異世界成り上がり五十年記

西海之和月

異世界人生の始まり

第1話 儘ならない終わり方、そして……



【今日から日記を書こうかと思う。三日坊主にならないようにしないとな……】




 人生と言うものは儘(まま)ならないものだと思う。何故なら今の俺がそう感じているからだ。

 俺の人生は割りと短く、三十になる前に終わりを迎えた。大した人生ではないが、普通に生まれ、普通の家庭で育ち、普通に学校を卒業後に普通の会社に就職。


 普通の恋愛をして失恋をし、その後ノリと勢いで嫁と結婚。若くして子供が二人出来て、近々出世の話もでていた。さあ、頑張るぞぅとばかりに気合いを入れた頃に嫁の浮気が発覚、子供二人は托卵だったことが判明。即離婚、慰謝料ゲット、慰めてくれた後輩女性とワンナイトラブ。


 荒んだ心の俺は体だけの関係を望むが、心を求めた後輩女性ストーカー化。挙げ句の果てに拉致監禁されるが一ヶ月後に警察の手により救出される。普通の生活に戻る筈が、更に一ヶ月後に後輩女性の妊娠が判る。


 調べて遺伝的に自分の子だと判明。獄中後輩女性と面会し、子供の堕胎するしない。親権をどちらが持つか、責任とって結婚云々かんぬん。


 普通に生まれ育った筈なのにどうしてこうなったとしか言えない人生を送ってしまっている。いや、分かるよ? 自分のせいだって事はさ。自己責任なんだよ。只、何時か自分が思い描いた人生プランはこんなものだっただろうかと考えずにはいられない。


 先の分かる人生の攻略本でもあれば良かったのに、それが無いのが人生って言うんだから儘ならないよな。

 そんな感じで思い悩んでいた俺の日常は唐突に終わりを迎える。

 そう、死んだの。死んでしまったらしい。え、原因? 多分事故か何かだろうと思う。


 と言うのも、死んだ時の記憶が全くないから死因が何かを知らないからだ。

 覚えているのは突風による女性のパンチラ。それもかなり際どいやつな。ヒモ程じゃないがかなり攻めた感じのパンツだったよ。色はパープル。婆臭さより妖艶な感じで、生地は透けてるやつなんだが、いい感じで地肌の色が透け見えてエロティックな感じが堪らなく――。


 イカンイカン。阿保な事に熱くなってしまったな……。自重自重。


 とまあ、こんな具合に死んだ際の記憶が無いわけで、自分が何故死んだのか答えようにも答えられないんだよ。

 しかし、只一つ言えるのはどうやら俺は異世界に転生をしたと言う事だ。







 さて、いきなりだが現在ワタクシは彫りの深い顔をした女性から授乳を受けている。

 当然日本人である自分にそんな知り合いは居ない上に、授乳プレイなどという特殊な性癖など持ち合わせてはいない。


 三十歳前の大人が、何が嬉しくて見ず知らずの他人(はは)の乳房にしゃぶりつかなければならぬ?

 いや、世の中には喜ぶ人間も居るかもしれないが。まあ、俺にはない。


 じゃあ、何故俺は赤の他人の乳房にしゃぶりついているのか……。

 答えは簡単だよ。ジッチャンの名を連帯保証人にせずとも明白!


 そうさ、俺がベイビーだからだよ!!


 つまりあれだ。三十前のおっさんが、気が付いてみれば赤ん坊になってたんだ~。

 はは、これを転生したと言わずなんと言う。

 更に加えると、赤ん坊プレイ歴三ヶ月--その間に色々情報を収集した結果、ここが異世界であると確信に至る事象があったのだ。


 それは一ヶ月前の事だ。まだ地球の何処か、北欧の超貧困層の家庭では無いかと考えていた頃だった。


 まだ、視力がはっきりとしてないが、俺の生まれた家は見た感じが部屋数が少しある掘っ立て小屋。簡単に組み立てただけの様な、貧相な家である。

 ほら見てください皆様。床なんて木の板張りじゃなくて土ですよ。露出した大地なんです。正にアースですよ。母なる大地の息吹きを感じなさいって仕様なのですよ。


 更に更に加えて言うなら、お外でもお家でもオール土足。住民の手を煩わせない親切設計。弊害として水虫案件が待ったなしですけどね。


 次いでにこれでもかと出血大サービス。人が歩けば微かに砂ぼこりが舞って、ハウスダストも真っ青な空気汚染が発生すると言うおまけ付き。

 ……子育てする環境としては最悪ですよ。


 それに家具とか寝具(ベッド)を地面に直に置いていて、現代っ子には受け入れ難き環境。衛生観念何処に放り投げた?


 あ、衛生と言えばだが、これは環境だけじゃないんだ。俺の両親と思われる二人についてなんだけど、まず見た目が完全に西洋とか北欧とかの外人だった。

 視力が悪いから今までよく見えてなかったけど、頬に軽く接吻する時に見えて分かった。


 父親は赤に近い茶髪に碧眼、口周りに髭を生やしたガッチリ系農夫。見ようによって山賊かな? って容姿だ。

 母親は灰色の髪に同じく灰色の眼、顔は普通だが胸はそこそこデカイ。見た目がモブ村人って感じの人だ。


 恐らくだが、二人は若いと思われる。二十代半ばくらいじゃないだろうか?

 俺の認識できる範囲では、他に住人は居ないので三人家族だと思ってる。


 さて、そんな慎ましやかな一家なのだが。どうも経済的にはあまりよろしく無さそうで、農民である父は畑を耕しに、妻である母も畑を耕しに、息子である俺は畑の横にある木の根本に放置プレイ。


 これ、現代なら紛糾ものの案件ですよ。児童虐待になるのでは? てか、虫が寄ってくる。這い寄るインセクターさん!

 って、むず痒いぞ。這い寄るなインセクターさん! くそっ、生後二ヶ月では思うように体が動かせない。あ、あ、あぁ~服の中に侵入されたー!

 誰にも開いたことの無い体が虫に蹂躙されるー! ふぎぃ、痒っ、痛!? 噛まれた!!


 このままではオイラのもち肌が大変な事になりかねない。仕方ない、最終奥義の召喚術を使うしかないか。

 と言うことで、俺氏今から泣っきま~す!

 母親召喚!!


「おんぎゃー、うんぎゃー」


「¥$@£%#&?☆○◎◇※△」


 俺が泣くと母親が畑仕事を止めて、よく分からない言語で話ながら近づいてくる。

 母親は状況を理解すると無抵抗な俺の衣服を剥ぎ取り始めた。イヤンバカンエッチ!


 と言うか、赤ん坊を抱き上げるならせめて手ぐらい洗ってくれませんかね? 泥だらけじゃないですか。


 どうもウチの家族は衛生に関してズボラな所がある。

 服はゴワゴワの汚れっぱなし、洗濯は週に一度みたい。体も3日に一度行水する程度だ。当然臭う。


 授乳時とか特にそう感じるよ。女性に対して失礼だけど、マジで獣臭がする。

 父親は父親でまた違った臭いで、あっちはツーンって感じのイガイガ~って感じの臭いだ。思わずクゥワ~って顔しちゃう。


 こんな不衛生な環境で抵抗力の低い赤ん坊は生きていけるのだろうか? 病気とかにならないのだろうか? 何か対策とか必要では?


 しかし、どうにかしたいがよしんば生まれて二ヶ月の赤子に何が出来よう。うん、出来ない。何も出来ないな。


 只でさえ劣悪な環境なのに、衛生観念も駄目ときた。俺、生き残れる自信がないのだけど?

 いや、声を上げたり出来ることから始めようじゃないか!


 アブアブしか言えないけどな。



 と、考えていた日から二日後。俺は熱病に魘(うな)されていた。

 風邪かな~、酷く辛い風邪かな~。頭痛? 意識朦朧? 体、あっつぅ~、サハラ砂漠でサウナごっこ?

 考えが纏まらない、それ以前に思考するのが億劫だ~。


 痛いキツイ辛い。熱い寒い痛い。自然と泣き喚いてしまうのは許してねパパンママン。

 魘される姿を見て、あたふたする二人を余所に現状を打開する術を考える。が、無理だ。出来ることが何も無さそうだぞ?

 だって、赤ん坊だもん。仕方無いでしょ。


 しかし、そんな苦行とも直ぐにオサラバすることとなった。父親が何処からか、いや多分同じ村人じゃないかと思われる人を連れて来た。


 その人は多分四十程の痩せたおっさん。草臥れた雰囲気を醸し出す姿は、さながら家庭に居場所の無いお父さんである。

 微かに見える疲れを感じさせる目とネットリとした笑みは、まるで詐欺を働く犯罪者を彷彿とさせるのは俺の気のせいだろうか?


「#&◇¥◎」


「※#&◇$@£」


 そんな事を考えている俺を余所に父親とおっさんは何かを話して、それからおっさんはブツブツと呟きながら、熱に魘される俺の頭を鷲掴みしたのだ。


「おぎゃ!?」


 只でさえ頭痛で痛いのに、更にアイアンクローを受けるなんて痛み倍増だわ! 児童虐待か!?

 ってな事を泣いて抗議しようと思ったが、突然頭痛による痛みが引き始めたのだ。


 おいおい、いったい何が起きたって言うんだ? まさかおっさんの手はバファ◯ンで出来ているとでも言うのか?

 つまり、含有量の半分が優しさのアイアンクローだとぅ!?


 て、んなアホな。いきなりの事態に馬鹿なことを考えてしまっているな。

 しかし、フム……アイアンクローされているのでよくは見えないが、不可思議なオーラがおっさんの手を覆い、更には俺の体全体も覆っているように隙間から見える。


 どうやらこのオーラによって熱が癒されているみたいだ。只し、アイアンクローの痛みは変わらないが。


 それにしても、何だこれは? 気功か何かなのか?

 もしくは魔法と呼ばれるものなのではないだろうか。もし、魔法だとするならば、俺は異世界に来たって事じゃないか。


 生前--いや、前世でもついぞ出会うことの無かった魔法……。あの有名なファンタジー映画、ファリー・ポッチャリーの如くアダブラなんたらとか叫べるんだ。


 空も飛べるかもしれないし、瞬間移動とか透明になれるかもしれない。邪眼とか大魔法を使ってチヤホヤされるとかヤバ過ぎでしょ。

 いやそれより、男だった魅了の魔法を求めなきゃ駄目だろ。エロエロや、エッチッチ魔法こそ至高でしょうが。グフフフ、夢満載ではないかね諸君!


 とか、そんな卑猥なことを考えているうちに治療が終わったのか、アイアンクローから頭が解放された。

 いや~、驚きだね。こんな短時間で治るなんて医者要らずだよ。世の中のお医者さんは皆失業しちゃうね。まあ、見知らぬお医者さんを俺みたいな赤ん坊が憂いても意味ないんだけどな。


 治ったのが分かった両親が心配気にこちらをみているので、治療により回復した俺は、ニッコリフェイスで覗き込む両親を安心させる。ふふふ、なんて出来た息子なんでしょう。


 そんなエンジェルスマイルを見てから父親は、治療をしたおっさんに幾ばくかのお金らしき硬貨を渡していた。

 おっさんはネットリとした胡散臭そうな笑みを浮かべ、『毎度あり、キエッヘッへ』と言ったかはさだかではないが、二言三言両親と交わしてから早々に帰っていった。


「%¥◎@$」


「&※△%¥◇☆○£@$%」


 おっさんが去った後、二人は俺を抱き上げながら何かを言っている。理解はできないが多分心配したとかそんな事だろう。

 心配かけてごめんね。でもさ、今回の熱はこの生活環境にあると思うから改善しようよ。

 せめて洗濯と行水は小まめにしようぜ。

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