君と2番目
東さな
君と2番目
君を初めて見たとき、綺麗な人だと思った。特段に美人な訳ではなかったが、ただ透明感があった。澄んだ瞳や真っ直ぐに伸びた黒髪と相まって、とても美しかった。
何故だろう。騒がしいはずの電車の車内。耳に差したイヤホンから流れる音楽。それら全てが無音になった。
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腕を掴まれた。見知らぬ男の人に。その人の顔を見れば、具合が悪そうなほど赤く、私を掴む腕は震えていた。
「……大丈夫ですか?」
その人を連れ電車を降りてホームの椅子に座る。
「どうかしましたか?」
首を傾げて顔を覗き込めば、目を逸らさせた。
「体調悪いなら、近くに病院ありますよ」
「あ、いや、大丈夫です」
「でも……」
「本当に大丈夫です」
そう言うとその人は、何かを決心したように、私の目を見て口を開いた。
「一目惚れの意味が分かりました」
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「ねえ、何笑ってんの?」
「ん?」
自分の緩んでいる頬に気付いて真顔に戻す。
「笑ってない笑ってない」
「嘘つけー。今顔変えたんだろ」
バレてたか。
「で?何考えてたの?」
「あーえっと、出会ったときのこと思い出してた」
「俺がりりに一目惚れしたときのやつね」
3年前の夏だったか。
電車に乗っていた私は彼に話しかけられた。一目惚れだと言われ、だいぶ戸惑った。
「今だから言えるけど、けっこう怖かった」
「だよね、ごめん」
「まあ、結局付き合ってるわけだし」
電車で会った後、友達の紹介でたまたま再会し、付き合うことになった私たち。
好きな食べ物、好きな音楽、好きな映画。
嫌いな食べ物、嫌いなタイプ、嫌いな言葉。
似てる部分が多くて、いっしょにいると楽しい。
このままずっと一緒にいられたら、なんて柄にもなくそんな想像をしてしまう。
「りりさーん。ニヤニヤしてますけど大丈夫ですかー」
「あー、うるさいうるさい」
うるさいとは言いつつも、こんなくだらないノリも好きだったりする。
「りり明日早いんだから、そろそろ寝なね」
「はーい。
彼との光景が日常で、彼といる日々が当たり前。3年前には考えもしなかったことだ。
私たちが出会えた奇跡の日。神様に感謝してもしきれない。
幸せな気持ちに浸りながら眠りについた。
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仕事終わり。彼にカフェに呼び出された。
「わざわざこんなところに呼び出してどうしたの?」
「あ、うん」
彼が言いたいことは大体分かっていた。でも知らないフリをしたかった。
「りり、あのさ……」
「すいません。コーヒー1つお願いします」
続く言葉が怖くて、思わず遮った。でも、彼の口が開く。
「……別れよう」
「……嫌だ」
「ねえ、りり」
「嫌」
涙が溢れる。どうしたら彼を引き留められる?そんな思いが巡る。
「好きなの。別れたくないの。まだ、京太といたいの。……だめ?」
沈黙が続いた。先に彼が声を発した。
「俺たち、やり直そうか」
「うん」
一目惚れしたときのように、また一から。
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