第6話 事故の被害者

マリオンはカール以外の3人が馬車の事故で助かったのかまだ知らない。カールが心配で正直言って忘れていた。それに気付いた時、自分は冷たい人間だと恥ずかしくなった。


チリンチリン――


ベルを鳴らすとすぐにルチアがマリオンの寝室に入って来た。


「ルチア、侍女と御者、もう1人の護衛騎士は事故で助かったの?」

「…侍女と護衛騎士は亡くなりました。御者は意識不明ですが、意識を取り戻してもどうせ死罪でしょう」


マリオンはショックで喉がひゅっと鳴りそうになった。


「まぁ、なんてこと…どうして御者が死罪になるの?馬が突然興奮しだしたのは御者に責任ないわよね?」

「御者は出発前に馬と馬車の最終点検をすることになっているのに、点検を怠ったんじゃないですか?それで死人が出たんですから死罪は当然でしょう」

「異常はわからなかったんじゃないかしら?私もそうだけど、騎士達も侍女も何も気付いていないようだったわ」

「そうだとしてもあの者はお嬢様の前に飛び降りてお嬢様を危険に晒したんですよ!」

「あんな非常時よ、いつ飛び降りれば一番いいのかとっさには考えられなかったと思うわ。彼が回復してもお父様が罰を与えないといいのだけど」

「それにしたってよりによってお嬢様の前に飛び降りるなんて…!」

「仕方なかったのよ。お父様には罰を与えないように後でお願いしておくわ」


マリオンは目覚めてからまだカールを見舞えていないことがとても気になって仕方ないが、過保護の両親がマリオンを心配していて許可がないと私室から出してもらえない。彼は意識不明で公爵邸に運び込まれてそのままここで臥せっている。確かにマリオンの足首のねん挫はまだ治っておらず痛みがあるが、松葉杖さえあれば見舞うことは難しくない。このまま部屋に閉じこもっているだけだと身体が鈍るとマリオンは不満に思った。


「カールの状態はどうなのかしら?」

「兄はやっと目覚めましたが、まだ寝たきりです」

「ああ、私を守ったせいで…カールを見舞いたいわ。松葉杖を調達してくれないかしら?」

「お嬢様、まだ外出の許可は出ていないと思いますが」

「じゃあ、お父様に聞くわ。いつ会えるかしら?」

「旦那様は今晩も遅くお帰りになる予定だそうです。明日にいたしましょうか?」

「いいえ、お父様は明日もどうせ遅くに帰って来るでしょう。もしお父様が今晩帰宅するようなら、遅くなってもいいから来てもらえるように執事に伝えておいて」


マリオンの父は宰相を務めており、王宮に自室も与えられている。多忙な彼は王宮に泊まることも多々あり、帰宅するとしてもほとんど母とマリオンの夕食がとっくに終わってからだ。だから今晩は会えないだろうとマリオンは覚悟していた。だが予想に反してその晩遅く、父はマリオンを訪れた。


「お父様!来て下さったのですね!もしかして執事の伝言が王宮まで伝わりましたか?」

「ああ。お前がカールの怪我の具合をとても心配していると聞いてな」

「私の怪我の具合も大分よくなりました。松葉杖を用意してもらえませんか?カールを見舞いたいのです。松葉杖さえあれば、家の中ぐらいは歩けます。このまま部屋に閉じこもったままだと歩けなくなってしまいそうです」

「そうか。心配でまだまだ歩いて欲しくなかったんだが、それも一理あるな。では明日、主治医に聞いてみよう」


翌日、主治医がマリオンに松葉杖の使用許可を与えたので、彼女はさっそく松葉杖を用意してもらえることになった。ただ、松葉杖はすぐには手に入らず、3日後に公爵邸に届けられ、その後すぐにマリオンはカールを見舞いに行くことになった。

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