第三・五章

ゴールデンウィークの思い出

 今日は、光と一緒に、お母さんにあげる、母の日のプレゼントを選んできた。


「今日も楽しかったなー」


 寝る支度を済ませたし、寝るだけだ。一日行動して、疲れた。勢いに身を任せてベッドに飛び込む。


「良いゴールデンウィークを過ごせて嬉しい」


 厳密に言えば明日もゴールデンウィークだけど、予定がないから、ゆっくり休むことにする。思い出づくりは、今日までだ。


「大学生になって、良い思い出しかないよ」


 ベッドから、自分の白い机が見える。その上には、白い貝殻数枚を入れてあるチャック付きのポリ袋と、小さい鯉のぼりが置いてある。


「どれも、光との思い出ばっかり」


 光には、返しきれない恩ができてしまった。私のトラウマを少しずつ克服させてくれたこと、嫌がらずにリハビリ関係を続けてくれていること。


「光には、助けられてばっかりね」


 光がいなければ、トラウマと立ち向かうことが出来なかった。


「光ありがとう。今度は、私が光のトラウマを克服させる番」


 光のトラウマは、女性のことが好きになれないこと。


「てことは、光に好きな女性ができたら、トラウマの克服ができたってこと」


 光は、優しいし、気を使ってくれたりしてくれるから、恋愛に前向きになってくれたら、女性に好かれる性格をしている。


「光に彼女ができるのか」


 光に彼女ができれば、今まで通りに遊ぶことは、できなくなるかもしれない。でも、トラウマを克服しないと光は、恋愛を避けてしまう男性になってしまう。


「光は、彼女を大切にする人だよね」


 出会ってから、私に今までしてくれた以上のことを、光なら彼女にしてあげると思う。


「光のトラウマ克服大作戦頑張るぞー」


 言葉に出して、自分の心にも決意を表明する。


「でも、光と遊べなくなるのは嫌だ」


 あれ? 私なに言っているのだろう。自分から切り出した関係で、関係の終わりも自分で作った。それなのに、私なにを言っているの。


「光に、好きな人できなければいいのに」


 心では、そうでありたいと願っているのに、言葉に出るのは反対の言葉。それに、今の言葉、ひどすぎるでしょ。


「きっと、疲れているんだ」


 今日は、リハビリとお出かけがあったから、疲れたんだ。


「早く寝よう」


 部屋の電気を消して、ベッドの中に入る。


「光、重たいこと言ってごめん」


 無音になり、作業もしなくなると、頭の中で、『光に、好きな人できなければいいのに』を言葉にして言った罪悪感が生まれる。


「私、ダメだ」


 気が付いたら、前みたいに罪悪感から逃げようとして、光にメッセージを送ろうとしていた。


「まるで、私が依存しているみたいじゃない」


 携帯を閉じて、目をつぶって寝ようとした。


 もう少しで、寝られるとこで、通知音がなった。


「誰?」


 こんな時間に一体誰だろう。


『夜遅くにすまない。咲、月曜の大学って必要なものあったか?』


「え、光!?」


 びっくりして、部屋の壁に手をぶつけてしまった。


「いったぁ」


 私、何しているの。落ち着こう。ただ、光から連絡が来ただけ。


『特に、持ってくるものは、なかったよ』


『そうか。ありがとう』


『うん。大丈夫だよ』


『夜遅くにすまなかった。おやすみ』


『大丈夫だよ。おやすみ』


 光とのメッセージのやり取りは、終わる。


「へへ、おやすみだって」


 なにごとかと思った。内容は、月曜の休み明けにある大学についてだった。


「あ、私、なに笑っているの」


 メッセージのやり取りをして、頬が緩んでいる自分に気づいた。ただ、連絡を取り合っていただけじゃない。


「早く寝よう」


 今日の自分は、どこかおかしい。そんな気がする。あらためて、目をつぶった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る