66. 狙いが分かりました

「全てレイラ様の指示です」

「嘘を吐くのは止めた方が身のためよ?」


 今の強盗の言葉で確信した。

 目的は私の立場を貶めるためで、公爵家を困らせることは二の次に違いないわ。


 私が生きていることが知られたら何か起こるとは思っていたけれど、こんなに早く事を起こしてくるとは思わなかった。

 でも、私が見ている場所で起きて良かったわ。


 私以外の人が最初にこの言葉を聞いていたら、必ず私が疑われることになるのだから。

 潔白を証明することは難しくないけれど、疑われて良い気分はしないのよね。


「そのレイラ様はどこにいるのかしら?」

「帝国に居るはずです。我々はそこで指示を受けました」

「へぇ。山越えはどうしたのかしら?」


 意識しなくても、声が低くなってしまう。

 これが怒りなのかしら?


 顔には出さないけれど、不快感がものすごい。


「魔法があるから難しくはありません」

「そう。よく黒竜に殺されずに済んだわね? 帝国は黒竜に焼き払われて、今は何もない焼け野原なのよ?」

「そうだったんですか? 聞いていた話とちが……」


 嘘を暴くために少し誇張してみたけれど、上手くいったみたい。

 強盗は言葉を詰まらせて、視線を彷徨わせている。


 ちなみに、今も私がかけた魔法を無力化しようとしているみたいだけど、全部の属性の魔法で拘束しているから、この人達が協力しても解けないと思う。


「本当の事を言いなさい。誰の指示で奥様を貶めようとしているのかしら?」


 自分で奥様と言うのには違和感があるけれど、今正体を明かすわけにはいかない。

 最後の切り札として取っておくべきだから。


 ここで追い詰めても、グレン様の前で嘘を吐かれたら対策できなくなってしまうから。


「ですから、レイラ様が……」

「次は当てるわよ?」

「ひっ……」


 まだ嘘を吐く気力があるみたいだから、光の攻撃魔法を頭の真横に放ってみた。

 強盗が顔を隠している布が切れて、素顔があらわになる。


「誰の指示? 本当のことを言いなさい」


 自分がこんな指示を出さないことくらい分かっている。

 だから、この人達が嘘を言っているのは確実なのだけど、ここまで脅しても折れなかったら騙されている可能性もあるのよね……。


 もしそうなら厄介なのだけど、幸運なことに今回の首謀者はそこまで考えていないみたいで、今度も私が知っている名前が出てきた。


「申し訳ありません、本当はパメラお嬢様の指示です。レイラ様の指示だと言うようにも命令されていました」

「そう。今回も嘘はついていないかしら?」

「ほ、本当のことです!」


 じっと目を見てみても、今度は視線は泳がなかった。


 正直、この名前が出てくるのは意外だった。

 王家が公爵家を潰そうと動いていると思っていたのに、特に対立していないアルフェルグ家のパメラ様からの指示だなんて。


 狙いは私で間違いないのだけど、これ以上ここで問い詰めるのも良くないわよね。

 周りにいる人達は強盗を気に入らないみたいで「もっとやれ」だなんて囃し立てているけれど、その声もグレン様が姿を見せると、今までなかったかのように静かになった。


「抵抗したらすぐに首が飛ぶと思え」

「はい……」


 駆けつけたグレン様と護衛さん達の手によって、魔封じ付きの縄で拘束されていく強盗達。

 この縄で縛られると魔法を扱えなくなるから、魔法の使い手を拘束する時によく用いられる。


 けれども、魔法の使い手のほとんどが貴族だから、この縄は貴族しか持っていない。

 牢の中でも魔法が使えないようになっているものもあるから、この人達はそこに入れられることになる。


「連れて行け」

「承知しました。後で俺が取り調べをするから、用意も頼む」


 そう指示を出すグレン様だけに見えるように『私の名前を呼ばないでください』と紙に書いて見せる私。

 他の衛兵さん達にも見せると、全員頷いてくれた。



 そんなことをしている間に強盗達は連行されていって、静寂が戻った。


「こんなに強い衛兵さんが居るなんて思いませんでした!」

「領主様、こんな強い人がいるなら、もっと早く動いてくださいよ! あの強盗達のせいで、店が五つも被害に遭ったんですよ!」

「申し訳なかった。今後は魔法が使える者も迎え入れるようにしよう。

 それと、彼女は衛兵ではない。俺の妻だ」

「……はい?」


 グレン様は魔法の使い手を迎え入れると簡単に言っているけれど、そんなに簡単に見つかるものでも無いのよね。

 どういうわけかアルタイス家は他の領地よりも魔法の使い手が多いのだけど、これも多分偶然。


 特に囲い込んだりはしていないから、使用人になる人は少なかったけれど。


「……衛兵の格好をしているのは、一体何故ですか……?」

「この方が動きやすいのですわ。さっきのような事が起こっても、私が手を出すことだって出来ますから」

「たしかに、一理あります。しかし領主様のご夫人だと気付かずに無礼を働いてしまうこともありますので、出来ることなら避けて頂ければと……」


 領民のみんなが心配する気持ちも分かるけれど、故意だったり貶めようとする人以外には寛容にしているつもり。

 だから、今言われたような事があっても罪に問うようなことはしない。


「この格好をしている時に無礼を咎めるつもりは無いですわ。むしろ、普通の衛兵のように接して頂けると嬉しいです」

「妻は身を狙われている身だ。皆で協力してもらえると、俺としても助かる」

「分かりました。では、気にしないようにします」

「ありがとう」


 そう口にしながら軽く頭を下げる私。

 少しして、私達はさっきの強盗の取り調べの場所に向かうことになった。

 

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