第7話 一ノ村
一ノ村には思ったよりも早く着いた。
村に入ると、村の真ん中の大通りで市場が広がっていた。
ここで集落の大人達は魚や草を売って、果物や調味料やこく物や野菜を買ってたんだ。
「すごいだろ」
隣でケンちゃんが言った。人が沢山いるから、普通の大きさの声で話したのに、ケンちゃんの声がヒソヒソ声みたいにしか聞こえない。
「この村や、近くの草原の集落、森の集落、森を抜けた海辺の集落のやつらが皆やって来て、物の売り買いしてるんだよ」
市場は村の入口から、村のはしまでずっと続いている。
見たことのない食べ物や、布、おもちゃや置物やらなにかの骨まで売っている。
魚と屋台の食べ物と花と果物とスパイスのにおいが混ざって市場全体にごたまぜのにおいが広がっていた。
めずらしくてキョロキョロながめていると、お店の人達も皆僕を見ていることに気付いた。
ジロジロとした視線が僕に集中している。
びくりと身をすくめるとケンちゃんが言った。
「アダンが最果ての海の集落から来たって皆分かってんだよ。服と、アビで。今朝クロタカナミがあったから、色々聞きたいんだけど、こわくて聞けないんだ」
ケンちゃんが市場から離れるよううながした。
「こっちに来い。俺がお世話になってる親方に顔を見せに行こうぜ」
市場の大通りを離れ、小みちを何度か過ぎると、露店はどんどん減っていき、家ばかりが並ぶようになった。
その家の並ぶ道の、更に先。村外れの大きな庭のある家があり、その家の庭には作りかけの船が並んでいる。
そこがケンちゃんの弟子入りしている船大工の工房だった。
「親方、戻りました」
集落では聞いたことのない、低く大きい声で、ケンちゃんは建物の奥にいる初老で大柄の男性に声をかけた。
親方、と呼ばれた男性は無言でのそりと立ち上がり、こちらに来た。
「残ったのは、こいつだけでした。あと、こいつが連れている夢魚だけです」
ケンちゃんに促されて、僕もあいさつした。
「は、はじめまして。アダンです」
「夢魚は、殺さないんか?」
親方がいきなり聞いてきた。
「こ、ころす?」
「夢魚が、クロタカナミを呼ぶんだろう?」
「こ、殺しません!」
「殺さんのか」
「母さんの、願いです!アビの、夢魚を面倒見てやってって!そう言って、いなくなりました!それに、こいつただの赤ん坊です!クロタカナミを呼ぶどころか自分でご飯も食べられない赤ん坊です!殺しません!」
「そうか」
親方は今度はケンちゃんに向き合う。
「ほんで、どうすんだ」
「まじない師の所へ行きます。すみません、アダンと夢魚、しばらく俺の部屋に置かせて下さい」
「おう」
親方はこれで納得したようだった。僕に言った。
「そうじくらいは手伝えよ。飯は出してやっからな」
「ありがとうございます!」
ケンちゃんの真似をして、出来るだけ低くて大きい声で言った。
そして親方は作業に戻っていった。
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