第29話

「エリアボスか?」

「だとしたら収穫という収穫がなくて配信的には失敗なんだけど」


 黒崎さんがいない配信だったとしても事故に近い。隠しエリアなのにありきたりすぎるのだ。

 というか今までがおかしかったのかな。変異神域内でしか配信してなかったし敵だって神話級のモンスターだったり神様そのものだったり取れ高満載な奴らと戦ってたから感覚がマヒしてるのかもしれない。


 内心視聴者に怒られないかとひやひやしながら、森林にぽっかりと空いた広場に入っていく。

 日の光が差し込んでいるのになぜか足元を這いずるような冷気に包まれている。


「気味悪いな……」


 やはりこの隠しエリアはアンデッド系モンスターの巣窟らしい。


 広場の中心にはちょこんと手のひらサイズの宝箱が無造作に置かれていた。

 蓋に印字されている文字は泥と経年劣化でかすれていたが、残った文字を見る限り俺の知っている文字ではない。


「ケイくん。お宝エリアってあるの?」

「いや、さすがに無いと思う。あれはミミックとかじゃないかな」

「基本的に隠しエリアもダンジョンの一部だ。宝のみのエリアなんて休憩エリアはないよ」

「じゃあ、試しに撃ってみるか」


 半身になりオリオンの弓を構える。

 つがえる矢は月の女神オリオンの加護つきの矢。アンデッドが消滅する浄化の矢である。

 胸元まで弦を引き絞り蓋についている南京錠に狙いを定めた。


 一呼吸の後、矢を放つ。

 放たれた矢は緩く放物線を描き狙い通りに着弾した。


「────!!!!!!!」

「なっ……うるさ!」


 矢が直撃した瞬間、箱が限界まで開き耳を差すような叫び声を上げた。

 悶えるように箱が振動するのに合わせ、黒々とした内部から数十体のレイスが這い出して来る。


 奴らの数が増えるたび悪寒がひどくなっていく。


「モンスタートラップとはね……」

「これが中ボスって感じかな」

「中ボスにしてはひねりがないな。ケイ、私も参戦していいかい?」

「もちろん。さっさと倒しましょうか」


 にこやかに会話しながら俺は弓で黒崎さんはハンドガンで這い出してきたレイスを的確に撃ち落としていく。

 頭が見えれば打ち抜き、腕が見えても打ち抜きを繰り返していく。


「キリがないな……」

「どうする?」

「まとめてやるか」


 レイスの処理は黒崎さんに任せ一歩下がる。

 元凶はスポナーになってるあの箱だ。わかりきってる。

 さっきの一発は南京錠を狙ったせいで箱を開けてしまったらしい。


 ピンポイントで失敗したのなら次は箱全体を狙えばいい。

 暴論だが破片から再生したり、自爆する可能性を鑑みると一番の安全択ではあるのだ。


 魔力を編んで矢を生み出していく。

 オリオンを溺愛した神アルテミスから破魔の加護を譲り受け矢に組み込んでいく。

 愛しい人を愛でるように。生を慈しむように女神の加護を詰めていく。


「『月女神の寵愛』!!」


 一直線に射出された矢は光の束となり今まさにレイスが湧き続けている箱に降り注いだ。


「──!!!」

「やったか……!?」


 やめようかそういうフラグ!!


 箱の絶叫がこだまする。

 光が消えた後には鎖につながれた獣の頭蓋骨が3つドロップしていた。


「終わった……のか?」


 まずい。俺までフラグ立てたら本当にまずい。

 箱があった場所に鎮座している頭蓋骨に近づき手を伸ばした。


 瞬間、3つの頭蓋骨が咆哮する。

 その叫びと呼応するように這い出してきたレイスが頭蓋骨に食い散らかされ肉体となっていく。

 数多の怨霊を食らいつくしたそれは四本の脚で底冷えする大地を踏みしめる。


 それは受肉し地獄の門番『ケルベロス』と成った。


「ここからが本番というわけか」

「黒崎さんいけます?」

「ここから本気出すとするかな」


 黒崎さんはミニガンを構え好戦的な笑みを浮かべた。


 配信的には神話級の怪物はありがたい。

 あとはこの戦闘を楽しむだけだ。


 俺もまた笑みを浮かべながらケルベロスの足元へと駆けていった。


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