閑話6 文通
辺境警備隊にいるカールとの文通を父が許してくれてすぐ、マリオンはカールに『初めて』の手紙をしたためた。ただマリオンは今や覚えていないものの、脱獄後のルチアに襲われる前にカールの行き先を問い合わせる意味で辺境警備隊と公爵領の鉱山に手紙を出している。その時は文通の正式許可が出る前だったので、カールは断腸の思いで『該当者なし』として警備隊にその手紙を返送してもらったのだった。
マリオンが手紙を出して2週間後、待ちに待ったカールの返事が届いた。執事が渡してくれた封筒を大事に胸に当てると、カールの呼び声が頭の中で再生される。
――お嬢様。
「おい、何ニヤニヤしてるんだ、カールの手紙ぐらいで」
マリオンの幸せな気持ちがクラウスの言葉で突然ぶち切られた。
「ちょっと!いつの間に入って来たのよ!」
「何度もノックして声をかけたぞ」
「返事がないなら察して入ってこないでよ」
「いいじゃないか。お前はもうすぐ俺の妻になるんだ」
「何かと言えば、そればっかり!手紙読むから出て行ってくれる?」
「俺の前じゃ読めないのか?」
「いくら婚約者でも私信を見せる趣味はないわ」
「やましいからだろう?」
「どうせ検閲してるんでしょ?中身わかってて聞くのは趣味悪いわよ」
マリオンは不満顔のクラウスの背中を押して無理矢理部屋から出て行ってもらった。
カールの手紙には、マリオンが予想した通り、封蝋を開けて再び封をした形跡があった。手紙は日常生活のことだけで警備隊の仕事についてほとんど触れていない。
カールの返事は2度目、3度目と徐々に短くなっていった。警備隊の日常は手紙にいいことを沢山書けるほど彩り豊かではない。マリオンが4度目に出した手紙の返事は、とうとう1ヶ月後まで待っても来なかった。仕方なく、マリオンはもう1度手紙を出した。
それから1ヶ月後、執事から渡された手紙の束に自分がカール宛に送った手紙が混ざっているのに気付いた。封筒を見ると、『宛先不明』とスタンプが押してあった。その意味がわからないマリオンではない。ポツポツと雫が封筒に落ちてスタンプが滲む。
コンコン――
「今は1人にさせてくれる?」
マリオンの拒絶の返事にもかかわらず、部屋の扉が開いた。マリオンは、行儀悪いのを承知で涙をドレスの袖でぐいっと拭ってクラウスをキッと睨んだ。
「クラウス、誰が入っていいって言った?」
「俺が忘れさせてやる。結婚してくれ」
クラウスはマリオンの前に跪いて右手を取った。
「今更プロポーズ?結婚式は来月よ」
「そこは感激して俺に抱き着くところじゃないか?」
「何言ってるのよ!」
「泣きたい時に泣いていいんだぞ」
クラウスは、涙ぐんでいるマリオンをそのまま腕の中に囲った。マリオンはもういつものようにクラウスを突き放したりせず、ひたすらクラウスの胸で泣き続けた。この時ほどクラウスの軽口をありがたく感じたことはなかった。
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