第43話

着替え終わりました。早く行きましょう」


「そんなに急がなくても・・・・・・」


朝七時。


まなは久しぶりの学校、そして学校祭に参加できるということでこの時間からとてもテンションが高い。


「しょうがないじゃないですか。最後の学校祭ですよ? 楽しみでないわけがないんですから。というわけで早く出発しましょう」


「はいはい。それじゃあ受付で手続きしてから外に行こうか」


「早くしてくださいね!」


ーーーーーーーーーーーーーー

「よし、じゃあ学校に向うよって。なんで亮太たちがここに?」


「まなみんが学校に来るって聞いて迎えにきたの!」


病院の玄関を出ると、亮太と新村さんがまなと話していた。


「すまんな。朝っぱらから迷惑だとは言ったんだけど聞かなくてさ、代わりに俺も付いてきた」


「まあ、いいけど」


「それじゃあ早く行こ! ていうか本当に久しぶり! 本当に元気になってくれてよかった」


「空くんから、お二人がお見舞いに来てくれたと聞きました。本当に心配をおかけしてすみません・・・」


「まなみんが元気になってくれたなら私はそれでいいよ! それに、これは謝ることじゃないんだから気にしないで!」


俺と亮太の前でまなと新村さんが楽しそうに会話している。


本当に日常に戻れてよかった。


「まなさん、元気になってくれてよかったな。車椅子だけど、もう退院できるのか?」


「いや。今日は特別に外出許可が出てるだけで、まだ入院中だ。それに、表面上は元気に見えても心に大きい傷を抱えているのには変わらない。だからまだ今は色々と慎重に進んでいくつもりだ」


「そっか。たしかに、一週間寝たきりだったのが急に外を歩けるわけないか。まあでもとりあえずはよかったよ。もうお前のあんな顔を見るのも嫌だしな」


「そんなにひどかったか?」


「それはもう。見てる俺たちにまで不幸が移るんじゃないかってぐらい死んだ顔をしてたぞ」


「え・・・・・・。そんなにか。俺的には結構元気を装ってたつもりなんだけどな」


「ははっ、どこがだよ。あれで隠してたつもりならお前は演技が下手くそすぎる」


こんなに笑えるのは久しぶりだ。


そう考えるとたしかに俺は元気がなかったのかもしれない。


「ちょっとー。ふたりとも早くしてよ! 先に行っちゃうよー!」


「やべっ。沙奈がお怒りだ! おい空、早く行くぞ!」


「え、あ、ちょっと!」


亮太が急に走り出し、俺も釣られて走り出した。


そして学校に到着すると、校門に大きな看板ができていた。


「うわー! 空くん見てください! 学校祭ですね!」


「そうだね。それにしても、まだ八時にもなってないのにすごい人の数だな」


「外に屋台を建てられるのは今日だからな。早く建てないと二日目開始に間に合わないんだよ」


「そんなもんか。いつも俺は八時過ぎてから来てたから知らなかったよ」


「そうなんですか? 私はてっきり空くんは毎年準備を頑張っているものだと思っていました」


「いやいやまなさん。こいつがそんなことするわけ無いだろ? 今年はまなさんと一緒だから張り切ってるだけだよ」


「ふふ、そうだったんですね。空くんは私にかっこいいところを見せたかったということですか?」


「なっ! そ、そうだけどさ。おい亮太! よけいなことを言うな!」


俺は恥ずかしさを紛らわせるために亮太に飛びついて肘で小突いた。


「ちょ、痛い痛い、ごめんって。沙奈! ちょっと助けてくれ!」


「いやよ。これは亮太が悪いんだからおとなしくやられてなさい」


「そんな~」


「ふふっ」


まなの方を見るととても楽しそうに笑っている。


「あの、そろそろ教室に行きませんか? 私、早く見たいです」


「そうだな。それじゃあ行くか」


まず教室に着いたらみんなに謝ろう。


実行委員でありながら一週間も学校を休んで準備を任せきりにしてしまったこと。


そして、今からやる最後の仕上げを最大限手伝うんだ。


「あ、天心じゃん! 今日は来れたのか!」


「ああ、おはよう、西田」


教室に到着して最初に俺達に声をかけてきたのは、たこ焼き屋をやりたいと提案した西田蓮だった。


提案が通ったことで俺と何度か打ち合わせをしていたので、この通り挨拶をする程度には仲が良くなっている。


そして、西田に続いて、クラスにいた連中がどんどん俺たちによってきた。


「みんな、その・・・・・・。一週間も休んで準備を任せきりにしてしまって本当にごめん!」


クラスに沈黙が流れ・・・ることはなく、みんなが次々と反応を示してくれる。


「いいんだよ! あんだけの間休んで、若井さんは車椅子に乗ってるし、大変だったんだろ? そりゃ仕方ないって! その分今日は働いてもらうけどな!」


そういった西田の後に続いてみんなも口々に俺たちのことを逆に心配してくれている。


「ああ、それは任せてくれ。できることは何でもするよ。もちろんまなの分も」


「私はこんな状態なので、座ったままできることがあれば何かさせてほしいです」


「そっか。それじゃあ空は客が座る用の椅子と机をセッティングしてくれ。若井さんは、今はやることがなさそうだから新村さんと一緒に休んでくれて大丈夫だよ」


「わかった。亮太も借りていいか?」


「大丈夫。こいつに任せてある仕事は全部終わってるから」


そう言って西田たちはそれぞれ準備に戻っていった。


「それじゃあ俺たちも始めようか。まなは西田もああ言っていたし、どこかでゆっくりしていてくれ。新村さん、まなのことを頼んだ」


「任せて!」


「ありがとうございます。それじゃあ頼りにさせていただきますね」


そうして俺たちはみんなへの謝罪を終えて最後の準備に加わった。


まなはとても楽しそうにしていて、とりあえず今は心配しなくて良さそうだ。


このまま面倒事が起こらずに一日が終わればいいけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る