第7話
さて、そろそろいこうか。準備はもう大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ」
「ここからまず札幌駅に行くんだよね?」
時刻は午前九時十五分、僕たちは新婚旅行に出発しようとしていた。
「そうですね。家の前のバス停から札幌駅までまず行きます。バスの時間がたしか・・・・・・あ! あと五分で来てしまいます! 早く行きましょう!!」
そんなこんなで慌ただしく僕たちの旅行がスタートした。
「ふぅ、ギリギリ間に合ったね。なかなか危なかったけど・・・・・・」
「まさかエレベーターがあそこまで混んでいるとは、さすがに予想外でした」
結構軽く談笑しているが、本当に危なかった。
僕たちが一階のロビーについたとほぼ同時にバスもバス停に着いていたのだ。
家の前のバス停は一時間に一本しか通っていないため、これを逃したらスケジュールに大幅なずれが生じていただろう。
「このバスって三十分ぐらいで駅につくんだよね?結構時間あるな・・・・・・」
突然だが僕にはこの旅行で達成したい目標をいくつか設けていた。
まずひとつめ、それはカップルならだれでも憧れるであろうイヤホンのお裾分けである。
これだけ聞いたら、こう考える人もいるだろう。
夫婦なのにそんなことで・・・・・・ってね。
だが待ってくれ。僕たちは交際期間を飛ばしていきなり結婚しているわけだから、そういう進展はそこら辺のカップルと大差ないのだ。
ということで僕は今からそれを切り出そうと思う。
「ねぇ、まな? 僕たちって結婚している訳だけどさ、まだお互いに知らない部分が少なからずあると思うんだ」
「なんですか? 急に改まって。まぁでも、確かにそうですね」
「ということでまなには僕の好きなことを知ってもらいたいんだ。そのうちのひとつが音楽を聞く事なんだけど、一緒に聞かない?」
よし、言った。僕は言ったぞ!!!
「なるほど、いいですねそれ。ぜひ聞かせてください」
よし! 目標ひとつめ達成だ!!
「それじゃあこのイヤホン方耳つけて?」
そう言って僕はイヤホンを差し出す。
普段はワイヤレスを使っているが、今日のためだけにわざわざ有線を買ってきた。
「なんかこのイヤホン短くないですか?」
ギクッ。
ふむ、なかなか勘が鋭いなこの子。
まなの言う通りこのイヤホンは結構短い。
なんでそんなもの買ったのかって?
それはね、二人でこのイヤホンをつけたら密着できるからだよ!!
あ、別にやましい気持ちがあるわけじゃないよ?!
たださ、まなってスキンシップが苦手だから、こういうところでなれていってほしいなって思っただけだ。
「まぁまぁ、そんなことないと思うよ?それより僕が好きなアーティストなんだけどさ・・・・・・」
危うくバレそうになったもののなんとかごまかすことに成功した僕は、心の中で成功を噛み締めつつ、旅行の始まりを実感しているのだった。
あれから約三十分、僕たちはバスを降りて電車の切符売り場に来ていた。
「切符はどれを買えばいいんだろう、まなわかる?」
「えっとですね、確かこのマップに書いていたはず・・・・・・」
そう言って真剣にスマホとにらめっこをしているまなをみていると無償に頭を撫でたくなって腕をうごかしたが、ここが公共の場だということを思い出してすぐに引っ込めるのだった。
「あ、ありました。えーっと登別までは二千四百二十円ですね。なかなか高いです」
「おけい、調べてくれてありがとね」
そういって僕は万札を機械に投入し、切符を購入する。
「さて、次の電車までまだ時間あるね。どうやって時間を潰そうか」
次の電車が来るのは十時二十分だと、先程チラ見した電工掲示板に書いてあった。
「なにかやりたいことがないのであればコンビニによってもいいですか? 電車に乗ってしまったらもう一時間以上降りることはできないので、飲み物と少しつまめる物を買っておきたいです。私たちは指定席を取っているので他の方に迷惑をかけるということもないでしょうし」
「それもそうだね、それじゃあコンビニにいこうか。たしかこの駅はコンビニが地下に入っていた筈だから、地下にいこうか」
そういって僕はまなが持っている荷物を貰ってゆっくり歩き出した。
コンビニでの買い物が終わり、僕たちはホームで電車を待っていた。
「僕電車で遠出するの初めてかも。去年の修学旅行はバスと飛行機だったし、家族で出掛けるときはいつも車だったからさ。まなは電車で遠出とかしたことある?」
「私はまず遠出することがあまりなかったですね。結婚するときにもいいましたが両親が海外にいってるので」
そういってまなは少し顔をしたにむける。
まずい、家族関係はあまり話題に出さない方がいいのかもしれない。
でもあとひとつだけ言っておくか。
「そっか・・・・・・。じゃあまなは初めての家族旅行だね。これまでいかなかったなら、これからいっぱいいけばいいんだよ。だって僕たちは家族なんだからさ!」
そう言って僕はまなの手を優しく握った。
するとまなは少しだけ顔をあげてこっちを見てくれた。しかし、
「ありがとうございます・・・・・・」
と、一言だけ残してもう一度下を向いてしまう。
しかしもう大丈夫そうだ。
すこし顔をあげてくれた時に頬が真っ赤に染まっているのが見えたから。
それからしばらく僕たちは無言で居たけれど、決して悪い雰囲気ではなかったと思う。
それにしてもまなの両親、か。
彼女の両親は、父親の出張に母親も着いていっているため二人とも海外にいるという話だが、それにしてもだ。
娘が結婚するというのにメッセージの一つも寄越さないなんてことあるか?
まなも二人のことに関してはなぜか話したがらないし、少し気になるな。
いや、今はそういうことを考えるのはやめよう。
せっかく二人で旅行に来たのだから、今は今を目一杯楽しもう。
と、自分のなかで一区切り着いたとこに、タイミングよく目的の電車が到着した。
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