迷霧の迷宮
俺は窓から出ると、スマホで調べた家から一番近いダンジョン…ではなく、三つくらい離れたダンジョンにやってきた。
ここは、迷霧の迷宮。濃すぎる霧のせいで方向感覚を失って迷う人が多発しているダンジョンらしい。出てくるモンスターはゴブリン系列のものがほとんどらしい。
出てくるモンスターは弱いのだが、ダンジョンの性質が面倒な仕様すぎて立ち入る人が少ないダンジョンらしい。
というのも、ダンジョン内で死亡しても、外で復活できるのだが、その際にいくつかのペナルティを受けるらしい。その中に、身体能力の減衰──まあ、分かりやすく言うとレベルダウンに近い効果があるらしい。
そのせいで、こういったモンスターや人から奇襲を受けやすいダンジョンは不人気になる傾向があるらしい。まあ、俺にとっては好都合なんだが。
「それじゃ、入ってみるか」
ダンジョンの入口の前に立つと、石の壁にしか見えない扉がガタガタと音を立てて…開かない?
「なんで?」
『冒険者資格をタッチしてください』
…冒険者資格?と首を傾げると、真横にあるボードに一枚のカードが書かれており、このカードがないとこの扉は開かないらしい。
「そんなもん持ってねぇんだけど…あっちのならあるけど…」
全然冒険もしてないし、依頼も受けてないのにいつの間にか最高ランクまで上がってたカードがね!もうちょい異世界らしさを楽しみたかったんだが、そんなことも言ってらんなかったんだよなぁ。
「わんちゃん開かない?」
冗談交じりに影から取りだした虹色のカードを翳すと、石の壁が光り輝く。
『アクセス認証』
「…うそぉ」
扉が開いた。なんであっちのアイテムがこっちでも作用するんだ…?あの門から出てきたものだとしても、そんな偶然が…?
「…ま、考えても意味ないな」
情報足りてないのに考えても意味は無い。兎にも角にもダンジョンに足を踏み入れよう。
【迷霧の迷宮 1F】
一寸先すら見えない、という程でもないが、それでも十数メートルくらい離れれば見えなくなるくらいには霧が濃い。というかそもそも、森林地帯の時点で視界が悪いのに、そこに霧が重なって最悪な感じになっている。
「ま、なんとでもなるんだけど…」
とはいえこんな程度のギミックじゃ勇者の目は欺けませんよというわけだ。勇者というジョブにはいくつか固有技能があるのだが、その中に"適応"というスキルがある。文字通り、あらゆる状況や攻撃に数秒で適応してしまうぶっ壊れ技能だ。
さすがに物理攻撃に適応する事は出来ないが、毒とかには機能するので重宝してるスキルだ。…そして、その適応範囲には視界不良も含まれる。暗闇や盲目、霧、閃光といった物は俺に意味を成さない。まあ、厳密には効かないわけじゃないんだけど。
「とりあえずモンスター探しますか」
気配のする方へと歩いていくと、そこには見なれた醜悪な怪物が数匹群れていた。
膨れた腹に、細い手足、尖った耳を持つ醜悪な異形。定番モンスターであるゴブリンが、今俺の目の前にいた。
「ま、見慣れたヤツらなんだわ」
五匹程度の群れになっているゴブリンのうちの4体の首を引きちぎって消し飛ばす。残りの一匹は気がつくことも出来ずそのまま座り込んでいた。
「よお」
「ギャ…ギャッ!?」
「ちょっと油断しすぎじゃない?」
突然現れた(ように見えてる)俺に驚いて立ち上がろうとしたゴブリンより先に蒼い光とともに地面が盛り上がる。盛り上がった地面は虹の光沢を持つ青い結晶へと変化してゴブリンを拘束する。
これも固有技能と言うやつで、俺の持つ力の中で最も強大かつ汎用性の高い能力──"創造"の力だ。この世に存在しているものなら、どんなものでも創り出せる分かりやすく強い力。さすがに聖剣とかそういう"特殊な役割"があるやつは創れないけど。…いや、創ればするけど死ぬほどしんどいって感じかな。
「じゃあ実験と行くか」
ゴブリンの持っていた短剣を引っ掴んで、自分の右手に突き立てる。…が、ゴブリンの短剣は俺の手に当たると同時に木っ端微塵に砕け散る。
「ん…やっぱ、あっちと法則は一緒か」
あちらのダンジョンでもそうだったのだが、フレンドリーファイアの類は一切無かったのだ。それこそ、敵から奪った武器でもそうだった。もしもフレンドリーファイアが起きそうになると、人と武器は磁石のように反発する。それを無理やり抑え込んだから短剣が耐えられなくて砕け散ってしまったのだろう。
「じゃ、おつかれ」
創り出した結晶でゴブリンを押し潰し、塵へと変わるのを眺める。消え方も向こうと一緒ってわけかぁ。
「これ、二階行く意味無いかぁ?」
ここまで向こうと一緒だと検証するにも出来ない。どうせダンジョンを完全にクリアした際の報酬も一緒だろうし。俺にとってはなんの意味もない報酬なんだよなぁ…。
「ユニークジョブとか要らんのよねぇ…」
ノーマルジョブである剣士や魔法使いの一段上のジョブ、ユニークジョブを手に入れられるのは普通ならめちゃくちゃ魅力的なのだが、俺のスタートラインが、エクストラジョブ…世界で一人しか手に入れられない先天性のモノだったせいで有難みがあんまりない。てか、基本的に勇者の下位互換がほとんどだしな。
「…帰るかぁ」
意気込んできた割に、そんなに時間がかからなかったせいでとても気が抜ける。もういいや。帰ろう。明日からは忙しくなるし…つい今日まで行方不明者だったわけだし。警察にも行かないとだろうしなぁ。
「はぁ~あ、めんどくせ」
この時の俺は知らないのだが、ダンジョンへのアクセスは迷協側が何時でも確認できることと、そのダンジョンに入った人間の冒険者ランクは世界中の人が確認できるということを。
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