12『タンドリーチキンと天丼』
地下遊演地の地下1階にある、コルネッティの自室。
部屋の主が座る机の回りのみが、蝋燭の僅かな明かりによって照らせれていて…
数m先しか視界が確保されていない中、コルネッティは夕飯として
骨付きのタンドリーチキンを酒の肴にしつつ、ワインを飲んでいる。
「クソが!所詮は、親の七光りの小娘2人が調子に乗りやがって!」
右手に持ったタンドリーチキンを少し浮いた地点から叩き付けられた
皿は、肉汁と油を周囲に飛散させる。
「首都機関に就職出来たのも、どうせ親のコネだろ…」
グラスのワインを飲み干し、更に愚痴る。
「おい、明日の『
コルネッティは、暗闇の中、足元しか見えない距離にいる部下へ指示を投げ付ける。
「畏まりました。もし、首都から来られた2人が命を落としたら、どの様に報告されるのでしょうか?」
女性らしいスラリとした足元が、問いかける。
「あぁ?明日、呼ぶVIP達は、ここで起きた事は他言しない人間ばかりだ…
止めたにも関わらず、
そう吐き捨てたコルネッティは、2人のサインが書かれた書類を蝋燭の火で燃やす。
「畏まりました。それでは、失礼します。」
コルネッティの視界から足元が消え、部屋の扉が閉じる音が聞こえる。
ーーー
廊下には3部屋が並んでおり、その一室の扉には『A・501』のプレートが掲げられている。
その部屋が、サクラ・アオイ・コマチの3人が寝食を共にする部屋である。
間取りは、部屋に入って直ぐに、右手に浴槽付きのシャワールームとトイレ、
左手にはキッチンが設けられている。
そして、その先にリビング兼寝室スペースがある。
中央部に二人が座れる程のサイズのソファーが2つ、間にテーブルを挟む形で置かれている。
そのソファーとテーブルの両脇に、2段ベッドが1個ずつ鎮座している。
そしてキッチンには、メイドとしての調理経験豊富な南花と手伝いとしてアオイが立っている。
2口あるコンロの内、1つには、深い鍋に黄金色の油が加熱されており、
もう片方のコンロで加熱されている土鍋では、赤子が泣いている。
「熱いから気をつけて入れてね。」
南花の注意に対して、応えたアオイで最初にどの食材から揚げるか悩む。
アオイの視線の先には、
アオイが、
ヒィっと驚くアオイを、背後からコマチが笑う。
「コっ、コマチ、また見に来たの!まだ出来ていないから向こう行っててよ!」
照れ隠しにアオイがコマチを追い返す。
「そうか、まだか…」
腹の虫を鳴らしながらコマチは、またしてもトボトボと戻っていく。
「っふ、ふふ…これも天丼ね。」
繰り返される微笑ましいやり取りに、南花の口元も緩む。
「(うん?天丼…どういうわけ?)」
南花の祖先の生まれの国由来の言葉を理解出来ない、アオイは首を傾げる。
シュンっと肩を落としながら、コマチがリビングに戻ると…
アリサとサクラが中央のテーブルを囲み、お互いの装備の確認や明日の演目に関する作戦を話し合っている。
「えぇ、私と南花が木像の回収と設置役ね…3人は化物の殲滅をお願いするわ。」
「うん、任して…キングも何とかしてみせるよ。」
アリサの提案に対して、難点を抱えつつ承諾するサクラ。
「うん…
コマチに話しかけられたアリサの表情は涙目になる。
「あはは、達成出来たら、私がアリサに奢ってあげるよ。」
あまり見かけない表情を浮かべるアリサを、サクラがフォローする。
「はい、出来たよ~」
南花とアオイが、金色の衣に甘い香りがするタレが掛かった天丼を持ってリビングに来る。
その声に背筋が伸びるコマチ、アリサとサクラはテーブルの上置いていた資料を片付ける。
「いっ、頂きます~」
5人の明るい声が室内に響く。
「これが天丼…初めて食べたけど、クセになりそうね。」
アリサが、意外とジューシーな厚切りの蓮根の美味しさに、感嘆をこぼす。
「エビにこんな食べ方があったとは…」
コマチは程よく火の通ったエビに好感触を示す。
「私は白身が美味しいかな~」
アオイはホクホクな白身の天ぷらと一緒に、タレで甘くなったご飯を頬張る。
「椎茸も中々、いけるかも…」
椎茸の旨味がクセになりそうなサクラ。
「そう?良かった。」
食が止まらない、4人を見て笑みを浮かべた南花は、私はこれなんだよね~と言いながら獅子唐を口に運ぶ。
ーーー
夜も深まり、明日の演目に備え床に着いた5人。
中央のソファーで鼻ちょうちんを出しながらコマチが寝ている。
左側の2段ベッドの上ではサクラが、その下にアオイが寝ている。
反対側の2段ベッドの上では、アリサが寝ており…
下のベッドが南花に割り振られているのだが、当人はいない。
その代わりに、明かりの付いたキッチンで蛇口から水が出る音が聞こえてくる。
南花が一杯の水を飲み干し、一息を付いていると、物音が聞こえる。
そして、振り返ると、アオイが眠い目を擦りながら立っていた。
「アオイちゃんごめん、起こしちゃった?」
「いえ、私も喉渇いちゃって。」
ベランダへ移動した2人は夜風に当たる。
「南花さん、天丼本当に美味しかったです。流石、元第四騎士団のメイドさん。」
満月の明かりが差す中、アオイが微笑む。
「こちらこそ、お粗末様でした。」
面と向かって褒められた南花も、笑みを浮かべる。
フッと真面目な顔になったアオイが、切り出す。
「南花さん…明日の演目で無事に
「えっと…別に料理人でもないけど、私で良ければ教えてあげるよ。」
「本っ当ですか!ありがとうございます。」
「ふふ、その為にも、明日はお互いに頑張らないとね。」
はいっと嬉々とした表情を浮かべるアオイと南花は握手をする。
「そうね…明日は頑張らないといけないわね」
二人の会話を聞いていたアリサは、呟いて再び眠りに付く。
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