第24話

次に目が覚めたとき、時刻はすでに八時五十分を回っていた。


や、やばい。完全に遅刻だ。


あれ、そういえばまなはどこいたんだ?


ふと、隣に目を向けてみるとそこにまなの姿はなく、よく見ると夜に片付けないで放置していた食器たちもなくなっていた。


まなはもう起きてるのか。


・・・・・・あれ、じゃあまなは俺を無視して先に学校に行ったってこと?


なんて邪推をそていたその時、ドアが空いた。


「あ、起きたんですね、おはようございます空くん。随分とお寝坊さんですね」


「あ、ああ。おはよう、熱は下がったの?それに学校は?」


「熱はもう下がってとても元気になりましたよ。学校は今日は休んじゃいました。空くんも起きないし、私だけ行くのもなんだか乗り気にならなくて。あ、空くんの連絡はお義母さんにお願いしておきました」


「そ、そっか。今日は休んだのか。まあ今日ぐらいはいいんじゃないかな。まなも病み上がりだしね」


「それじゃあまずご飯を食べましょう。キッチンを見ましたが、空くんは昨日、晩ごはんを食べていませんね?」


あ。確かに昨日はまなのことで頭が一杯で何も食べていない。


「そう言われると確かに食べてないかも。もうお腹ペコペコだよ」


「私は支度をしておきますから、服を着替えて顔を洗ってきてくださいね」


「わかったよ。あ、ねえまな?どうして一度も目を合わせてくれないの?」


そう、この一連の会話の中で、まなは一度もこちらに目を向けてくれなかった。

理由は大方予想がつくが、それでもやはり目を合わせてくれないというのはなかなか傷つくものだ。


「そ、そんなことは、ない、ですよ?」


明らかに動揺していた。


顔が赤くなっているし、目が泳いでいる。


これだからまなには意地悪をしたくなってしまうのだ。


「ふ~ん?じゃあ、こっち見て?」


「い、いえ。それはちょっと今は・・・・・・」


「じゃあ俺の方からまなの視界に入りにいこうかな」


やばい、ニヤニヤが止まらない。今まなに顔を見られたらまた怒られてしまう。

でも仕方がないじゃないか。まながこんなに可愛いのが悪いだろう。


それから少し沈黙が続いたが、一向にまなが目を合わせてくれる様子がないので、俺は仕方なく体を動かし始めた。


ベッドから体を起こし、まなのいる方にゆっくりと歩いていく。


まなは俺よりも身長が低いため、俺を視界に入れないように下を向いていた。


まなの目の前に到着して、俺は最後の忠告をする。


「まな、人に無理やりやらされるより自分でやったほうがいいんじゃない?それとも俺のこと嫌いになった?」


そう言うとまなはすぐにこっちを見た。


「空くんのことを嫌いになんてならな!・・・・・・あ」


まなの言葉はそこで途切れて、段々と目が恨めしそうな雰囲気へと変わっていった。

そして、まるで拗ねた幼稚園児のように頬を膨らませて話はじめた。


「もうっ、空くんはずるいです。そうやって私のことをいじめて楽しいですか?」


「ははっ、ごめんごめん、そんなつもりじゃなかったんだけどさ、まなが可愛いからついやりたくなっちゃうんだよ。ほら、小学生とかさ、好きな子にちょっかいかけてよく怒られてるでしょ?それそれ」


俺が話している間にまなは少し落ち着いたようで、まだ拗ねつつもちゃんとこちらを見たまま話してくれた。


「つまり空くんの精神年齢は小学生と同等だと考えていいですか?そうですか、空くんは中身が小学生だったんですね。そう考えればこのような意地悪も許してあげないとですね。だって空くんは子供ですから、ふふっ」


なんか馬鹿にしてないですか?これ。


まあまなの機嫌がなおったならこれでいいか。


「お話はこの辺にしておいてさ、俺本当にお腹空いてきたから早くご飯を食べたいな」


「あ、そうですね。すっかり忘れていました。それじゃあ準備してきます!」


そう言ってまなは駆け足でキッチンの方へと戻っていった。


「さて、とりあえず着替えるか。それにしても平日のこんな時間に起きるなんて。なんだか罪悪感がすごいな」


それもそのはずだった。


俺はこれでも学校をずる休みしたことがなく、体調不良で休むことも殆どなかった。


それに、夏休みが終わってまだ二日目だというのにずる休みをしてしまうとは。


「ま、もう休んでしまったものは仕方がないか」


そんなことを考えているとリビングからまなの声が聞こえてきた。


「空くーん、ご飯の準備できましたよ、早くしてくださーい」


「ごめん、今行くよ」


ドア越しでの会話だったため、少し声を張り上げて答えて、俺は洗面所を経由してリビングへと向かった。

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