浮いている胸部にうっすらと何かが彫られているのを発見した。
「──TAROS?」
こいつの名前か?
その刻印の下、小さな文字列にも目を凝らしてみる。
『神造兵器:人型青銅巨人・タイプ:エウロペ』
今回、変異神域を作り出したのは神そのものではなく、現代に出現してしまった神々が作りし大量破壊兵器だったと。
つまりはこいつを壊すか、どかすかしないといけないんだけど……なにぶんデカい。
人型ってことは確実に砂の中に胴から下が埋まってるはず。
胸から上だけでも優に3メートルはある。
全身だとそれの倍以上の大きさはあるだろう。
掘り起こせるわけがない。
「どったの~? 何か見つけた?」
「もういいんですか?」
波打ち際から戻ってきたらむねが刻印を覗き込んできた。
「サービスはしたからね~あれ? これ何?」
らむねが指差す先には巨人兵器の右腕が半分砂に埋まっていた。
その地面との境目にうっすらと刻印が刻まれているのが目に入る。
「こいつのシリアルナンバーか何かかな」
詳しく見るために砂をどけようと手を伸ばした瞬間だった。
「何っ!?」
「まぶし~! あははっ!」
刻印がまばゆい光を放つのと同時に地面が小刻みに動き出す。
復活の祝福に震えるかのように。
新たに誕生した生命の拍動のように。
立っていられないほど地面が振動し、奥底から青銅の巨体が自らの意志で這い出してこようとしていた。
全長にして約7メートルほどだろうか。
俺たちの頭をやすやすと越えていったそれの頭は上昇を停止させると無機質な表情をこちらに向けてくる。
「これまずくない?」
「まずいな……壊すしかないか」
ヴンと全身に魔力が回る駆動音と共に回路らしき紋様が表面に浮かび上がる。
『エネルギー充填率89% 魔力値:正常 通常モードで起動します』
「しゃべった!?」
ビーチに似つかわしくない無機質な機械音声と共にぎこちなく四肢が動き始める。
今なら攻撃しても反撃できない。
反撃して来ても動きが遅すぎてどうせ届かない。
頭ではそう思えても、身体が動かなかった。
その巨体からほとばしる魔力が肌を刺す。
『敵性体を発見。戦闘モードに移行します。魔力回路接続率90% 戦闘開始します』
無慈悲な宣告が波と海風の音をかき消した。
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