第28話

 ──隠しエリア深部


 現れるタイラントボアを討伐しながら俺たちはついに隠しエリアの深部へとたどり着いた。

 ここまでは通常のダンジョンと難易度もギミックも何も変わらなかった。

 宝箱は開けてないがそれ以外のドロップ品も質が上がっただけで通常のモノとの変わりはない。


 何も特殊ではない分、逆に深部では何かあるのではないかと勘繰ってしまう。

 なんたって目の前が明らかに明るいのだ。


 深部。そこは大森林だった。木々の間を縫うように道が続いている。

 上を見上げればここが都会のダンジョンだとは到底思えないような澄んだ青空が広がっていた。


「ダンジョンの見た目が変わることってよくあることなのか……?」

「だったら今頃世界のダンジョンは観光名所になってるはずだな」


 ということはやはり深部に何かしらのギミックがあるとみた方がいいかもしれないな。

 恐る恐る深部へと足を踏み入れていく。

 風もあるし、鳥の鳴き声とかも聞こえる。普通の森林にいるみたいだな。


 振り返ってみても今はもうただ崖に開いた洞窟になってしまったダンジョン部分には変化がない。


 良かった……閉じ込められることはなさそうだな。


「退路があるのは確認できたので進んでいこうと思います」


 オリオンに喚装し弓を背負う。


《弓!?》

《こいつここにきて縛りプレイでもしようとしてんの?》

《お前は死んでもいいけど焔様に迷惑かけるなよ!!》

《いつでもいるな過激派の焔豚》

《ぶひぃ!!》

《マジモンおるwwwww》


「森林内なら弓の方が何かとストレスフリーなんだよ。気配さえ探ることができれば奇襲する前にこちらから仕掛けることもできるし、狙撃ができる分無駄な戦闘は省けるしな」

「万が一だが奇襲が来た場合は?」

「こいつなら何とかなります。さ、行きますか」


 異世界で出会ったオリオンは狩人だった。この世界よりもモンスターの影響力が強く人類には街を築き防衛する程度の力しかなかった世界で1人モンスターを狩っていた。

 そのオリオンの長年の経験や勘が喚装によって俺の力となっている。


 森林の奥へと続く一本道を進んでいくと、肌にひりひりした痛みのような感覚がある。


「奥にいますね。気配的には……レイスかな」

「アンデッドか……ここは任せろ」


 俺が指差した方向にいたのは黒いぼろきれをまとったスケルトンの上半身が浮遊していた。


 黒崎さんはレイスの位置を確認すると両手でハンドガンを構える。

 深い呼吸の音だけがあたりを満たしていく。


 パァンと破裂音が響くのとほぼ同時にレイスの頭が弾けた。


「どうだ? 私も結構やるだろう?」

「さすがです」


 レイスからドロップしたのはドクロがあしらわれた指輪だった。

 見るからにまがまがしく装備したら呪われそうな気がして指を通すのがはばかられる。


「効果は……魔力増加か。単純な効果だが倍率が高いな。2.5倍か」

「効果、見えるんですね」


 黒崎さんはポケットから取り出したルーペを指輪にかざし効果や価値をつぶやいていた。

 あのルーペ、『鑑定』できるのか……。


「ん? ケイは鑑定機を知らないのか。このレンズさえあれば全ての価値を『鑑定』できる。アイテムの売買をしているギルドの必需品だよ」


 この世界だと鑑定はもう珍しいものではないらしい。

 向こうの世界は鑑定の魔道具だったりスキルを持っているだけで国から保護を受けられるくらいには希少だった。


 念のため俺の『鑑定』スキルで確認し、指輪をアイテムボックスにしまった。


「そういえばレイスってレベル的にはどのくらいなんだ?」

「Aランク探索者がパーティでやっと討伐できるレベルって言ったら伝わるか?」

「なるほど。それを黒崎さんは一人で討伐か」


 空澄さんといいSランク探索者は人間をやめてるみたいだ。

 そして俺もその一員になってしまったと。


 その人外の黒崎さんが倒したレイスを観察する。

 レイスはきれいに頭蓋骨の中心を射抜かれており弾は残っていない。

 ただアンデッドは聖水など神聖魔法系統でなくては討伐できないはずだ。すなわち黒崎さんは神聖魔法の加護を受けた弾丸を用いたか、もしくは彼女のスキルを使用したか。


「どうした? 先に行くぞ?」

「うん? あ、ああ行こう」


 怪訝な顔で覗き込んできた黒崎さんに曖昧な返事をして俺は立ち上がった。


「モンスターの種類は変化したが……劇的に難易度が変化した雰囲気はないな」

「本来は隠しエリアではないのかもしれんな。ギルドの観測も確実なものではない」

「どのみち調査の必要はあるので進んでいきましょう」


 このままだと配信的にも黒崎さんを呼んだ意味がなくなるからイベントがあるといいんだけどな。


 なんて打算的なことを考え、黒崎さんと雑談をつなげながら俺たちは木の生えていないまっさらな広場にたどり着いた。


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