ちんちんが大きすぎたおおかみのお話

獅子吼れお🦁Q eND A書籍版7/25

ちんちんが大きすぎたおおかみのお話

 むかしむかし、あるところに、いっぴきのおおかみが住んでいました。

 おおかみはとってもやさしく、力もちでした。ときどき、近くの村ののらしごとを助けたり、かわりにおいしいパイをもらったりして、にんげんたちとも、なかよくくらしていました。

 でも、おおかみは、村にいれてもらったことは、いちどしかありません。

 ちんちんが大きすぎたからです。


 なにせほんとうに大きいもので、たいへんなのです。

 おおかみなので、べつにそのままぶらぶらさせていても、ほんとうは良いのですが、目のやりばにこまるというよりは、大きすぎてじゃまなのです。

 みなさんも、とってもせの高いひとが、思わずどこかにあたまをぶつけるのを、みたことがあるでしょう。

 おおかみをいちど、村のおまつりにしょうたいしたとき、そんなことが村のあちこちで、ごつん、どすん、ばたん、とおこったものですから、おおかみもいたくてたまりませんし、村のみんなもこまりはてました。


「あいたたた。ぼくはもう、村にはこないよ。なにかお手つだいできることがあったら、村の入り口でぼくをよんでおくれ。力になるよ」

「ああ、ありがとう、おおかみくん。この村はとても小さくて、きみのような大きなおおかみには、せますぎる。またときどき、村のまえののっぱらに、あそびにおいで」

 そうしておおかみは、村のおまつりをだいなしにしたのをあやまりながら、大きなちんちんをしょんぼりさせて、森にかえっていったのでした。


 そんなことがあったので、おおかみは、村にははいれないのです。でも、おおかみは、村のまえののっぱらで、子どもたちとあそんだり、ときどき森の木を切ってはこんだりして、にんげんたちと、たのしくすごしていました。


 ある日のこと、村にひとりのむすめがやってきました。村長そんちょうのしんせきの娘でした。

 娘はたいそううつくしく、村の男たちはだれもが見とれるほどでした。それに、気だてがよくはたらきものだったので、すぐに村のみんなとなかよくなりました。


 おおかみも、のっぱらをながれる川で、せんたくをする娘をみて、すっかり好きになってしまいました。

「ああ、あのきれいなかみ、夕ぐれどきのたきみたいだ。あんな女の子となかよくなれたら、すてきだなあ」

 でも、おおかみはにんげんじゃないし、ちんちんも大きすぎるので、こわがらせてはいけないと、娘のちかくにも、よりつかないようにしていました。

 おおかみはな、娘のことをおもいながら、とおぼえをしていました。


 ところが、そんなある日のこと。おどろくようなしらせが、おおかみのとがった耳にとびこんできました。

「ええっ、ぼくと結婚けっこんしてくれるのかい?」

 そうです。あの娘が、だしぬけに、おおかみと結婚するといいだした、というのです。

 おおかみはねぐらをとびだして、村のまえののっぱらにはしっていきました。するとそこには、きれいなふくできかざった、娘がにっこりとわらっていたのです。

「あなたは、おおかみなのに、村のみんなのためにはたらいて、すてきだわ。わたし、ずっとあなたを見ていたの」

 こんなうれしいことがあるでしょうか!

 おおかみは、おおよろこびしてとびまわりました。とんだりはねたりするたびに、大きなちんちんが、じめんにばちばちとあたりますが、そんなこと、きになりませんでした。


 あとからきいた話だと、村の男たちがあんまり娘にほれこんでしまって、すっかりしごとに手がつかなくなったり、おおげんかになったりして、たいへんだったそうです。

 みかねた娘が「あのおおかみと結婚することにした」とうそをついたところ、男たちのほうから、「じゃあしょうこを見せろ」といわれたので、娘はのっぱらにやってきて、おおかみと結婚すると言い出したのだそう。

「でもね、それだけじゃないのよ」

 娘はおおかみのりっぱなしっぽをなでながら、とがった耳にささやきました。

「あなたのことを見ていたのは、ほんとう。おもしろいおおかみさんだなって」

 そういって、娘はくすくすわらったので、おおかみのほうもしあわせでした。


 しばらくそうして、ふたりはしあわせにくらしていました。

 でも、なにせ、ふたりはおおかみとにんげんです。それに、おおかみのほうは、ちんちんがものすごく大きいので、ふたりがいっしょに住むのはたいへんでした。

 おおかみは、のっぱらにはりきって大きないえをたてましたが、じぶんの大きなからだと、大きなちんちんにあうような大きないえですから、小さなにんげんの娘には広すぎました。

 おそうじをしたり、りょうりをするだけでもひとくろう。大きなベッドでいっしょにねても、おおかみのからだにつぶされて、いきができなくなってしまいます。

「ねえ、わたし、あなたともっと近くでおはなしがしたいわ。ちんちんが大きすぎて、むかいあって近くでおはなしもできない。もっとなかよくなりたいのに、ちんちんが大きすぎて、いけないわ」

 そんなことははじめからわかっていたはずなのに、娘はだんだんふきげんになりました。おおかみは、大きなからだとちんちんをちぢこまらせながら、娘をよろこばせようと、ほうぼう手をつくしました。


「きみをせなかにのせて、山の上までつれていってあげよう。けしきがよくて、きもちいいよ」

「いらないわ、そんなの。ただ高いところなんて、つまんない。わたし、かわいいお洋服ようふくがほしい」

 いわれてみると、山の上はつまらないきがして、おおかみはさびしくなりました。そして、つぎの日には服をかいにいきました。

「ほら、かわいいお洋服ようふくだよ。町のはやりなんだって。きっとにあうよ」

「いらないわ、そんなの。わたし、じぶんでえらびたかった。金貨きんかのほうがよかったわ」

 いわれてみると、たしかにそんなきがして、おおかみはさびしくなりました。そして、つぎの日には、とっときのぴかぴかの金貨きんかを娘にあげました。

「ほら、金貨きんかだよ。これで、町にいってなんでもかってくるといい。ぼくはおおかみだから、町にはいけないけどね」

「いらないわ、そんなの。わたし、いまおなかがすいているの。パンのほうがよかったわ」


 もうずっとこんなちょうしです。こまりはてたおおかみは、なげすてられた金貨をひろって、パンをわけてもらいにいきました。夜もふけていたので、村にいくことはできません。おおかみは川むこうのさかばまで、とぼとぼと大きなちんちんをぶらさげていきました。

 川むこうのさかばの主人しゅじんは、すこしかわりものでしたが、こうしてま夜なかにたずねていっても、おおかみにパンややさいをわけてくれる、よい人でした。

「おおかみくん、どうしたんだい」

 おおかみが娘とのことをはなすと、主人はうんうんとうなずいて、わけしりがおでこういったのです。

「そりゃ、おおかみくん。子どもをつくってあげないからさ」

「ええっ、どうして?」

 おおかみはたいへんおどろきました。おおかみにとって、子どもをつくることは、結婚したりしあわせになることとは、あまり関係がなかったからです。なにせ、おおかみですから。こいのきせついがいは、子どもをつくるなんてかんがえないのです。

「ふしぎだなあ、にんげんの女の子というのは。でも、ぼくのちんちんはあの子のなかには入らないよ。大きすぎるもの」

「でもねえ、おおかみくん。にんげんはそうやってあいをたしかめるんだぜ。それができないなんて、さびしいことだぜ」

 いわれてみると、たしかにそんなきがして、おおかみはさびしくなりました。そして、娘をこんどこそよろこばせようと、パンをもらってひきかえしました。


 ちろちろとながれる川のみなもに、のっぱらをかけていくおおかみと、大きすぎるちんちんのかげが、つきあかりでぼんやりと、うつっています。


 いえにかえると、娘はもうねむっていました。娘のみのたけぐらいのちんちんが、娘のなかにはいるはずがありません。

 おおかみはなやみました。うんとなやんで、はっときがつきました。

「そうか、にんげんの女の子のおなかには、きっとなにか愛をかんじるものがあるにちがいない。ちんちんをいれなくても、それさえわかれば、なんとかなるかもしれない」

 おおかみは、はさみと糸をよういして、ぐっすりねむっている娘のおなかを、ちょきちょきとひらいてみました。

 でも、そこには、とくべつなものはなにもありませんでした。

「おかしいなあ、おおかみとおなじじゃないか」

 おおかみは首をひねって、ちくちくひらいたおなかをぬいあわせます。そして、うんうんなやみながら、娘のとなりでまるまってねむりました。


 つぎのあさ、娘はおおいかりです。

「どうしてわたしのおなかを、かってにひらいたの?ぬったあとがのこってしまったわ」

 おおかみは、ごめんよ、ごめんよう、としっぽをまるめてあやまりましたが、娘はゆるしてくれません。

 おおかみはいいました。

「ぼくのちんちんをきみに入れたら、きみはこわれてしまうとおもったから」

「なにをいっているの?わたしは、あなたとすごせればしあわせだったのに」

 娘はなきだして、そのままいえを出ていきました。

 のこったのは、だだっぴろいいえと、おおかみだけです。


 おおかみには、今のじぶんが、ひどくみじめにおもえました。

 でも、なぜでしょう?娘とであうまえの、もとのひとりきりにもどっただけなのに?


 いいえ、もどっただけではありません。

 ちんちんが大きすぎるおおかみは、ちんちんが大きすぎて、好きな娘を愛することができなかったおおかみに、なってしまったのです。

 好きだった山の上のけしきも、とっときのぴかぴかの金貨も、おおかみのこころのさびしさをいやしてはくれません。

 

 おおかみは、いえをめちゃくちゃにこわして、森のねぐらで、おんおんなきました。たくさんとおぼえをしました。でも、だれも、とおぼえにこたえてはくれません。ちんちんが大きすぎるおおかみのさびしさは、ちんちんが大きくないほかのおおかみたちには、わからないのです。


 おおかみは、夜どおしないて、なきつづけて……いつしか、つかれきって、死んでしまいました。


 娘は、ちんちんがひかえめな村の男のひとりと結婚し、たくさん子どもがうまれたそうです。



 さて、おおかみのとおぼえは、おなじおおかみにはとどきませんでしたが、空の上からぜんぶを見ていた神さまには、とどいていました。


「あわれなおおかみだね。おまえがあけるべきだったのは、娘のおなかではなく、じぶんの心のなかだよ。おまえのさびしさは、ぜんぶにんげんからおしえられたものだったじゃないか。そのことにきづけば、まだなんとかなったかもしれないのに」


 おおかみをあわれにおもった神さまは、おおかみのたましいを、空につれていきましたとさ。


 これが、秋の空のすみっこにみえる星座せいざ、『ちんちんが大きすぎたおおかみ座』の、もとになったお話です。


 おしまい。


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