心の違和感
大学生活が始まって一週間経った。みんな、少しずつ大学生活に慣れて来たのか、友達の輪を広げてきて、いろんな人と会話しているのが見るようになった。
入学当初は、俺によく話しかけてきた咲も、同性の友達ができたみたいで、三人ぐらいの人数で行動をしているのが、見かける。咲と直接話す機会が減った分、増えたものがある。
『今日のランチは、学食のハンバーグ』
メッセージがよく送られるようになった。
『美味しそうだね』
『めちゃくちゃ美味いよ。食べてみてー』
最近は、夜にもメッセージがくる。しかも、返信速度も早いと来た。暇な時間があると、嫌な事を思い出してしまうから、個人的にはありがたい。過去に囚われなくて済む。
「なあ、光。コンビニ行こうぜ!」
携帯をいじっていると、同じ学科の
元々野球部だったらしく、少し伸びた髪に、色黒な肌と体型が筋肉質である。俺と真逆の体型と肌だな。
「光って、いつも服装シンプルだよな」
「そうか?」
「今日なんて、白シャツと黒パンだろ」
「確かに、言われてみれば」
「俺なんか、古着屋で服を漁るの好きだから、今日着ているシャツなんて、胸ポケットにフランス国旗が描いてあるぜ」
「そうなんだ」
どこが良いのか、さっぱりわからなかった。進って、独特な感性をしている男だ。
「それよりもさ」
「ん?」
「咲ちゃんと、どんな関係なの?」
「友達だよ」
自分では気にしていなかったが、大学生活の二日目と三日目で、咲とよく話していたのが、だいぶ学科内で注目されてしまっていたらしい。学科内の男女と話すと、必ずと言っていいほど、この話を振られる。
「嘘だー、付き合っているって言いなよ」
「残念だが、友達だ」
「まじ?」
「うん、まじ」
「俺は、信じない」
「信じろ」
進と、このやり取り何回目だ。最低でも、三回はしている気がする。俺と咲の間に何か特別な関係が、あると思っているらしい。
「咲ちゃん、学科内にいるギャル集団よりは目立たないけど、ポニーテールが似合って、可愛いじゃん。絶対に何かあると思うけどなー」
「そんなのは、ないから」
多分来週、また聞かれるな。確かに、メッセージは頻繁に送られて、やり取りはするが、それだけの関係だ。
「光って、もしかして恋愛に興味ないの?」
「興味がないというか、恋愛をする気分じゃない」
「もったいないなー。俺なんて、彼女が降ってくるって聞いたら、全力で抱きしめる準備、いつでも出来ているのに」
「どんな状況だよそれ」
そんな話をしているうちにコンビニに着いた。光晴大には、大学内にコンビニが併設されてある。昼休みになると、みんなコンビニに集まるので、時間をずらして行くのが、並ばなくて良い。
コンビニに入ると、俺と進は、別行動で欲しいものを買いに行く。誘われて来たけど、特に欲しい物がないな。
「よ、光」
「咲か」
商品を見ている時、咲に後ろから話しかけられた。さっき、学食食べているって言っていたけど、コンビニに来たのか。
「何、買いに来たの?」
「特に決めてない。おやつとか」
「私が、光を買うお菓子を決める」
「買って、後で俺にちょうだいって言うパターンね」
「ばれた?」
「咲の考えが、わかってきた」
「後でちょうだい」
「まぁ、いいよ」
買ったら、進にも分けるつもりだったし、もう一人増えても問題ない。
「このポッキーに決めた」
「これだな。わかった」
咲が選んだ、ポッキーを手に取り会計に並ぶ。
「あげるのは、講義室に着いてからでいいか?」
「うん、いいよ」
「ねぇ、咲、見て雑誌の新刊が発売されている」
コンビニの雑誌コーナーから、咲を呼ぶ女性の声が聞こえた。
「今、行くー。また、後でね」
「あぁ、また講義室で」
俺が、そう返事すると咲は笑顔で手を振り、雑誌コーナーの方に消えて行った。
コンビニから出ると、進が先に買い物を済ませていたようで、外で待っていた。そのまま、次の講義室に向かう。
「光、次の授業、教授誰だっけ?」
「遠藤教授だった気がする」
「げ、あの教授かよ。先輩から聞いたけど、レポートの数が多いらしんだよね。萎えるわー」
「まじか」
宿題が多いのは、嫌だな。配られない事を祈るか。
講義室に入ってみると、少し時間の余裕があったのか、人数は少なかった。
「今なら好きな席に座れるぞ」
進は、意気揚々と、いい感じ位置にある席に座る。
「光も隣に座れよ」
「そうするか」
進に勧められるがまま、隣の席に座った。
「ちょっと、トイレ行って来るわ」
「行ってらー」
進が講義室を出るのと、すれ違いで咲が入って来た。咲は、俺を見ると笑顔になり、近寄ってくる。
「みーけっ。貰いにきちゃった」
「はい、どうぞ」
ポッキーの袋を開けて、咲に渡そうとする。
「私、今両手埋まっている」
「今、片手に持っているカバンを両手で持って……」
咲は、口を少し開けて、ポッキーをくれと要求する。仕方ないか、ポッキーを一本取り出して、咲の口まで手を伸ばす。
「あひがとう」
「食べてから、喋れ」
咲は、満足そうな顔をして、その場から立ち去った。今の咲の行動、男子だったら、胸がどきっとする行動だぞ。俺でも、少しはどきって……しない?
「何で、どきってしないんだ?」
初めて自分の心に違和感を覚えた。考えてみれば、大学入学してから、異性に対して何か思った事がなかった。少しは、異性と接して入れば、何かしら、少し感情が湧くはずだ。
「トイレ、混んでいて時間かかったー」
「あぁ」
進がトイレから戻ってくる。
「光、何かあった?」
「いや何も。進、一つ質問いいか?」
「いいぞ。何でも聞いてくれ」
「恋人ではない異性だったら、何で緊張する?」
「変わった質問だな。そうだなー、突然触られたり、あーんを要求されたり、不意な行動される時とか?」
「そうだよな。ありがとう」
「ん?」
進は、不思議そうな顔をする。なんだか、心がおかしい。いや、年齢を重ねて来たから、心が揺れる事がなくなっただけかもしれない。でも、何か心に異変がある気がする。その後の授業は、自分の心に起きている異変について、考えたが答えは、でなかった。
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