49. 様子を見に行きます

 あれから一週間。

 グレン様が戻ってくる予定の日を二日も過ぎたのに、今日のお昼になっても戻ってくる気配は無かった。


 そのせいか、昨日から何も手につかなくなっている。

 領主のお仕事は片付いているから問題無いのだけど、気分は良くない。


「グレン様、遅いわね……」

「旦那様なら命を落とすことは無いと思いますが、心配です……」


 窓の外を眺めながら呟くと、カチーナが声をかけてくれた。


 グレン様の身に何かあってお守りが働けば、すぐに分かるようになっている。

 だから無事だとは分かっているけれど、遅ければ遅いほど私が置かれている状況が悪くなってしまう。


 あの日以来、パメラ様が原因の瘴気は出ていないけれど、代わりの聖女探しが行われているらしい。


 ただ、王家への不信感は私達が何もしなくても爆発寸前だったから、誰も協力していない。


『もし私の娘が聖女にされたら、レイラ様のように罠に嵌められるでしょう』


 そんな一文が書かれた手紙が私に届いたこともあったくらいだ。

 宛先はグレン様なのだけど、王家が信用できないから頼らせてほしいというお願いだった。


 この機会は逃したくないから、今は協力関係を築いてある。

 かなり前から親交があった家みたいで、お義父様が信頼している家だったから、迷うことも無かったのよね。


「……やっぱり、これ以上は待ちきれないわ。

 明日の夜までに戻るから、行ってきても良いかしら?」

「休日ですから、問題ありません。心配ではありますが……」

「ありがとう。準備したらすぐに行くわ」


 そう口にして、すぐに準備を始める私。

 黒竜と戦うことになるかもしれないから、丈夫な剣と防具も用意していく。


 相変わらず男性用のものばかりだけど、サイズが合うものがあって良かったわ。

 胸周りに余裕があるのは、胸筋が立派な人が着ることを想定しているみたい。


 食料は料理人さんにお願いして作ってもらったものを、私が作った保存の魔道具の中に入れていく。

 この魔道具は魔力を常に使う欠点はあるけれど、魔石を大量に用意してある今なら気にならない。


「これだけあれば大丈夫そうね」

「お食事はどこに入っているのですか……?」

「この中に全部入っているわ」


 この保存の魔道具は、鞄くらいの大きさなのに馬車三台分の荷物が入る優れものだから、こういうときに便利なのよね。

 昔の資料を見てそのまま作ったから、仕組みはよく分かっていないのだけど……。


「これも魔導具だったのですね。あの量が全部入るなんて、不思議です……」

「そうよね。私も仕組みは分かってないから、昔の人は本当にすごいと思うわ」


 そんなことをお話ししながら用意した荷物を肩にかけて外に出ると、使用人さん達が外まで見送りに来てくれた。


「奥様、どうかご無事で」

「ありがとう。必ず無事に戻ってくるわ」

「お気をつけて!」

「怪我しないでくださいね!」

「戻ってこなかったら探しに行きますから!」


 ブランの背中に乗っても、次々と見送りの言葉がかけられる。

 だから、私も笑顔を浮かべて手を振った。


「みんなありがとう! 行ってくるわ」


 それからブランに飛ぶようにお願いして、私はグレン様とお父様を探す旅に出た。


 使用人さん達は、雲に遮られて見えなくなるまでずっと手を振ってくれていて、すごく嬉しくて……心配させてしまって少しだけ申し訳ない気持ちになってしまった。




「方向はこっちだね」


 雲の上まで上がってから少しして、ブランがそんなことを口にした。

 あたり一面真っ白だから、方向なんて私には分からない。


 けれども、ブランは何かを感じ取っている様子。


「グレン様の居場所、分かるの?」

「黒竜の場所が分かるだけだよ」


 少し期待してしまったけれど、分かるのは黒竜の居場所だったみたい。

 でも、黒竜の居場所が分かればグレン様の居場所もある程度絞れると思うのよね。


 だから、まずは黒竜の近くに向かうことに決めた。


「グレン様を見つけるまでは戦わないつもりだから、気付かれないようにお願い」

「分かったよ」


 ブランは頷くと、少しだけ翼をはためかせた。

 さっきよりも勢いよく雲が流れていくから、かなり速いと思うけれど……。


 景色が分からないから今の場所も分からないのよね。

 けれど、国境にそびえる山々が雲の上まで見えているから、隣国に入るところは分かると思う。


 ちなみに、王国と帝国の間の国境は開かれているから、自由に越境出来る。

 ナフティメル帝国の中では、女性が一人で歩いていると誰かしらに捕まって自由が無くなると噂されているから怖いけれど。


「魔物は居ないみたいね」

「瘴気が出なくなったからね」

「そうよね。動いて良かったわ」


 私が出した通達のお陰で、パメラ様を頼る貴族が消えた。

 だからパメラ様が贅沢するためのお金も集まらなくなって、苦労しているらしい。


 代わりに平民から巻き上げようとしているみたいだけど、貴族から得られなくなった分を補おうとして、貴族でも払うのを渋るような金額を提示しているらしい。

 だから、今は誰もパメラ様の治癒魔法に頼ろうとしていないらしい。


 王家は人気が無くなったパメラ様の保護をやめたみたいだけど、利益でしか判断できない王に仕えようとは思えないわ。

 見捨てられたパメラ様には同情なんてしないけれど。


 人を欺いてきたから、天罰が当たったのよね。きっと。

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