中編

 さて。そんなわけで急遽、俺の婚約者選びが開催された。




「わたくし、バカな男性は嫌いなんですの」


 なんて高慢発言をするのは侯爵令嬢のマキシーン、21歳。3人姉妹の真ん中だそうだ。姉は既に跡取り婿を得て(彼女は勝ち組にいたようだ)、妊娠中。末っ子はまだ12歳の女の子だけど、時代の違いから問題なく婚約者がいる。で、俺と歳がそう変わらなく、そろそろ厄介者になりつつあると言う彼女は『国内における女性地位の向上と男尊女卑について』という論文を発表し、世間を騒がせている才女だった。


 そりゃあまあ、こういう女性がいると世論は沸き立つし、舐めた態度をとる男性陣も浮ついた態度を改めるから意識改革から生産性の向上や生活改善にもなる。だけど、その余波でそれまで愛人で良かった人たちがポイ捨てされて、路頭に迷う人が増えていることも確かで、まあ愛人作る男が悪いんだろうけど、ぶっちゃけ俺の仕事も増える。


「では、女性の地位の向上のために、何を推進していらっしゃいますか」と尋ねたら、猛犬のように噛みつかれた。こええ。


「そういった考え方をする男性陣が多いから、国が変わらないのです!女性にも働く場所を与え、勉強する場を与えるべきなのです!」


 そういった考えって、どういった考え?え?上から目線?「お前に何ができるんだ、たかが女のくせに」といった態度?え?マジで?そんなつもりはないけど。


 貴族学院とか市民学校とか職業訓練所とか、勉強する場所与えられてるよね?質問箱も意識改革の一環から始まったことだし、地区開発でいつも労働者や技能者を募集している。病院でも看護師や看護婦が足りてないし、学校の教員ももっと欲しいところだ。俺も文官だけど半数は女性だし、侍女とかメイドも立派な仕事。なんなら王宮侍女の待遇は俺たち文官よりも数倍良い。今の王妃様が推進派なせいもあるし、国王は賢王で、平民の生活水準も10年前に比べて格段良くなっている。俺らのような嫡子以外にも就職の幅が広がっているおかげで、こうして仕事にあぶれることもない。


「愛人の地位で満足していらっしゃる女性まで、面倒は見切れませんわ!今の自分を作っているのは自分だと言うことですわ!向上心を持たなければ!」


 そりゃそうだけど。その向上心は、どうすれば芽生えるのかと聞いているんだけど。


 結果、どう討論しても交わることはなく、お相手は激昂して皿を投げ、お茶の途中でお帰りになった。


 いやぁ。俺、別に貴公子でも紳士でもないからさ。自分の分のケーキとお茶はしっかり最後までいただいてから帰りましたよ、当然彼女が割ったお皿は弁償して。帰ってから両親に手紙で次回に期待、と報告した。


 それから数週間経って二人目のお見合い。この方はおかんのオススメだとかで、何と11人姉妹の七女。すごいな、おい。女所帯だからって期待してるんだろ、おかん。こんだけ女に恵まれてる家系ならば、いける!とか握り拳作っていそう。


 彼女、アラインは男爵家の七女で歳は17歳。ぎりぎり俺らの世代の荒波の被害を被らなかったお年頃だ。貴族学院の3年生で、年上の頼り甲斐のある男性が好みなのだとか。なにせ女所帯で育ったから、男性の影がなく、一人が男性を連れてくると、取り合いになるのだそうだ。獲物か何か!?


「だから、わたくし目立たないどこにでもいるような容姿の方で、わたくしだけを愛して溺愛してくれるような懐の大きな方を探していますの」


 子沢山の弊害か。父親しか男がいない中、11人の姉妹と母で愛情を分け合いながら育ったと。男爵の甲斐性もすごいけど男爵夫人も11人も頑張ったのか。あっぱれだ。


 あ、ちなみにうちの義姉、無事男の子を出産しました。赤子はやはり可愛いらしく、初めての内孫に両親はデロデロに溶かされているようでひとまず安心。義姉はこれ以上は無理、もうダメ、おっぱい痛い、寝たいと音を上げているようだけど。おっぱい痛いって何?赤子が吸うから?なんで、ヒューゴも頑張って子育てしてる様子。俺は赤子の首が据わってから参加する予定。怖いじゃん、ぽろっと首とかもげちゃったら。


 ひとまずアライン嬢との1回目の会合は成功したので、これからお付き合いを進めるべく何度かデートを繰り返したのだけど、心が折れそうな今日この頃。


 そもそもからして、目立たないどこにでもいる容貌って言うのが「あれ?何気に貶さディスられてる?」とか思ったんだけどさ。まあ、本当のことだし、それを本人が望んでいるんだからと思ったんだ。でもね、会うたびに同じ文官仲間のダレン様がかっこいいとか、もっと高級なレストランに行きたいとか、会いたい時に会えないなんて!とかいうのは、えー、ちょっと勘弁してほしい。


 だって俺、下っ端の文官だって言ったよね?そんなに頻繁にレストランに行けるほどの収入もないし、時間だって自由にならない。一応週休だけど、それだって問題が起これば返上しなくちゃならなくて。「浮気してもいいの!?」って、いやよくないけど。浮気したいんだ?


 1ヶ月ほど経って、アライン嬢は「パパ」をデートに連れてきた。


「だってあなたがちゃんとわたくしを見てくれないから」「寂しくて」「パパは優しいし、なんでも買ってくれるし、会いたい時に会えるし」と泣きながら訴えられて、「それじゃあ、その方とどうぞ仲良く」と言ったら号泣して引っ叩かれた。


「パパ」は40代のワイン商会の重役さんで、優しくしてくれるのだそう。結婚に憧れていたアライン嬢は、彼の第3夫人になるのだと豪語したところで、二人揃って街の衛兵に捉えられた。


 この国は一夫一婦制だよ。第3夫人って何。こんな街中でそんなこと言ったら、捕まって当然じゃないか。愛人になるって言うならまだしもさ。「お父様は私を含めて12人の女性に囲まれてても大丈夫なのに!?」って驚いてたけど、それ奥様と11人の娘だろうが。え。もしかして男爵、そういう愛し方、娘たちとしてるの!?


 というわけで、さすがの「パパ」も衛兵たちも真っ青、男爵家ごと詰問されることになった。思いっきり引いたので、その後どうなったかは聞きたくない。でもさ、考えてもみれば11人中の七女だったアライン嬢には6人の姉がいることになる。その全員が全て男爵家で暮らしているというのは、ちょっと、アレェ?だよねえ。


 真相は闇の中だけど。

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