67. また嘘のようです
「あの魔封じの縄、本当に効果があるのでしょうか?」
「ああ、間違いなくある」
馬車に揺られていると、カチーナがグレン様にそんな問いかけをしていた。
今の馬車の中は重い空気になっているけれど、私もグレン様もカチーナも強盗に怒りを感じているだけで、会話自体は和やかだ。
「少し心配ですわ。試してみても?」
「レイラが試すのか? そんな危険なこと、止めた方が……」
「今ならグレン様が守ってくださるので、大丈夫ですわ」
そう口にしながら、魔封じの縄を腕に巻いてみる。
これだけでも魔法は使えなくなるほどの効果があるのだけど、試しに魔法を使ってみたら普通に発動してしまった。
「使えましたわ……」
「悪夢でも見ているのか……?」
そう呟いてから、御者に急ぐように指示を出すグレン様。
「奥様、私も試してみますね!」
「ええ」
けれども、カチーナは何かに気付いたみたいで、嬉しそうに縄を腕に巻き付けてる。
そして……。
「使えませんね。おそらくですが、奥様の魔力が強すぎて抑えきれないのだと思います」
「なるほど、一理あるな。俺も試してみよう」
……グレン様もカチーナも、この縄で魔法が使えなくなることが分かった。
まさか私に魔封じが効かないだなんて。
縄で縛られても大丈夫という安心感はあるけれど、素直に喜べないのよね……。
「魔封じが効かないのは流石だな」
「化け物だとは思わないのですか?」
「そんなこと思いつきもしない。レイラはレイラだからな」
心配事を打ち明けてみたけれど、グレン様は一蹴してくれた。
安心して、小さく息を吐く私。
それからしばらく移動して、私達は強盗が入れられている牢に辿り着いた。
「私も同行して良いのですか?」
「一緒に入ってもらえると助かる。例の強盗は嘘を
嘘を見破れる人は多い方がいいから、手を貸して欲しい」
「分かりましたわ」
言葉を交わし終えると、重厚で無機質な扉がグレン様の手によって開けられる。
それからいくつかの扉を抜け、迷路のように入り組んだ通路を進んでいくと、目的の取り調べ室に辿り着いた。
ここには既に強盗のリーダーのような人が入れられていて、縄で両腕を椅子に縛り付けられていた。
「お前が下っ端と聞いているが、本当か?」
「違います! 俺はリーダーです!」
「そうか。なら、誰の指示かも知っているな?」
視線を逸らさずに答える強盗に、私がしたのと同じような問いかけをしていくグレン様。
私もグレン様も無表情を貫いているから、強盗は私達の思惑を計り損ねているみたい。
でも、さっきとは違うことがある。
強盗はここで魔法が使えない事をしっているみたいで、私に向けられていた怯えの目が私を見下すものになっている。
確かに私は強くないけれど、ここでも魔法を使えてしまうのよね……。
「はい。レイラ様の指示でした。
アルタイス領で暮らしている家族を殺すと脅されて、仕方なく……」
「そうか。そういうことなら、俺の妻とは離縁することも考えねばならないな。
レイラは今どこに居る?」
「恐らく、帝国で授かった領地に……」
「ほう?
普通なら、帝国に行くまで一週間はかかる。何かおかしいな?」
相変わらず無表情のまま、強盗の発言に混じっている矛盾を指摘していくグレン様。
今のところ私の出番は無さそうだわ。
「事前に命令を受けていたんです!」
「そうか。つまり、お前はアルタイス家の使用人であると?」
「はい! アルタイス家からの給金で家族を支えているので、命令されたら逆らえず……」
「一つ教えてやる。アルタイス家で理不尽な命令をしたら、命令した側の立場が危うくなる。
あの家はそういう場所だ。だから使用人は中々やめず、そこそこの待遇の割に人気になっている。もう少しマトモな嘘を吐いたらどうだ?」
その言葉を聞いて、強盗の表情が歪んだ。
ようやく失敗に気付いたみたい。
でも、グレン様はここで手を緩めようとはしなかった。
「そ、そういえば、レイラ様はこの命令を秘密にするようにとおっしゃっていました!」
「そうか。で、そのレイラは今どこに居る?」
「ですから、帝国に……」
まさか私の顔も知らないで、私のせいにしようとするなんて、無謀にもほどがあるわよね……。
レイラは目の前にいるのに……。
「正直に言ったらどうだ? 本当の居場所は分かるだろう?」
「申し訳ありません。分かりません」
これ以上の誤魔化しが出来ないと思ったのかしら?
強盗はそんな事を口にしていた。
きっとパメラ様からの指示で、私を徹底的に貶めようとしているのよね。
でも、そうはさせないわ。
「分からない? お前の言葉の通りなら、居場所は分からないとおかしい。
誰かから俺の妻を貶めるように指示されているのか?」
「そ、そんなことは……」
分かりやすく視線を泳がせる強盗に、呆れた様子のグレン様。
そろそろ頃合いかしら?
「グレン様、分からないのも仕方ありませんわ。
この罪人は私の事を一切知らないみたいですもの。当然と言えば当然ですけれどね?
こんな使用人、アルタイス家では雇っていませんもの。そもそも領民にも居ませんわね?」
これは演技。それをグレン様も分かってくれているみたいで、相変わらずの無表情のまま視線だけで続けるようにと促してくれた。
こんな事をしていたら根が黒いと思われるかもしれないけれど、こういう悪意を向けられることが多い貴族にとっては必須の能力だ。
だから、咎められるようなことにはならないと思う。
正直に言って、指示されているだけの人を追い詰めるのは気乗りしないけれど、ここで情報を出来るだけ取らないと後で困るのは私だから、手を抜くつもりは欠片も無い。
「申し遅れました。
わたくし、レイラ・カストゥラと申しますわ」
「は……?」
私が今の名前を名乗ると、強盗は鳩が豆鉄砲を食ったような、間抜けな顔をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます