第6話 情けは人の為ならず、のはず

 カールは、別れを惜しまれながらもクルトの実家を出発した。でも行く当てがある訳ではなかった。


 脚や肩に怪我の後遺症が残っているものの、カールの腕はまだまだ健在だ。それに他の仕事と言っても、ずっとマリオンの護衛騎士をしてきたカールには、他に何ができるのか自分でも分からない。だから商家かどこかで護衛の仕事をできないかと思って乗り合い馬車で2番目に近い街に向かった。1番近い街は、クルトと先日行った所なので避けた。


 馬車には母娘と思われる若い女性と小さな女の子が乗っていただけだった。御者はしばらく他の乗客を待っていたが、それ以上乗客は増えず、出発した。


 道が郊外に差し掛かってあまり他の通行人がいない場所に来た頃、目的地にはまだ着いていないのに辻馬車が突然停まった。御者が御者台の後ろの窓を開けてカール達乗客に話しかけた。


「この先、通行できないので、引き返します。遠回りにはなりますが、目的地には向かいますので、心配ご不要です」


 突然そんな事を言われて女性の乗客は狼狽して訴えた。


「えっ、そんな! 昼には着いてなきゃいけないのよ! 困ります!」

「なんとか昼過ぎには着くと思いますよ」

「どうにかならないの?!」

「こうして話してるのも危険なんです。前に盗賊に襲われている馬車が見えるんですよ!」

「えっ! じゃあ急いで引き返して!」

「襲われている人達を助けないのか?」

「お客さんがいくら腕利きでも1人じゃ多勢に無勢ですよ。私は騎士でもなんでもないから加勢はできませんよ――全く、最近この領地は物騒で仕方ない……」


 御者はカールの返事を待つまでもなく、文句をブツブツ言いながら窓を閉め、馬車を引き返し始めた。カールは居ても立っても居られず、動き出した馬車の扉を開けて転がり落ちた。痛めた脚にまた痛みが走ったが、それよりも盗賊に襲われているという人達の事が頭から離れなかった。


「お客さん! 私は待ちませんよ!」

「構わない!」

「返金もしませんよ!」

「構わん!」


 御者は『何があっても知りませんよ』と忠告して馬車を引き返して元の道を去っていった。


 カールが元々行くはずだった進行方向を見ると、旅商人のものと思われる荷馬車が盗賊に襲われていた。護衛2人が盗賊と戦っていたが、盗賊の方が圧倒的に多い。護衛の相手をしていない盗賊は荷馬車から商品を運び出し、商人達に剣を突きつけていた。


 カールは脚を引きずりながら彼らの元に駆け付けた。


「止めろ!」

「お前誰だ? こいつに雇われているんじゃなければ、首を突っ込むのは止めるんだな」

「た、助けてくれ! 金なら払う!」

「お前は俺達に金を寄こすんだよ!」


 盗賊は、カールに助けを求めた商人を殴った。その隙を見てカールは盗賊の首に峰打ちを喰らわせ、失神させた。捕まっていた商人は、腰が抜けて立てず、這う這うの体で四つん這いになって荷馬車の方へ向かって行った。


「お前! やりやがったな! 一体何なんだ!」


 激怒した盗賊がカールに一斉に飛び掛かってきた。その間に商人は荷馬車に乗り込み、生き残っていた御者と護衛と共にソロソロと荷馬車を走らせ始めた。


 カールは必死に四方から飛び掛かってくる盗賊から防御していたが、古傷が痛んできて徐々に動きが鈍くなってきた。それを嘲るかのように盗賊はカールを浅く切りつけ、どんどん傷を増やしていった。


「中々手練れだが、その肩と脚じゃもう限界だろう?」

「お前のせいで商売あがったりだ。まだ全部品物を運び出してなかったのに邪魔しやがって。これはその報いだ!」


 そう言い放った盗賊は、今までになく強く切り込んできたが、カールはその攻撃を剣で受けて防御した。しかし別の盗賊がほぼ同時に反対側から切りかかってきてそのまま、カールの腹に剣が刺さり、カールは地面に崩れ落ちた。盗賊達は、カールの傷口や頭をグリグリと踏みつけた。


「ううっ……」

「金なんて払わずにあの商人は逃げたぞ! そんな奴のために命をかけるなんて馬鹿な奴だ」

「そ、それでも……私は……見捨て、られな……」

「まだ言ってるぜ。お人好しにも程があるな」

「早いとこ、ずらかろうぜ。殺人で捕まったらヤバイからな」


 腹から血を流すカールには、遠ざかっていく盗賊を捕まえる余力は残っていなかった。それを口惜しく思いつつも、カールは痛みと失血で徐々に気が遠くなっていった。


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また更新の間が開いてすみません。それでも読んでいただける方がいたら嬉しいです。

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