第7話 新たな仲間たち
正徳寺の会見で、ノブは美濃国との同盟締結に成功した。その手腕に尾張国内及び近隣諸国は驚嘆し、当主としての地位を固めていった。
国内では、反ノブナガ派から寝返る者が増え、家中でノブの言動や服装を揶揄する声も次第に消えていった。
この状況に焦り始めたのは、反ノブナガ派の中心人物である家老の林秀貞と信勝の家臣・柴田勝家だった。彼らは密かに反乱を画策していたのである。
一方、清州織田家も家督を狙う動きを見せていた。清州織田家は織田信友が率いる一派であり、清州城を本拠地としていた。そしてノブが家督を継いだことに不満を募らせ、駿河国の今川家と共闘する可能性を探っていた。
ノブは、まだ尾張国を統一できていない──。
◆◇◆◇◆
天文23年(1554年)、尾張国・那古野城。
正徳寺の会見から数日後、『帰蝶』が約束通り嫁いできた。
彼女はノブと同じく西暦2150年から、この時代にタイムスリップしてきた反政府組織『イレイジャー』のボスであるミネ・チョウジこと斎藤道三の娘であった。挨拶にきた彼女は、鋭い眼光と清楚な美しさを兼ね備えた顔立ちをしていて、嫁入り道具として父親から譲り受けたというライフル銃を抱えていた。
さらに驚いたのは、幼い頃から父親の指導で上級の技術を身につけたという見事な射撃の腕前だった。加えて彼女は鉄砲も難なく扱え、体術も習得しているという──そんな彼女にノブは『さすが、ボスの娘だ』と感心したが、同時に彼女がここでうまくやっていけるか、心配になっていた。
しかし、彼女は父親から聞かされていたのか、ノブの素性と自身の立場を理解しており、城内では正室(仮)らしく振舞ってくれていた(もちろん寝室は別々)。家中の者たちは、そんな彼女の優しさや賢さに触れ、今回の婚姻(仮)を好意的に捉えているようで、ノブは安堵し、彼女のことをしばらくの間、見守っていこうと考えた。
◆◇◆◇◆
──冬の寒さが続くある夜、寝室で眠りにつこうとしたノブは障子越しに人の気配を感じた。そっと障子を開けると、ひとりの男がこちらに背を向け、縁側に座っていた。
「誰だ!?」
その声に反応して男がこちらへ振り返ると、月明かりに顔が照らされた。
「──サルじゃないか!」
その男はモンベツ・キートンだった。彼は反政府組織『イレイジャー』の一員であり、機械類に詳しく、身体能力も高かったので、武器の改造や諜報活動を得意としていた。
仲間からは、猿のように愛嬌があり、器用で機敏なことも相まって、名前を略して『モンキー』と愛称で呼ばれていたが、ノブだけは何故か日本語でいう『サル』と呼んでいたのである。
ノブは早速、これまでの経緯を説明し、キートンは興味深く聞いたあと、自身のことを話し始めた。
──彼はこの時代に飛ばされたとき、記憶を失っていたらしい。そこで『木下』という家族に拾われ、名前も思い出せない彼に『藤吉郎』と名を付け、家族として迎え入れてくれた。
やがて記憶が戻ると、得意の情報収集で自分がタイムスリップしたことを理解し、現在は修理屋を営んで木下家の家計を助けていることを説明した。
「ところで
寝室にいるキートンを不思議に思い、ノブは尋ねた。
「それはね。町中で『この城の殿様は大うつけ』と噂で聞いてたから、この前の行列を見物してたんだよ。そしたら、あんな仮装した格好で馬に乗っててさ、どんな殿様かと顔を見たら──びっくりしたよ! まさかリーダーが、あの殿様だったとはね」
「………………」
どうやら、正徳寺の会見で、城を出たときに何処かで見ていたらしい。それにしても『あんな仮装した格好』と言われて、ノブは無言で苦笑するしかなかった。
「そうだ! 『アレク』も一緒にいて、驚いてたよ」
「え⁉ 『アレク』って──あの銀髪野郎も、この時代にいるのか!」
アレクも『イレイジャー』の一員であり、ノブの異母兄弟でもあった。生まれつき髪が銀色(正確にはプラチナ・ブロンド)だったことから弟のアレクを、からかい半分で『銀髪』と呼んでいたりもしていた。
「僕が会ったとき『前田利久の養子になった』って聞いたよ」
それからアレクがどういう経緯でそうなったのか、キートンから詳細を聞くと──この時代に来たときは大怪我をしていて、倒れているところを助け、看病してくれたのが尾張国・荒子城主の前田利久であった。彼には子がいず、情が湧いて養子にしたいと申し出たので、アレクも世話になった恩から、それを受け入れ『前田慶次』という名で暮らしているという──。
ノブは目を閉じ、しばらく黙り込んでいたが
「オレに考えがあるから、場所を変えてまた会おう。そのときは、あの
そう言って、今日のところはキートンを帰らせたのだった。
◆◇◆◇◆
──それから5日後の深夜、尾張国境・正徳寺。
尾張国と美濃国が会見した場所に、この時代へタイムスリップしてきた反政府組織『イレイジャー』の──尾張国からノブ(ノブナガ)、キートン(木下藤吉郎)、
アレク(前田慶次)、ヤシュケス(弥助)そして美濃国からチョウジ(斎藤道三)
の5人が集まっていた。チョウジとノブは、これが2回目の正徳寺会見である。
「……まだ3人の消息は分かっていないが──みんなと会えて感激している……」
長くなりそうなチョウジの挨拶を遮り、ノブが口を開いた。
「まずは、頼んでおいた荷物を出してくれ」
4人はノブに頼まれていた荷物(タイムスリップしたときに持ち合わせていた物)を出し合った。
「愛用のライフルは娘に譲ったから、残りは好きにしてくれ」
チョウジはそう言って、自分のボストンバッグをノブの前に放り投げた。その中にはナイフやレシーバー、薬品などが見えた。
ノブは黙って会釈して、話を続けた。
「正直もう、元の時代に戻れないと思う……。それならば、この時代で天下を取ってオレたちが目指してきた、理想の国を創りたいと考えている──だから、オレに力を貸してくれ」
ノブは4人の顔を見渡した。その言葉に一瞬、静まり返り、それぞれが自分の考えを巡らせていた。
「俺もノブに協力したいが、さすがに年を取りすぎたからパスだな。あとはお前らに任せる」
真っ先にチョウジが、髪のない頭をさすりながら答えた。
「僕もこの時代に来てから、目的がなくなっちゃったし──面白そうだから、協力するよ」
キートンが笑って答えると、横でアレクが口を開いた。
「兄貴の話はわかるけど、じゃあ天下を取るために、これからどうするんだよ?」
「それは──まず、尾張を統一する。オレはこの時代で、力があれば世界を変えられるんじゃないかと気付いた。だから、たまたま織田家の当主になったチャンスを逃さず、この立場をうまく利用して国主になり、天下取りの足掛かりにする──これがオレの考えたプラン第一弾だが、どうよ?」
「………………」
ノブは返事を待っていた。しかしアレクが黙っているので、話を続けた。
「それに、持ち込んでもらった未来の物や知識をうまく使えば、他国の武将より優位に立てると考えてるんだが……」
そう話したところで、アレクが口を挟んできた。
「兄貴の考えは、ちょっと安易すぎるけどなぁ……でもまあ、やってみる価値はありそうだ」
アレクは手を上げ、賛成の意志を示した。隣に座っているヤシュケスも黙って頷いた。
その後、5人の意志がまとまったところで、持ち寄った荷物をチェックしていると、ノブはチョウジに手招きされ、ふたりきりで話すために外へ出た。
「……『息子(斎藤義龍)が裏で何か企んでいる』と話したのを覚えているか?」
突然、前回の正徳寺会見で聞かされた息子・義龍の行動についてチョウジが真剣な表情をして言った。
「あれから光秀に探らせてみたんだが、どうも僧侶の姿をした者と密談しているらしいんだ」
「ボスが知っている──家臣の誰かじゃないのか?」
僧侶と聞いてノブは一瞬、タク(信長)の姿を思い浮かべながら、半信半疑で問い返した。
「俺もそう考えたが……光秀もどこの誰だか、わからないらしい」
(あの明智光秀でもわからないのか……)
「裏で何者かが暗躍しているのかもしれないな……。それに天下を目指すなら、これからいろいろな勢力に狙われるぞ──お前も気をつけろよ」
「ああ、わかったよ」
チョウジの重々しい言葉に、ノブは胸騒ぎを覚え、不安そうな声で返事をした。
それから1時間程で荷物の整理が終わり、解散することとなった。
別れ際、チョウジは一人ひとりと固い握手を交わして、美濃国へ帰っていった。
その背中を見送るノブの目には、チョウジの姿がどこか寂しげで、また小さく見えていた──。
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