15話 守るべきもの②

 放心状態の3人を前に、アキは構わず話し始める。

 一年後に起きる爆破テロ事件。その会社が裏で恐ろしいウイルスを開発していたこと。

 4年後にウイルスによる日本の危機が起きてしまったが、ワクチンの発見により救われたこと。

 それから5年が絶ち、組織の生き残りが未来を変えるべく、救世主を狙って未来に来ていること。

 話し終えたアキは、喋り疲れたのか大きく息を吐いた。


「アキ、ごめん……一年後にウイルスが撒かれたわけじゃなかったのか?」


 拓も知らない部分があって、思わず博たちより先に質問する。


「ごめんなさい。あの時は早く状況を知ってほしくて大雑把になってたみたい」


 家に着いた時にアキが用意した全員分のコップに注がれた麦茶。誰よりも早くアキが手を伸ばし、それを一気に飲み干した。


「ドリームレボリューションズ社が爆破された時、ビルが崩壊したことによってウイルスは消滅したのか発見されることはなかった。それによって、組織の存在自体明るみに出ることはなかったから、生存者の中に組織がどれだけ残っていたのか……誰も把握できてはいない。ただ、4年後の事件によって捕まった組織の人数は20名程度だったみたい。全部ニュースや情報番組の内容だから確かとは言えないけど」


「一年後に起こる爆破テロは、組織にとっては予想外の出来事だったってことか。なら、今残っている組織は少人数って可能性もあるよな」


「10人もいないって願いたいけど、5年も経過してるからはっきりと断言できないわ。でも、これは想像だけど……今の組織にウイルスを開発できる人はいないのかもしれない。ウイルス開発できる人がいれば、ワクチンの効かない新たな変異ウイルスを作り出すこともできたはずだから……それをしないで、こんな回りくどいやり方をするってことは、作る人が捕まってしまったからっていうのがわたしの考え」


 そう話し終えたと同時に、博がそっと手を上げた。


「ひとつ疑問がある」


「疑問? 言ってみて」


「君の言っていることが本当だと仮定して……その一年後に起こる爆破はそもそも本当にテロだったんだろうか? もしも、組織の存在を知っていた何者かがテロに見せかけて爆破を行ったのだとしたら、もっとそれらしくするはずだ。けど、脅迫文もなければ、テロに繋がるような証拠は出てきてないんだろ? こんな大規模な爆破が事故とは考えにくいし、外部の犯行とも結びつかない……だとしたら可能性と上げられるのはただひとつ。この爆破は組織内による反乱」


 博の発言に拓は目を見開く。拓には考えもしなかったことをこの短時間で導き出した。さすが秀才と思わざるえない。

 聞いていたアキも感心したように頷き、再度口を開いた。


「確かに新聞ではテロとは出てはいるけど、世間は相田くんのように疑問視している人はたくさんいた。けど、生き残ったドリームレボリューションズ社の社員は爆破に対しての関与は否定したし、物的証拠は見つかってない。それに……組織のリーダーだと思われる、その会社の社長・須波 孝太朗もその爆破で死んでしまったから、誰にも真相は分からないままなの」


 アキの表情が暗く沈む。


「けど、4年後の事件がきっかけで警察に捕まった組織関係者がある噂を耳にしたようなの。あの爆破テロは組織内の誰かの仕業ではないかって……相田くんの言っていることはあながち間違ってはいない」


「要するに、組織内の誰かがウイルス開発に反対していて、組織の人間も研究もすべて消滅するための爆破だったってことか?」


 拓は意外な真相にに、思わず声を張った。


「もしかしたら、誰もがその恐ろしいウイルス開発に賛成していたわけではないってことか!? それでも4年後にはウイルスは完成してしまい、世界は滅亡の危機を迎えてしまった……そういうことだろ?」


「その考え方が正しいのかは分からないけど……辻褄は合うわ」


 博はしばし俯き考えてから、またアキへと視線を向けなおした。


「あと、もう一つ疑問がある。どうしてアキさんは、世界をも巻き込むような重大な危機を知りながら、こんなただの学生の俺たちに協力を求めてきたのかだ。しかも、はじめは拓に会いに来た……その真意は?」


「わたしは未来から来た……それを信じる人はいない。未来を変えるために組織が救世主を狙っているなんて、この時代の警察が信用して協力してくれるはずはない……だから、わたしは救世主に関わりの深いあなたたちを頼るしか他なかったの」


 まだ驚きを隠せないながらも、文也が口を開く。


「その救世主ってさ……誰? 俺たちが知ってる人ってことでしょ? もしかしてなんだけど」


 文也は確信してしまったかのように、椅子で今もなお状況を把握できないでいる満里奈に顔を向けた。文也の視線に気づき、満里奈は驚愕の瞳をアキに移す。


「待ってくさい。私なんてありえないです! そうですよね? アキさん……」


 だが、アキは否定しなかった。その隣にいる拓もまた、何かを諭すような眼差しを満里奈に注ぐ。


「そんなっ! わたしはワクチンなんか開発するような人間じゃ……」


 確かにそれは拓も思っていたことだった。アキのことは信用したにしても、満里奈が救世主というのは現段階では全く想像もつかなければ、あまりにも今の彼女とはかけ離れた人物になっている。それが唯一腑に落ちない点だった。


「満里奈さん、あなたは間違いなく救世主よ」


 アキはきっぱりと言い放つ。


「だけど、ワクチンを開発したのはあなたじゃないわ」


 続けて言った言葉にみんな同じ反応を示す。


「どういうことだよ、アキ。ワクチンを開発したのは人は別にいるってことか? だったらなんで、そのワクチンを満里奈が持ってるんだ!?」


 一気にみんなの視線を受け、アキは一呼吸おいてからゆっくりと口を開く。視線はまっすぐ満里奈を見つめて。


「ワクチンを開発したのは片倉 健也けんや。満里奈さん……よ」

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