第5話 『気づき』

結果的にこのゲームはクソゲーだった。まず、選択肢が意味わからん。どのヒロインを選んでも大体同じ展開になる。というより、どのルートに行っても同じエンディングを迎えると言った方が正しいかもしれない。つまり、ハッピーエンドがないのだ。バッドエンドならあるけど。



そしてバッドエンドでは雑に主人公とヒロインが死ぬ。死に方は様々で、刺殺や撲殺、溺死などがあった。あとは焼死もあった。とにかく色んな方法で死んでいく。マジでグロかった。そしてその絵のクオリティが無駄にリアルすぎて余計気持ち悪くなった。



しかも個別ルートもあるちゃあるけどちょっとセリフが違うだけで、展開は変わらないし。何じゃこれ。

俺は心の中でそう思い、ゲーム機の電源を落とした。そして、そのままベッドにダイブする。……もう寝ようかな……そう思った時――。



「電話だ……」



スマホが震える。誰だろうと思って画面を見ると、そこには『三嶋さん』と表示されていた。何で?今更何の用だよ……と思いながら電話に出られなかった。でも、いつまでも鳴り止まない。だけど出る勇気がない。



「はぁ……」とため息を吐く。そして、俺はスマホの電源を切ろうとした――その時だった。突然、電話が鳴り止み、今度はLINEが送られてきた。相手は三嶋さんだ。内容はこうだった――『弱虫』。たった一言だけだったが、それが俺の心を抉った。



そうだよ。俺は弱虫だ。自分の意思で行動する勇気もない、ただの弱虫だ。

そう思うと、また涙が出てきた。俺は嗚咽を漏らしながら泣いた。



「…もう、無理だ」



そう呟いてスマホを放り投げる。そして、深い眠りに落ちていった――。



△▼△▼



『あいつのこと、いじめてやろうぜ』



『いいね!やろう!』



俺の学校には、成績が最下位の奴はどんな虐められても文句言えないようなクソみたいなルールがあった。だから、俺は虐められていた。成績が最下位だったし、このせいでもっと低くなるだろうから、もうどうでも良かった。だけど――

「おい!立てよ!」と誰かが言った瞬間、俺の腹に蹴りが入った。



そして俺はその場に倒れ込む。痛い……苦しい……辛い……!そんな感情が俺を襲うが、誰も助けてくれないどころか、笑っている奴すらいた。

その時だった。



『もう辞めろよ』

一人の男子生徒がそう言った。その声は、とても凛々しく、よく通る声だった。そして俺を庇ってくれているのは――



「ああん?中村洋介。お前、俺に楯突く気か?」



中村洋介だった。彼は俺を守るように立ち塞がる。ああ……思い出した。こいつが助けてくれて、いじめがなくなっんだっけ……

『楯突くも何も、君のやってることは間違ってるよ。こんな卑怯なことをして恥ずかしくないのか?それに、暴力で解決するなんて最低だ』



そう言った日からあいつがいじめの対象となった。俺は、助けられなかった。だってまたターゲットが俺に変わるのは嫌だったから。だから、見て見ぬふりをした。最低だと言われても、仕方ない。

だって今まで忘れていた。否、忘れようとしていた。



思い出したら、自分がしたことの酷さに嫌気がさす。だから、思い出したくなかったんだ。そして今も変わっていない。『まるで成長していない』というのはまさにこのこと。俺は、最低な人間だ。



そんなのこと、ずっと前から分かっていた。でも、彼は優しかったから。俺のことを責めもせず、庇ってくれた。

だから、俺は、あのときから。


「ああ……そっか」


笹川さんにモヤモヤしていたわけじゃない。……そう、この気持ちは――。



「俺、中村洋介に……」



――恋をしていたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る