第9話 解任の理由

シュンとして部屋を出て行ったクラウスにあっけにとられていてマリオンは聞きたいことを忘れていた。


「あ!ルチア!カールの任務を解く理由を聞いていなかったわ!貴女、何か聞いてる?」

「はい、旦那様は兄の怪我が治ったら兄に配置換えを直接伝えるとおっしゃっていました」

「それはもうさっき聞いたわ。配置換えの原因は私が怪我したせい?」

「それもありますが…その…」

「お父様に口止めされているの?」

「いいえ、そういうわけでは。もしそうでしたらクラウス様がお話されるはずはありません」

「それもそうね…カールの怪我って後遺症が残るの?」

「はい、おそらく…左脚を多分…引きずって歩くことになるかと…」


ルチアは俯いてポツポツと話した。


「そう…本当にごめんなさい…近衛騎士団に入るのが彼の夢だったのに…」

「いえ、兄はお嬢様を守れて…本望…のはずです。近衛騎士団に入りたいって思っていたのは子供の頃の話ですから…」


そう言われてもその話がマリオンの頭から離れない。その夜、遅くに帰ってきた父親にマリオンは聞くことにした。


「お父様!カールを私の護衛から外すって本当ですか?」

「ああ、本当だよ。彼の脚では治ってももう護衛騎士はできないだろう」

「そんな…!」

「仕方ないよ。でも彼はお前の命を救ったんだ。クビにはしないから安心しなさい」

「そんなの当たり前よ…!でも治ったら護衛に戻れる可能性もあるでしょう?諦めるのはまだ早いわ」


マリオンの父は、現実的ではないと思いつつも、娘があまり気落ちしないように適当に望みをつなげるようなことを言ってみた。


「そうだな。今度の剣技大会で3位以内に入れたら考えるよ」

「えっ?!あと3ヶ月しかないわ!そんなの無理よ!来年の大会じゃだめなの?」

「それまでカールをどうしろって言うんだい?彼は4年連続で優勝していたじゃないか。少し脚を引きずるようになっても3位以内ぐらいわけないだろう?主治医の先生とよく相談しておくよ」


マリオンは父親が引かないので、納得するしかなかった。


翌日、マリオンはカールを見舞った。


「カール、貴方の左脚のこと、聞いたわ。ごめんなさい…」

「いいんです。お嬢様を守れたのは本望です。お嬢様の怪我を防げなかったのは情けない限りですが…」

「そんなことないわよ!カールなしでは私は死んでいたはずなんだから。本当ならこれからも貴方に護衛してほしいわ…」

「引き続きお嬢様にお仕えするのを旦那様はお許し下さるでしょうか?」

「それなんだけどね…貴方が今度の剣技大会で3位以内に入賞したら私の護衛に戻ってもいいってお父様が言っていたの。でも…」

「絶対入賞してみせます!」

「あと3ヶ月しかないのよ?無理しないで」

「いえ、無理ではありません。頑張ります!」


その前向きな姿にマリオンは嬉しくなったが、その反面心配も尽きない。マリオンの侍女として同じ部屋に控えていたカールの妹ルチアは、兄にその脚で騎士に戻ってほしくはなく、複雑な心境だった。

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