第28話 地下回廊5:ハンマー
え? と思う間もなく、スミカの顔に巨大ハンマーが襲いかかる!
「あぶない……!」
いちばん近くにいたリチルが、とっさに片手で防御し――パァァァンッ!
防御魔法陣と打ちあう、強烈な音が鳴り響いた。
「きゃっ!」
「きゃー……」
衝撃で二人とも一緒に飛ばされてしまった。
「スミカ! リチル!」
「だいじょうぶっ!?」
ニケとレインが口々に叫ぶ。
「い、いてて……リチルちゃん、だいじょうぶ?」
「いやあ……なかなかの攻撃。あれ……?」
見ると、防御に出したリチルの前腕がダメージを受け、周囲の服のほとんどが消失し、細っそりとした腕が露出してしまっていた。HPをごっそりやられたわけだ。
「
「お、おっけー!」
すっとんできたレインが回復魔法をかけ、今度はニケが相手と
初撃を加えてから、一旦距離をとったブラウニーは、またジリ……ジリ……と立ち位置をかえ、追撃の機会を
「ニケちゃん……防御は両手でないとダメです。片手だけだと防ぎきれません……」
「らじゃーっ!」
ニケが元気よく返事した。レインも真剣なまなざしで、
「しっかし、あいつの攻撃力はちょっと異常よ? 当たりどころが悪かったら即死もありうる――」
――ガキンッ!
レインの言葉が終わらないうちに、ブラウニーからの攻撃!
「こん……の、おぉ! りゃっ!」
しかし両手で防御したニケが、弾き返すことに成功した。スミカが歓声をあげる。
「ニケちゃんすごい!」
「た……はは……、手がジンジンする……。こりゃやばい」
ニケは苦笑するしかない、という顔だ。
「繧ョ……」
攻撃を止められたブラウニーが、かすかにうなるような声を発した。
すると、気配が変化した。
ギリ……と歯ぎしりするような音がして、視線がさらに鋭くなっていく。
「連打を受けると危なそうね。まずは防御重視! 私とニケちゃんで交代しつつ!
レインの指示がとんだ。
「は、はいっ!」
とスミカは緊張してこたえながら、しっかり気を引き締める。
「了解……ですけど、足止めもやってみますね……〈
リチルの魔法が発動した。
ブラウニーの足もと、周囲に赤い魔法陣が浮かび、炎が立ちあがった。かなりの技術を要する範囲型魔法だ。ニケが歓声をあげる。
「おおっ! リチルちゃん、やるぅ! よし、スミカ!」
「うん……! 〈
動きの止まったブラウニーに、スミカの繰り出した火球連弾が直撃!
「全弾命中……やるわね」
レインが感心している。
「やったかな?」
防御態勢を保ちつつニケが様子を確かめていると――カキン……ンン……。
奇妙な、硬い音の響きが起こった。ブラウニーの火のように燃えさかる眼球から、鉱石のような何かが浮きあがり、パリンッと弾けて消えた――ようにスミカには見えた。
何だろ……? と彼女が思う間もなく、
「繧ヲ繧ゥーーーーーーーッッ!!」
ブラウニーから強烈な
空気の波が見えるような、猛烈な波動である。
それを受けた途端、スミカの体からガクリと力が抜けていく。
(え……? え……?)
まるで足裏から血が流れ出していくような、自分の力、気力、活力が、栓が抜けたように失われていくような――そんな感覚がきて、ガックリと膝をついた。頭もぼんやりとして、うまく言葉を口にできない。
「あれ……?」
「う……」
ニケとリチルも同様の状態に陥っている。
体が動かない。
まるですぐ目の前で巨大な猛獣に
(あ……れ……? 動けないと、防げなくて……さっきみたいにあのハンマーで打たれて……私もみんなも、やられるんだろうな……。まずいなあ、痛いのはヤだなあ……)
強打撃を持つモンスターを前にして、体が動かないのは致命的だった。かわすことも逃げることもできない。このままいいように乱打されて、打ち
スミカたちの心に、絶望がじわじわと忍びより、心が黒々と染められていく……。
「ふんっ、こんなデバフ。〈
レインが涼しい顔で呪文を唱えた。
すると、一瞬でスミカの体が軽くなる。再び思うように動ける。気分の落ちこみも解消し、立ち上がる活力がわいてきた。
「あれ……あれれ?」
頭もすっきりとして、言の葉も口から自然に出てくる。
「今のは――」
「弱体化を付与してくるやつね。こいつ、強打だけでもやっかいのなに、こんなスキルまで持ってるなんて……」
「でもレインちゃんグッジョブです……! それにこちらのやることは同じです。〈
リチルの書いた幾本もの火矢が、ダダダダッと相手に直撃した。
体中に灼熱の大針を打たれたかのような姿だ。ブラウニーが数歩
「いょしっ! リチルちゃん、効いてる効いてる――えっ!?」
しかしモンスターの体表から、あっという間に火が消失していく。
「私も! 〈
続けてスミカの魔法! しかし――シュウゥゥ……。
火の消えた花火のように、小さな煙が立ちのぼるだけだ。
「そんなぁ……力不足なのかなぁ……」
スミカの落ちこんだ声がむなしく響く。
「急に火魔法が効かなくなった……? いえ、何か変だわ。リチルちゃん、別属性の攻撃、できる?」
レインのアドバイス。
「了解です……。〈
リチルの氷魔法があやまたずに着弾した。
「繧ャ繝!? 逞帙>逞帙>繧、繧ソ繧、繧」繧」繧」繧」繧」繧」繝?ャ!!」
ブラウニーから強烈な叫び声がおこる。
「今度は効いてるみたい!?」
ニケが明るい声を上げるのもつかの間――カキィィ……ンン……。
再び硬質な響きがブラウニーから聞こえてきた。その瞳に凍てついた結晶のようなものが浮きあがって――カシャンッと弾けて消えた。
(なんだろあれ……やっぱり見間違いじゃないよ……ね)
「…………」
レインは防御に専念しつつ相手の様子をじっと観察していたが、ここでスミカに指示を出す。
「スミカちゃん、氷魔法何か打てる?」
「やってみる! ええっと……〈
名前は微笑ましいが、こぶし大の氷のかたまりがモンスターに直撃した。人に当たれば大惨事だ。しかし――シュウゥゥ……。
アスファルトに落ちたアイスのように、簡単に溶けてしまった。
「あれ? 効いてない?」
ニケが驚いた声をあげ、レインは「確信した」という顔で大きくうなずいている。
「あれって、属性攻撃を受ける度に耐性がついてるわね。一度火属性を受ければ次はノーダメ。氷属性で攻撃されても同じく――」
「ということは……? たとえばこれからの攻撃もどんどん無効化されていく……ということ、なの……?」
リチルも理解したようだった。
「おそらくそう。属性全部使い切ったらこっちの攻撃が通らなくなる可能性が高いわね……くそっ! スペルブックよりもやっかいじゃない!」
レインちゃんが悪態をついた。幼い美幼女にしては、なかなか年季の入った迫力である。
「あと使えるのは? 今使ったのは火と氷だから……うぉっと!?」
ニケが天井を見上げて考えていると、再びハンマーの連打が襲いかかってきた。今のところ防御はなんとかなっている。なっているがしかし――このままではジリ貧だ。
「〈
レインも混乱してきたようだ。
「土です……。あの、提案なのですが、どうせなら属性をいくつかのっけて同時攻撃してみるのもアリかと……」
リチルの提案はかなり魅力的に聞こえる。まずニケがそれにのっかった。
「それよさそう! チマチマやってそれぞれ弾かれるより、ドドーンとやっちゃったほうがいいと思うよ!」
「ならもういっそ四つのせちゃいますか……? ちょうど四人ですし……」
「一理あるわね。そうね、ここは四人それぞれで四属性同時攻撃! それで一気に削る! いいアイディアかもだわ」
リチル、レインの意見が一致した。
場の流れ的に、ドカンと一発やる公算が高くなってきた。みなのテンションがあがる。もちろんスミカもノってきた。
「そうだねっ。四人で! ――え、四人? 私も?」
スミカもそのまま流れに流されそうになったが――自分も数に入っていることに今さらのように気づいてしまった。どれもまだ使ったことのない属性ばっかりだ。うまくできる自信がない。
「もちろんです……スミカさんもドカ〜ンとやっちゃってくださ〜い……!」
「リチルちゃんがまるでチュートリアルちゃんみたいなこと言ってるよぉ〜っ」
四分の一。突然重大な役割をふられてスミカは泣きそうだ。
「だいじょうぶだいじょうぶ! スミカちゃんならできるわ!」
「うんうん! スミカならできる!」
「だそうなので、できるはずです……! ふんすです……!」
レイン、ニケ、リチルにそれぞれおだてられ……ノセられ……もとい励まされて、スミカもだんだんその気になってきた。
「……うん、私もできる……ような気がする!」
そして急いでそれぞれが担当する属性の相談に入った。
まずニケが口火を切る。
「リチルちゃん風魔法いける? スケルトン戦のとき使ってたよね?」
「バッチリです……どんとおまかせを、です……」
リチルの担当は風魔法になった。そしてレインが続く。
「私は雷かしら。ときどきリアルでも雷落としてるしね」
「「「(リアルでカミナリ???)」」」
「ハッ!? おっほん……特に深い意味はないわよ? 私雷! ニケちゃんは?」
「わたしは水かなあ。水もしたたる、いい女を目指してるので!」
「「「……」」」
そしてスミカは——
(あれ? じゃあ私の担当は……土!?)
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