サイネリアの涙

時計の秒針 心を急かす

退屈 そのくせ 何も出来ず

往復 虚ろ眼 演じながら

私は何処にも行けなかった


誰にも追い付けやしない

独り 涙目 拭って

後ろ姿だけ 眺めていても


照らし月夜に作られた現し身

それとなく仄めかした自己暗示

咲き零れる涙を全て嘘にしたい

理想なんて幻想?


夢物語に 道を探す

差し伸べられた手 見えないふり

寒色 追憶 遠い記憶

私は何かが出来たのかな


同じ痛みじゃないから

やめて 早呑み込みして

推し量らないで 頷かないで


きらりきらり 私が零れてゆく

些細な言葉ですら死んでしまう

私を形作る全て 消し去りたい

私なんて要らない


届かない 幸せ


愛を汚して見てしまう

見分け つかない 疑い

疵付かない人に 何が分かるの


身を知る泉に肩まで浸かって

十まで数えたら何か変われる?

その淵でサイネリアの花が枯れていても

私には何も―――


その時 流した涙

花は 応えて 輝く

広がっていくように 泉が光る


ふわりふわり 光が浮かんでゆく

彩色なんてする必要もない

決して癒えることのない疵も忘れられる

泣いて 笑って


きらりきらり 全て満たされてゆく

照らし月夜は彼方に消えてゆく

これ以上 誰にも会えなくていいから

どうか このまま


どうか このまま

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