09『10年前の3人』

 「私達3人は、帝国の東側の城壁に面した、ある村の出身なの…」

10年前の出来事について、語るサクラ。

「因みに、私の母も同じ村の出身で、そのよしみで私はサクラ達と出会ったのよ。」

アリサが、簡潔にサクラ・アオイ・コマチと知り合った経緯を説明する。


「えぇ、その頃はアリサと良く遊んでいたね…」

ノスタルジックに浸るサクラが続ける。


「あの日は、大雨が降っていて…村近くの城壁の一部が崩壊したの。そして、崩壊によって出来た穴から、ティアマトの魔獣達が雪崩れ混んできたわ…」

声色に哀しみが乗りつつもサクラが続ける。


「日中の惨事だったから、私達は城壁から離れた学校にいたこともあって、緊急時の避難所の教会へ逃げ込む余裕はあったの…そして、周辺の大人達が団結して、首都機関からの増援が来るまでの間、ティアマトの軍勢の攻撃を凌いだの。でもね…」

眼鏡のレンズ越しでも分かる程に、目に涙を貯めるサクラが言葉を絞り出す様に続ける。


「城壁近くのレンガ工場で働いていた、私達3人の両親は助からなかった事は、子供ながらも容易に想像出来たわ。」

サクラの哀しみの声色に気付いたコマチが、スッとハンカチを差し出す。

そして、サクラの代わりにアオイが続きを語り出す。


「その一件で身寄りを亡くした私達を含む孤児は、一先ず、教会で保護されて生活を送ることになりました。」


「そして、教会での厳しい生活に、まだ幼かった私達が窮屈さを感じ始めた頃に、見知らぬ大人達が教会に訪れて来ました。」

アオイはチョーカーを擦る…

「私の元で働いたら、多くのお菓子を食べれるし、可愛い服を買えるようになるけど…どうする?って地下道化師トネリコになる提案をしてきたのが、今の雇い主なんです。」


地下道化師トネリコとしての実績で手にした、今、着ている私服に視線をやったアオイは自虐の意味を込めて、鼻で笑う。

「そして、欲に負けて、故郷を離れた私は、危険な道を選んだんです。」


「決してアオイだけが悪い訳じゃないぞ、私も美味しい物を食べたい欲に負けた…」

コマチはテーブルの上に置いた、買い物袋から覗くチョコやクッキーに視線をやる。


「出会ったばかりの私が口を出して良いか分からないけど…生きる為には欲も必要だから、2人は悪くないと思うよ。」

言葉を選びながら、南花が2人をフォローする。


「ありがとう…そんな事ないですよ。南花さんの言う通りで、生きていく上でご褒美は必要だから…」

涙が治まったサクラが、感謝する。


「オホン…それで3人は協力してくれるのかしら?」

アリサの一言が、その場を進行させる。


「うん、アリサさんの頼みだし…それに、南花さんから第四騎士団とかの話を聞いてみたいし…」

銃職人としての南花へ、羨望の眼差しを見せるアオイ。

「2人に協力するとなれば、私も首都機関へ行けるのだろ?」

アリサのえぇ…という短い返事に、生唾を飲み込むコマチが続ける。

「うん、私も協力するぞ(首都機関の食堂のメニューを制覇してやる)」


「より多くの鉄が手に入れば、私達、地下道化師トネリコ達が扱う銃火器の質も上がって、結果的に生存率も高くなるし参加するよ…アリサからの頼みでもあるし。」

サクラは、自分達の立場にとっても利益に繋がることも加味して賛成する。


「ありがとうございます。」

「えぇ、ありがとう…でも、あのオーナーが承諾してくれるかが問題ね。」

南花と共に感謝を伝えるアリサは、次なる課題に頭を悩ます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る