第11話 前門の義憤に後門の砲台
「フン、人間にはアタシたちを倒せない。なぜなら──」
「どうも女神管理チャンネルです。面倒な事件に巻き込まれてしまったので生存報告を兼ねて配信してます」
「話を聞けよこの罰当たりが!!」
「あれが今回の神様ですね!!」
「こっちに向けるな!!!」
魔鏡がネメシスの姿を捕えた途端、コメント欄が加速する。
《浮いてる!!》
《また女か》
《手でよく見えないけど、かわいくね?》
《かわいい》
《照れてるのが芸術点高い》
《その女誰よ!!》
《神様じゃなければ付き合ってた》
《お前じゃ無理乙www》
《でも油断するなよ。死ぬぞ》
《杞憂民。今だけは握手できるわ》
「ですって」
「ですって、って何もわからん!! もういい。お前の不遜、我が『義憤』に値する! 『神格再臨:義憤』!」
宙に浮いたネメシスに魔力が収束していく。
大気から、壁、天井からダンジョンのあらゆる部分から魔力が抜けネメシスを中心に渦巻き、徐々に形を成していった。
「もともと殺すつもりではあったが、これで心置きなく抹殺できる」
魔力の渦から解き放たれた彼女の身体は深紅の鎧で包まれていた。その手には赤く波打つ剣。闘争本能を高ぶらせるような『紅』に身を包んだ彼女は嗜虐的な笑みを浮かべている。
絶対的優位を信じて疑わないその顔は余裕そのもの。
俺の性格上、そういう奴こそ完膚なきまでに叩き潰したい。
「んでなんだっけ。人間に神は殺せない、だっけ?」
「ああそうだ!! お前にアタシは──」
「こちとら異世界で魔王倒してんだわ。神も魔王も変わんない」
「貴様……!! 死ねッ!!!」
憤怒の形相で繰り出してきた頭をめがけた大ぶりな一撃を受け流す。
地面激突すれすれでネメシスは切り返し、さらに攻撃を繰り出してくる。
突き、切り上げ、袈裟。
怒りをまき散らしながら剣をふるう彼女を腕の動きだけでさばいていく。
この程度なら穂先をずらすだけで避けれるな。
「フン。さすが元勇者、だな。だがまだ怒りは収まってないんだよ!!!」
「ああそうですかッ!!」
頭を狙った一撃を弾き、懐に潜り込む。
攻撃を繰り出した後で無防備になっている鳩尾に槍先を突き刺した。
「グッ……!!」
ネメシスは短く呻き声を漏らし腹に突き刺さった槍を血が出るのもかまわず引き抜く。
「……ごふっ」
口からボタボタと赤黒い血の塊が吐き出されていく。
神だ、魔王だと言っても所詮は魔力で動く生命体。モンスターと何も変わりはない。モンスターと変わりはないということは剣で傷つければ死ぬということ。
「しぶとくない? さっさと倒れてほしいんだけどな」
血が滝のように流れている腹を押さえながらまだネメシスは立っていた。
「ハハハハハ!!! 倒れるだって? お前が死ぬまではアタシは倒れないから」
再びダンジョン内の魔力が彼女に収束していく。
「このダンジョンがある限りアタシは不死身さ。か弱い人間と違ってね」
不敵に笑う彼女の傷は完全に癒えていた。
乾いた切っ先をまっすぐこちらに向ける。
「諦めな。人間に神は殺せない」
「いや、そうでもないさ」
槍を地面に差し両腕に魔力を集めていく。
肩から手先へと流れていく魔力はうねりとなり槍を通じて地面へと注ぎ込まれていく。
こいつがダンジョンから魔力を吸い上げて回復しているのは明白。
ならこの場をダンジョンでなくしてしまえばいい。
量販店の時の仕返しだ。
「『木馬無き
槍を起点にごつごつした岩壁だったダンジョンがゲームでステージが移動するように石造りの美しい街の風景へと書き換えられていく。
城塞都市トロイア。向こうの世界では旅の途中に立ち寄って魔王の脅威から救った都市だ。
ダンジョンの圧迫感のある天井とは打って変わって開放感のある青空が広がる。
「この程度でアタシがうろたえると思ったか?」
「驚きはすると思うけどね」
今度はこちらから仕掛けた。
「速い!?」
地面すれすれをすべるように突進し、一瞬のうちに肉迫する。
槍と剣がぶつかり合う。
「お前……! 手を抜いていたのか! このアタシ相手に!!」
「環境バフってものがあるんだよね」
槍を振り上げ、隙だらけになった腹を蹴り飛ばす。
トロイアはヘクトールが治めていた都市。石レンガの感触も街の空気もすべてが鎧に刻み込まれている。
慣れというものはそれだけでバフになる。
「フヒッ……いいねえ」
笑い方がキモくなったんだけど。
横に薙ぎ払った穂先がネメシスの腕をかすめた。
「このくらいの傷なんて……何!?」
「もうここはダンジョンじゃないんだよ」
ダンジョンからトロイアに変更されたことで壁や天井で循環していた魔力は街のテクスチャの下に埋もれてしまい吸収できなくなっている。回復する手段を断ったわけだ。
ミルフィーユに新たな層ができて下の層だけを食べることができなくなったイメージが一番近いか。
「ついでに言うとこの装備の所有者(ヘクトール)はトロイアの長でね」
「だからどうした……!」
「こういうこともできるってこと」
俺が指を鳴らすと街中から城門前へと風景が一変する。
「全軍、砲撃準備!!」
掛け声とともに城壁のいたるところに魔方陣が幾重にも重なるように出現する。
「城塞都市に軍隊がいるのは当たり前だろ?」
「その程度の魔法でアタシを殺せるとでも思ってるんじゃないだろうな」
「ダンジョンからの魔力供給のない今ならいけると思ってるよ」
ネメシスが向かってくるよりも速く城塞が火を噴いた。
「『堅守するは反撃の構え』」
大気を裂き暴力的なまでの魔力の塊が彼女の身体に降り注いだ。
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