第17話 手掛かり
俺たちの存在に気が付いたベヒーモスが咆哮する。
「ここは外れですね。さっさと倒してしまいましょう」
空澄さんは咆哮していて隙だらけのベヒーモスの足元に潜り込むとその腹を蹴り上げる。
「『風刃』」
蹴った箇所を起点にベヒーモスの身体全体に切り傷が走る。
稲妻のように傷が広がり、全身から噴水のように赤い液体が降り注ぐ。
空澄さんは息を切らすどころか1撃で神域のボスを沈めてしまった。
この人も見た目に反して相当な武闘派みたいだな。
動かなくなったベヒーモスだったものは血液の水たまりの中心でボロボロに消滅していった。
コトリとベヒーモスの死体が転がっていた場所にドロップ品が落ちる。
「あら?」
「急に出てくんなよ」
「ドロップ品が見たいわ。とってきてくれるかしら?」
「自分で持ってくればいいんじゃないんですかね?」
「いやよ。裾が汚れてしまうわ」
魔法で何とかならないのかよ。
「これですか。見たことないですね」
押し問答しているうちに空澄さんがドロップ品をこちらに投げる。
「おおっと」
慌てて受け取ると手にはずっしりと重量が感じられた。
ステンノはつかんでいた俺の頭から飛び降りるとドロップ品を俺の手からむしり取った。
「蛇の……彫刻か?」
「この近くに妹がいるかもしれないわ!!」
彫刻を持ったまま神域の奥へ走っていこうとするステンノの両脇を抱える。
「落ち着け。急に走るなよ」
「だって! 妹がいるかもしれないのよ!」
「これが手掛かりってことか」
「そう!!!」
猫のように胴体と足をピンと伸ばした格好のままステンノは俺の顔に蛇の彫刻を押しつけてくる。
「この彫刻、妹の魔力で出来てるの!! だから早く探さなきゃ!」
鼻息をフンスフンスと機関車みたいに吹きながらジタバタと俺の手から逃れようとする。
「先ほどのベヒーモスが妹さんというわけではなさそうですね」
「神域も消えてない……」
ベヒーモスでも魔力量からみて相当強力なモンスターのはず。
ただこの変異神域を動かしているのはさらに高位のモンスター。
「エリー、ついてこれる?」
「もちろんよ。いざとなった時の身を守る術はあるから。配信もばっちり撮ってあげるから安心して」
「ステンノも一人で先に行かないこと。いいな?」
「わかったわ。その代わりちゃんと守ってね」
「その必要はないわよ?」
ステンノの目と鼻の先数センチメートルに細腕が出現し、ステンノごと彫刻を強奪した。
「あなた、そんなに悪い人だと思わなかったわ」
ステンノは彫刻を抱えたまま、自身と彫刻を抱えている細腕に対して炎系魔法を放つが焦げ一つ付いていない。
「こっちにもいろいろあるのよ。そこのアホ面女神モドキとか妹を探すだけのあんたと違ってね」
「誰がアホ面女神モドキよ! ちゃんとした女神なんだけど!?」
細腕に引きずられるように出てきたのはダークブラウンのショートカットに黄金比を体現したかのようなグラマラスな体の女神。ネメシスだ。
「これはいただくわ。今回はそれだけで許してあげる」
ステンノの手から強引に彫刻を奪い取ると、虚空にぽっかりと開けた穴に向かって浮遊していく。
「返してくださるかしら?」
「それで返すなら子供のいたずら以下。返すわけないでしょう?」
ネメシスは虚空の穴の縁に腰かけくるくると片手で彫刻をもてあそぶ。
「あなたには何も関係ないでしょう?」
「だと思ったんだがこれが必要になってしまってね。獲らせてもらうよ」
ネメシスに向かってステンノは何度も炎系魔法を放つが一つも届かない。
「一回俺に負けてるの忘れてる?」
ヘクトールに喚装し、デュランダルで突くが虚空の穴で逃げられてしまった。
「一つあなたたちに置き土産残しておくわ。倒せるかどうかはあなたたち次第。私の義憤に勝ってみなさい」
そう響くとともにネメシスの気配が完全に消えた。
代わりに虚空の穴から這い出してきたのは9つの首を持つ大蛇。
赤黒い表皮からシューシューと煙が立ち上り、その9つの口からは深紅の舌先がチロチロと蠢いている。
「ヒュドラか」
「まさか神話の生物が出てくるとは。逸話通りなのでしょうか」
すぐさま戦闘態勢になった空澄さんが尋ねてくる。
彼が言っている逸話は9つの首は同時に切断するか傷口を焼かない限り再生するというものだろう。
「毒は弾けますが私は基本的に打撃系統の能力しかありません。切断または炎系の攻撃手段はありますか」
「10秒引き付けることってできますか」
「わかりました。では、参りましょう」
そう言うと空澄さんはヒュドラの足元へと飛び出していった。
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