第3話 上に立つもの=戦闘狂が成り立つ世界
「この世界の人間じゃない……」
彼女が手に持っているカメラ型の装置の駆動音だけがむなしく響く。
「煙、どういうこと? 説明して頂戴」
煙は俺たちと黒崎さんの間で視線のラリーを繰り広げると恐る恐る口を開いた。
「魔力量が平均的な探索者の10倍以上はあるんです。魔力を得るには相応の数のモンスターは倒さなくてはいけません。それに……」
気が付いた時には煙の顔がエリーの鼻先にまで迫っていた。
「エリーさん! あなたの身体の構成材料が魔力だけなんですけどどういう原理で活動しているのでしょうか!? ケイさんの式神ですか!? それとも使い魔!? それとも──」
「煙、そこまでにしておきなさい。嫌われるわよ」
「ひっ……それだけは勘弁でお願いしまっス……すみませんでした」
「いえいいんですよ」
黒崎さんの注意で煙はおとなしく引き下がった。
なるほど。主にバレた原因は女神らしい。人間じゃないしね。
薬袋煙は興味津々みたいだけど黒崎さんは驚きもしなかった。うすうす勘づいてたか?
「ケイ。もう全部話していい?」
「俺が話すから失格女神はおとなしくしてて」
「なんでよ!!」
「いいから黙ってて」
それから俺たちは異世界で勇者と女神だったこと、この世界に転移してきたら新宿ダンジョン内だったことを伝えた。
もはやごまかし続けるのもつらい状況だ。あらぬ疑いをかけられるよりかは正直に話したほうが後々楽になる。
「なるほどね。それでどこまでが本当なのかしら?」
「全部ですよ。全部。まあ信じられないでしょうけど」
この話を鵜吞みにするにはクジラの喉が必要だろうな。
転生の時点で突飛な話だしそこからこの世界に来て最難関ダンジョンを踏破しましたなんて夢のまた夢みたいな話だろう。
「あなたたちが突然ダンジョンに現れたのは魔鏡でわかっているし新宿ダンジョンをクリアできるほどの実力を持っていることも確認してる。でも本当に勇者なの?」
「本当です。ちゃんと魔王を倒した勇者ですから」
「──じゃあ証明して頂戴」
──証明?
「私と戦ってくれない?」
「勝ったら信じてくださいよ」
「勝つことしか考えてないの?」
「もちろん」
☆
黒崎さんに連れられてやってきたのはまさかの新宿ダンジョン上層だった。
最難関ダンジョンでも上層であれば気軽に入れるのかな?
中層へ下る道から横道に逸れていった。
決闘するとは言ったもののその後どうするか、どうやって生きていくかは何も考えてない。
転生した時も金がなくて焦ってたよなぁ。あの時は冒険者になれたからいいけどこの世界にそういう役職はあんのかな。
というより俺の戸籍ってあるの?
無ければ仕事どころか住居も何もかも手に入らなくなる。
勝ったらそこらへんも聞いてみるか。
「着いたぞ。準備は出来てるな?」
横道の最奥、一枚岩の行き止まりにたどり着くと黒崎さんは振り返りこう言った。
「できてますけど、狭くない?」
横道は人が1人やっと通れるほどの幅しかない。ミニチュアにでもならなければ決闘は出来そうにもなかった。
ケタケタと快活な黒崎さんの笑い声が弾けた。
「ここでやるわけじゃないさ。やるならちゃんと広いところでね」
彼女の手が岩に触れた瞬間、表面に魔力が走り、紋様が浮かび上がる。
音もなく一枚岩の扉が開き、広い空間が現れた。
「ここは本来訓練場なんだけどほとんど決闘場として使われちゃってるんだよね」
呆れたように愚痴りながら奥へと歩き、振り返った。
両手で持つミニガンに華麗な手さばきで銃弾を装填していく。
一切無駄のない手つきは熟練した職人技を眺めているよう。
こちらも重い鎧は脱ぎ、愛剣だけを担ぎ彼女と向き合った。
「それじゃあ、始めようか」
審判役になった煙の合図と同時にミニガンがうなる。火花を散らしながら発射される弾丸が俺の身体をハチの巣にすべく追尾してくる。
「素早さを上げたのは良い判断だ! けど私の弾丸は止まらないぞ!」
空間内を走り回り、追尾してきている弾丸と新たに向かってくる弾丸を相打ちにさせながら距離を詰めていく。
先手は取られてしまった。遠距離戦ではあちらに分があるうえ、まだ黒崎さんの魔法を見ていない。
彼女の魔法が近接戦に特化していた場合を考えると強引に近づくのは悪手。
となると取れる選択肢は一つ。
撃たれる前に打てばいい。
「魔力消費が激しいからあんまり使いたくないんだけど」
両足に魔力を巡らせ俊足の軽鎧を編んでいく。速さを象徴するかのように足元からは小さなつむじ風が立ち上っていた。
──そう。
これが俺の勇者としての能力。かつての同志たちの特性、能力を鎧としてまとい自由自在に扱うことができる。
失格女神から授かった唯一の恩寵。
「『簡易喚装:アキレウス』」
異世界の旅で出会った仲間たちの能力、特徴を鎧としてまとうことができる。人とのつながりが俺を勇者たらしめてくれているのだ。
幸い、喚装無しでも弾は避けられてるからな。あとは近づくだけ。
異世界で何度も見てきたアキレウスの姿、何度もまとったこの鎧。
文字通り仲間の力を借りて俺は魔王に打ち勝った勇者だ。
黒崎さんはというと楽しそうに笑いながらミニガンを振り回している。
戦闘狂も真っ青になるほど猟奇的な笑顔なんだけど。
「そろそろ行きますよッ!!」
「こっちもだ!! 『
彼女が右腕を上げた瞬間、黒崎さんの背後に様々な種類の銃火器が浮かび、銃口が一斉に俺に狙いを定めた。
上げた腕を下ろすと銃弾の雨がこれでもかと降り注ぐ。
「私はね! 一度解析した銃器なら自在に召喚できるのさ!!」
「能力開示のメリットあるの!?」
「ないわ! でもこっちの方が楽しいでしょ!」
瞬間、背中に悪寒が走る。
弾丸、砲弾に抉られ天井はひび割れ、地面はいくつもの穴が穿たれていた。
止まれば即死の絶望的な状況。
手数の多さで圧倒するスタイルなのだろう。彼女の表情には自信があふれている。
だがこの程度の弾幕なら魔王城で幾度となく撃ち込まれた。
慣れって恐ろしいんだよね。このぐらいの弾幕だったら避けれるようになるからね。
地面を蹴り、弾幕の間を縫うように黒崎さんの目の前まで接近する。
俺を遠ざけようと脇腹に迫るミニガンの銃身を回転蹴りで吹き飛ばし、その勢いのまま彼女に馬乗りになった。
「はぁ……俺の勝ちっすね」
「私の負けだな。──煙、どんな感じ?」
「同時接続者1億人超えてますね~すごいですよケイさん」
「……はぁ?」
黒崎さんから離れた俺に、さっきまで訓練場の外で見ていた薬袋煙がスマホを見せてきた。
画面には、俺がいた日本と変わらない配信サイトに『新宿ダンジョン定点カメラ』というタイトルの配信が放送されていた。
「あなたたちの活躍を魔鏡で見てたって言ったでしょう? このダンジョンではね魔鏡に映るダンジョン内の様子を探索者の生存確認もかねて配信してるのよ」
ここは訓練場といってもダンジョン内であることに変わりはない。
ということは俺がギルドマスター黒崎を倒したところは見られていたわけで。
加えて馬乗りになっているところも見られているわけで。
慌てて彼女から離れる。
黒崎さんは立ち上がるときらきらした笑顔でこちらに手を差し出してきた。
「あなたが欲しいわ!!」
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