第12話 お化け屋敷の門番(12、門番)


そのお化け屋敷には、入れる人間と入れない人間を選別している門番がいるらしい。

私・芽吹菫が大学でそんな話を聞いたのは、偶然だった。聞こえて来る話を繋げると、大学近くのお化け屋敷ーー門扉がある古い和風の屋敷廃墟ーー前に、夕方以降人が立っているそうな。

肝試しで訪れた学生グループは、紫色の浴衣姿の男が、一人で立っているのを見たらしい。肝試しに来たことは伏せて何をしているのか聞いたところ、門番をしている、と言う。「君たちは全員入れるから、入っても良いよ。肝試しでしょう?」と笑った顔が何とも不気味で、グループはそのまま逃げ帰って来た。

またある人は、友人と二人で訪れた際、紫色の浴衣姿の男が「友人は入れるが君は入れない」ときっぱり言われた。友人が入ると、中で恐ろしい体験をして直ぐ帰って来た。男に尋ねても、「入れるか入れないかだけ」としか答えて貰えず、やはり二人で逃げ帰った。

ただの不審者では?と思う。けれど、肝試し目的で行った人しか、この浴衣の男は見ないという説もある。変な話があるものだ。

ある日、学食で友人とご飯を食べていたら、近くのテーブルから話が聞こえて来た。女子の声。かなり大声で話している。

「行ったよ!あの、門番がいるお化け屋敷」

「どうだった?」

「あたし入れて七人で行ってさー、本当に紫色の浴衣の男の人がいたんだよ!美形でイケメンなの!あんなとこ居なかったら、結構良いなって感じ?あはは、やだ冗談だよ。お化け屋敷で門番してるような人とか、怖いじゃん!それで、皆さん入れます。肝試しでしょう?どうぞって言われて!あたし急に怖くなったからさ、待ってたの。みんなは入っちゃったんだよね。あたし置いて。ちょっと酷いよねーあはは。でさ、中に入ったみんな、死んじゃった!」

ぎょっとして、思わず友人と顔を見合わせた。

「バカだよねーみんな。あの屋敷が何か知らないからさ。え?知らない?あはは、じゃあ知らないままで良いんじゃない。知らない方が良いこともあるって言うしー。本当みんなバカ!あはは!」

ガタガタと椅子が動く音がした。席を立つらしい。私はそっと、声の方を見る。紫色の長髪をツインテールにした派手な格好の女子が一人、真顔でトレーを手に立ち去るところだった。相槌の相手はどこにもいない。彼女は何事も無かったように歩き去って行く。

「……二人で会話してたよね?女の子でさ、どうだったの?とか、イケメン良いなーとか、言ってたよね?」

友人の言葉に、私は頷くことしか出来なかった。

確かに、相槌の声はずっと女子だったが、最初の「どうだった?」以外、私にはずっと「あなたも行くんだよ」と聞こえていたことは黙っておいた。


後日。その屋敷で、肝試しで訪れたであろう学生の死体が一体見つかり、警察によって屋敷は物理的に封鎖された。顔も性別も分からない損傷具合で、大分凄惨だったらしい。

複数人が死んだという話は聞いていない。

その後は、門番の男が出ることは無くなったそうだ。

あの紫色の髪の女子も、あれ以来見ていない。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る