第7話 現実の朝

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……それから10分が経った。その間シュテルはずっと気絶していた。それに、爆風で吹き飛ばされたせいで、ライフがかなり減ってしまった。


 シュテルは起きるなり直ぐに周りの状況を確認してリカバリータブレットを服用した。


「危なかったな。ルビーは……よし、生きている。あの時咄嗟に俺の体で守ってよかった。てか、なんで生きてたんだ?」


 そんなことを呟きながら周りを見渡していると、自分の体に砂が着いているのがわかった。


 そこでやっと理解した。恐らくシュテルが飛ばされた場所が砂の上だったのだ。確かベンゲルの街には砂で出来た建物があった。そこにぶつかって助かったのだ。


 シュテルはそれを理解すると、直ぐにモンスターがいた場所へと向かい始めた。あの爆発を受けて死んでいると思うが、まだ生きている可能性だってある。


 そんなことを考えながらシュテルは爆心地へと向かっていく。そして、爆心地と思われる場所へと着いた。


「……酷いな……街が跡形もなく破壊されている……」


「ん……あれ?ここは……?」


 その時、ルビーが目を覚ました。


「あれ?シュテル様、ここって……」


「モンスターがいた場所さ。自分の攻撃で死んだみたい」


「そうだったんですね。あ、あそこになにか落ちてますよ」


 そう言ってルビーが指を指した。そして、フワフワと飛び上がるとその場所に向かっていく。シュテルはその後ろを着いていった。


 すると、そこには謎の剣が落ちていた。シュテルはそれを手に取る。


「これって……あ、なんか出てきた」


 シュテルが剣に触れると剣の情報が開示される。シュテルはそれを読んだ。すると、この剣はあのモンスターのドロップアイテムだとわかった。


「なるほどな。これドロップアイテムなのか……。しかも魔剣って……」


「あ、シュテル様、なにか本が落ちてますよ」


 ルビーが指をさして教えてくれる。シュテルはその本を手に取り中を読んだ。


「えっと、なになに?『この本を読んでいるということは、恐らく私を殺したモンスターを倒したのだろう。もし、そんな人がいたのならば、私の仇を打ってくれたことを感謝する。そんな君に私から少しだけお礼をさせてもらう。この後に続く文を読んでくれ。私の使っていた魔法を君にさずける。それと、この本の最後に私が使っていた拠点へ向かう地図が書かれている。そこも君にあげよう。では、この本を読んでいる君が、この”ダークサイドゲーム”を終わらせてくれることを祈っている。私の代わりに世界と戦ってくれ』だって。その後に文が書かれている」


 シュテルはそれを読んだ。なんて書いてあるか分からない。恐らく日本語ではないのだろう。


 いや、もしかしたらゲーム専用の文字なのかもしれない。だが、そんなことは今はどうでもいい。なんと、その文字が光って浮かび上がってきているのだ。


 その文字達は浮かび上がるとシュテルの全身を包み込む。そして、突如霧散した。


「……なんだったんだ……?」


「ステータスを確認してください!」


 ルビーが少し慌てた表情でそう言ってくる。シュテルは直ぐにステータスを確認した。


「っ!?嘘だろ……!魔法が増えている」


「なんて言う魔法ですか!?」


「えっと……”転身てんしん”だって」


「っ!?な、なんですか……それ?聞いたことありません!」


「っ!?嘘だろ……!?ちょっと待て、確認する。『”転身てんしん”……自身の体を一度時空間へと移動させ、別のマーキングした場所に瞬時に移動することが出来る』だそうだ」


「っ!?そ、それじゃあまるで、転移魔法ですよ……!この世界に転移魔法はまだ存在してません!なのに……!」


 ルビーはまるで怖いものを見たかのような表情になり、体を震えさせる。シュテルはそんなルビーを優しく握りしめると、頭を優しく撫でた。すると、少しづつ落ち着いてきたらしい。


「何でもいいさ。ルビー、俺はなんともない。安心してくれ」


「はい……」


 シュテルはルビーを落ち着かせると、その後の地図を見て少し考える。この後どうするべきか。この本に書かれている通り、ダークサイドゲームを終わらせるか、それとも普通にゲームを楽しむか……


「……シュテル様、危ないことはやめてください。こんな本に書かれていることに従う必要なんかありません!普通に楽しむべきです!」


「……」


「シュテル様!」


「ルビー!」


「っ!?」


「聞いてくれ。いま、俺の家族はこのゲームをしている。そして、朝昼晩ずっとしている。多分、この本の言う通りゲームに閉じ込められたんだ。だから、俺はこの本の言う通りにしようと思う。このゲームのダークサイドを知り、ダークサイドゲームを終わらせようと思う。たとえそれが、危険だとしても……!」


「……分かりました。だったら私も最後までシュテル様をサポートします!」


「着いてきてくれるのか?」


「はい!何があってもついて行きます!」


「……ありがとう……!」


 シュテルはそう言ってルビーを優しく抱いた。


「じゃあ早速そのアジトまで行きましょう」


「……いや、今日はやめておこう。もう少しで朝になってしまう。アジトに行くのは俺が学校から帰ってきてで良いか?」


「分かりました。では、それまでお待ちしてます」


 シュテルとルビーはそんな会話をしてし近くの宿を探す。すると、すぐ近くに宿があった。シュテルはそこに入り、ベッドに横たわりログアウトする。ルビーはそんなシュテルの隣にいに一緒にベッドに横たわった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━……魁斗は目を覚ました。すると、時刻は既に5時半。ちょうど魁斗の起きる時間だ。魁斗はゲーム機を頭から外すとベッドから起き上がった。


「ん……ふわぁ……。大変だったな」


 魁斗はそんなことを呟きながら学校に行く準備をする。そして、6時半になり、学校へと向かい始めた。


 魁斗の家から学校までは歩いて10分程度だ。だから、遅い時間に出ても良い。だが、魁斗的に早く行きたい気分だから魁斗は早い時間に学校へと向かい始めた。


 と言っても、どうせ学校に行ってもほとんど人は居ない。なんせ、皆あのゲームをしているからな。先生まであのゲームにのめり込み休んでしまっている。今や、この学校に来ているのは仕事熱心な先生と、勉強が大好きな真面目くん1人と魁斗だけ。もう学校として成り立って居ないのだ。


 そして、今日も学校は早く終わる。生徒が全然来ないのだ。先生1人が授業をしたら直ぐに学校は終わる。


 真面目くんは学校に残って勉強するからだいたい魁斗も学校に残って勉強をする。今日も魁斗は昼まで学校に残って自習をした。


 ちなみに、真面目くんの本名は、無明むみょうしんという。名前とは全く関係ないが、訳あって魁斗は真のことを真面目くんと読んでいる。


「……よし、俺は先に帰るよ。真面目くんはどうする?」


「僕はまだ残るよ」


「そうか。じゃあ、教室の鍵は頼んだよ」


 魁斗はそう言っていつも通り帰宅する。家に帰り着くと、鍵を開け中に入る。


「……」


 ただいまとは言わない。どうせ帰ってこないから。時々妹が起きている時もあったが、それも1年前の出来事。今は家族が起きている姿を見たことがない。


「……さて、やるか」


 魁斗は家の鍵をかけ昼ごはんを食べると自分の部屋へと向かった。自分の部屋に入るとゲーム機をセットし電源をつける。


「”ゲームスタート”」


 そして、魁斗は再びゲームの世界へと入っていった。そして、この日から……この日から始まったのだ。魁斗の……シュテルの、悲しみと苦痛にまみれた地獄のようなダークサイドゲームが。

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