第8話 『何この展開』
人生二周目。この前見たドラマでそんなことがあったような気がする。でも、それはフィクションの世界の話だ。そんなこと、現実に起こるはずがない。
だけど、彼女の瞳を見ていると、それが事実だと思えてくる。しかし、その言葉を『はい、そうですか』と信じられるはずがない。だってあまりにも唐突で……現実離れしているから。
「人生二周目なの。一回死んでるのよね」
「……」
衝撃的な事実が告げられて、俺は言葉が出なかった。ただ呆然と彼女を見つめることしか出来なかった。
「天野くんはいつも自信がなくて、自分の意見を言えずにいたのよね?よく観察しているから知っているの」
まさに俺。自分の意見を言うのが苦手で、何かを決める時は必ず誰かの意見に同調する。俺はそういう人間だから。それは別に人生を何周も繰り返しても変わらないと思う。
「でもね、私はそんな貴方が好きだったわ。自信がなくて、いつも他人に流されてばかり。そんな貴方が愛おしかった」
…これ褒められてるのか?貶されてるのか? どう反応すれば正解なのかわからない。俺は結局、何も言えずにいた。そんな俺に対して彼女は――、
「一回目の死んだとき、天野くんも同じく死んだの。貴方と私は、偶然同時に死んだのよ」
………意味がわからない。三嶋さんは何を言っているのだろう。稀にあるとんでもないゲームなの?
「私は即死じゃなかったの。意識があったわ。だから貴方が死ぬのも見ることができたのよ。と言っても一瞬だけ。チラッと顔が見れた程度だけど」
「え……凄く淡々と話してますけど……俺、死んだんですか?」
俺、死ぬ程絶望したの……?とゆうか、俺死んだの……?信じられない。
だって、俺は今ここにいる。こうして生きているじゃないか。じゃあ、死んだってなんの事だ? 理解が追いつかない。
「信じられない?そうよね。こんなこと、普通は信じられないものね」
「……」
彼女はクスっと笑うが、その笑みはどこか悲しげだった。
……俺、本当に死んだの? でも、こうして生きているし。普通に生きている感覚があるし……。
「中学二年生の時。貴方はいじめられていたわね」
「………何故それを知って……」
「見てたから」
天野亮司はいじめられていた。それは事実だ。小学生の頃もいじめられていたが、それは中村洋介が助けてくれたが、中学に上がってからはそうはいかない。中一と中二の頃はクラスも違っていたし。
そのときは誰も助けてくれなかった。だから、俺は毎日耐えていた。
「貴方は何も言い返せなくて黙って耐えていたよね。でも、ある日耐えきれなくなって、海から飛び降りた……と推測しているわ」
「……何故?」
その言葉に俺は目を見開いた。何故ならそれは俺の心の内だったから。確かに俺は、海への飛び込み自殺を考えていたときにいじめが止まったが。
「……私が貴方をいじめていた奴を手を回して止めさせたのよ」
「……どうしてそんなことを……」
「言ったでしょう?私は貴方が好きだからよ。いじめている奴を許せないの。そして天野くんと一緒にいたいから留年したのよ。わざとね?」
淡々と。無表情で彼女は話すが、その瞳の奥は真剣だった。俺を本気で好きなんだろう。
……でも、何故俺なんだ? 俺にそんな価値はない。俺なんかより素晴らしい人は沢山いるのに。
俺が黙っていると、三嶋さんは俺の頬に手を当てて微笑んだ。
「私が貴方――天野亮司を愛しているの。私と似たもの同士だったから」
「俺と三嶋さんが、似たもの同士……?」
「ええ。私、小学生の時からいじめられていたわ」
俺の頬から手を離し、彼女は淡々と話す。その目には何か強い意志を感じる。彼女の瞳は真っ直ぐ俺を見る。
でも、その瞳が僅かに潤んでいるのは、気のせいだろうか?
「前世の記憶が戻ったとき、私は全力で努力したわ。勉強もスポーツも容姿も!全て完璧にこなせるようにね」
彼女は今、何を考えているのだろう? 前の人生で、彼女は何を思い、何を考え、どんな人生を歩んできたのだろう。
――そんなのわからないけど。
「ま、貴方は覚えてないかもしれないけど私電車で痴漢にあって、それを助けたのが天野くんだったのよ」
「え、ええっ!?」
なにそれ。全く覚えていない。
驚く俺を他所に彼女は淡々と語る。
俺は、自分の記憶を掘り返すが、三嶋さんとの接点は見つからない。でも、彼女は言うのだ。
――私が貴方を好きになったのはそのときよ。と、彼女はそういった。
「海で溺れて死んだ時に戻ったのは中一の春だったわ。そのときに戻った瞬間が痴漢された瞬間だったの。その痴漢を貴方が助けてくれたのよ」
痴漢された瞬間からの人生二周目とか最悪だな……。
「貴方が痴漢から助けてくれたとき、とても嬉しかったわ。まぁ、貴方は無意識だったみたいだけど」
「そ、そうだったんですか……」
そんなこと……全く覚えてない。というか、そんなことがあったとすら知らなかった。助けた記憶もないし。
「それから、私は貴方に一目惚れして今に至るのよ。わかった?」
「………はぁ……」
わかった?と言われても……。正直、ピンと来ないし、実感がない。
「わからなくてもいいのよ。貴方はこれからもっと私を知って、恋に落ちるの」
彼女はそういって、俺に微笑む。……え?……恋に落ちるって……決定事項なの?こんなだけ長々話して結局なにもわからないのに……だけど三嶋さんの圧が凄くて何も言えずにいると、
「だから――覚悟しなさい」
「……何をですか?」
「貴方を絶対、私に惚れさせてあげるから。私を愛してくれないと許さないから」
そう告げた三嶋さんの瞳は、真剣そのものだった。……これは冗談ではないみたいだ。彼女は本気で、俺に恋させたいらしい。これあれか?俺に選択肢とかない感じ――?
……何か……怖いんだけど……!でも、彼女からは逃げられる気がしない。そんな気がなんとなくするし、それに……彼女になら、いいような気がしてきた。
「これから覚悟してね」
無邪気で、子供のようなあどけない表情で俺に微笑む三嶋さん。
――これは、とんでもない女性につかまったのでは……?俺はただそう思った。
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