小さな希望
次の日は、大学の
「多分、ここだな」
講義室に入ると、入学式に見かけた顔見知りの人達が何人かいた。すぐに立つ事ができる席がいいな。端の席を見つけたので、カバンを置いて座る。
「やることがない」
適当にニュースを携帯でみるか。
「ねぇ、隣に座って良い?」
「あ、いいよ。ん?」
『ねぇ』昨日何回も聞いたフレーズだ。この声も聞き覚えがある。横を向くと、昨日話しかけてきた、桜木咲が隣にいた。
「よ! また会ったね」
「よ、よお」
桜木咲は、大きめな白いパーカーをゆったり着ている。そのおかげか。昨日の引き締まった雰囲気とは違い、柔らかい雰囲気を感じる。それにしても、その服装……
「あれ、私と同じ色のパーカー着ているじゃん」
咲と服装が被っていた。同じ男性なら気にしないが、異性で被るのは、気持ちが複雑だな。
「おそろじゃん!」
俺の心境とは逆で、咲は気にしてない様子だ。なら、いいか。俺も気にし過ぎていたようだ。
「反応に困るんだが?」
「服装被った事を気にするんだ。可愛いとこあるねー」
咲は、笑顔で隣の席に座った。朝から、すごく元気だな。
「なぁ」
「ん?」
「俺と咲って、どこかで会った事あるか?」
「いや、昨日が初めましてだよ」
そうだよな。なんで、こんなに話しかけて来るのだ?
「あ、もしかして、なんで私が話しかけて来るのか気になっている?」
「う、うん」
ふわふわしている雰囲気しといて、なんて観察眼をしている。心を見透かされているみたいだ。
「それはねー、話していて下心を感じない人だから」
「そんな理由?」
「そうよ。私、こう見えて、でているとこ、でてるから。男子と話していると、目線で、胸見ているとか、わかっちゃうんだよね」
「へぇ」
今、視線を落とすのは、流石にまずいから、落とすことができない。だけど、言われてみれば昨日会った時、足とか細かったけど、胸の膨らみはあった気がする。
「それに」
「まだあるのか?」
「何か闇を抱えてそうな感じがするから、気になっている」
女性って、こんなに見透かしているのか? 怖くなってきた。もしかしたら当てずっぽうで、聞いているだけかもしれない。
「なんで、そう思うのか理由を聞いてもいい?」
「んー、女性と普通に話せるぐらいのコミュ力を持っているのに、自分から人と話そうとしないとこ。それと、昨日の朝バス停で、光を見かけたんだけど、みんな緊張とか嬉しさの表情をしていたのに、悲しそうな顔をしていたから。とても、今日から大学生活を始めますって顔は、していなかったよ」
「心理学を学んで、メンタリストになれば良かったんじゃないか? 普通に才能あると思うよ」
「てことは、正解って事でいいの?」
「それは、返答できないってことで」
「そっか。まだ、大学生活四年間あるし、気長に待つよ」
「俺が答える前提かい」
そんな、話をしていると教授が講義室に入って来て、プリントを配布し、オリエンテーションを始める。こういう説明ばっかりの時間苦手なんだよな。机の下で、携帯ゲームでもするか。暇すぎる。
俺の前にある机が優しく叩かれる音が聞こえる。
『何しているの?』
咲が、さっき配布されたプリントの裏にメッセージを書いて、俺に見せている。さっき配られた、プリントをメモ用紙代わりに使うな。教授、泣いちゃうぞ。
咲の顔を見ると、片方のひじを机に付け、手に顔を乗せて、俺の方を見ている。そして、プリントを指さしている。ここに書けってことか。
『ゲームをしている』
『あらあら、悪い人が隣にいた』
『なんか用か?』
『んー、特にないかな。暇だった』
『俺は、ゲームする事にするよ』
『えー、私の話し相手になってよ』
どんな話題で話そうか。考えていると、咲が続いて、メッセージを書く。
『ねぇ、メッセージアプリやっている?』
『もちろん、やっているよ』
『私と連絡先、交換してよ。手が疲れた』
そのメッセージを書くと、咲は俺にメッセージアプリの番号を見せて来た。断る理由ないから、交換していいか。携帯のメッセージアプリに先の番号を登録して、追加する。
『追加してくれて、ありがとー!』
早速メッセージが送られてきた。
『よろしくー』
『何話そう?』
『とりあえず、教授の話を聞こうか』
『えー』
そんな、やり取りをしている内に、オリエンテーションの授業が終わる。初めて、大学の人と連絡先を交換したのが、まさか女子になるとは思わなかった。そんな感想、咲には言うつもりない。
次の場所では、学籍順で座る事に咲とは離れたが、携帯を開くたびメッセージが送られてきていた。
「そういえば、元カノの事あんまり考えなくなっているな」
新しい環境、新しい人間関係で刺激をもらったのか、元カノの事を思い出す回数が少なくなってきている気がする。思い出す事もあるけど、立ち直れそうな小さな希望が見つけられた気がした。
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