閑話5 忘れていた事実
公爵夫妻とクラウスには、カールとルチアのことをマリオンに伏せているのも限界に思えた。マリオンがルチアに首を絞められたことはクラウスが話してしまったし、カールがペンダントをくれたこともマリオンは母親から知ってしまった。マリオンが知らないのはカールの行方とルチアの死だけである。いつ真実をマリオンに話すか3人は執務室で相談していた。
「義父上、私は結婚前に真実を打ち明けたいと思っています。カールの行方のことをずっと黙っていては、私は結婚生活でずっとカールの亡霊に脅かされることになります」
「カールは死んでいないわよ」
「でも時間の問題だろう?」
「いえ、実際に生きているかどうかに関係なく…このまま黙っていてはマリオンの心の中にずっと彼が生き続けると思うんです。だから彼のことを話して文通も許してはどうでしょう?私はマリオンのことを信じています。カールだって想いを断ち切って旅立った以上、今更マリオンとどうこうするはずはないと思います」
主治医の了承の元、ルチアとカールのことをマリオンに伝えることになった。一番かわいがっていた侍女ルチアに首を絞められたことや彼女が殺されたことに衝撃を受けるかと両親とクラウスは心配していたが、マリオンは案外冷静だった。
「ルチアはそれほどカールを好きで好き過ぎて憎くなっちゃったのね…彼はそんな怪我を負って大丈夫かしら?お父様、カールの居場所も教えてくれるんでしょう?」
「ああ。彼は辺境警備隊に入隊した。これは彼の希望だから呼び戻すことはできない。会いに行くのも無理だが、文通は許す。クラウス君も承知の上だ」
マリオンがちらりとクラウスを見ると、苦虫を潰したような顔をして眉間に皺を寄せている。どうみても納得しているようには見えないが、当主の父が許す以上、異議を唱えられないのだろう。
魔獣退治が主な任務の辺境警備隊の隊員が1年後に五体満足でいられる確率は結構低く、希望入隊する者よりも罪人や戦争捕虜の隊員が圧倒的に多い。少数派の希望入隊の者は立身出世が目的だが、怪我の後遺症が残っているはずのカールの入隊は自罰的だ。
マリオンはカールの身がひたすら心配なのに呼び戻すことができないと父に断言されてがっかりしてしまった。でも文通できることだけは救いに思えた。
マリオンはさっそくカールへの手紙をしたためた。公爵家と辺境警備隊の両方で検閲されることも考えて当たり障りのない日常生活のことしか書けなかったが、心配していることは伝わるはずだ。マリオンは返事が待ち遠しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます