40. 闇医者のようです

「良い話をしているところ申し訳ないが、病の元を辿るために協力してもらいたい」


 私達の話が少し途切れたところで、そんなことを口にするグレン様。

 すると、村の人はこんなことを口にした。


「元々、我々の村はこの辺りの村としか交流がありません。

 他の村も同様ですが、先週は王都から返ってきた者が居ました」

「交流が無いというのは、街との往来が無いという事だな?」


 村の人の発言に対して、そう問いかけるグレン様。

 今の言葉で意味は分かっていたみたいだけど、念のための確認みたい。


「はい。しかし、先週は王都から返ってきた者が居まして……」

「その者は、王都で病に罹ったところを聖女パメラ様に治して頂いたそうなのです。

 しかし、どう見ても病は治っていませんでした。顔色が悪いのに、元気に振舞っていました。

 不思議だったのは、本人が無理をしている自覚が無かったんです」


 その言葉を聞いて、不穏な空気を感じてしまう私。

 この病が治らないまま無理をして、一週間経ったということは……。


「我々が休ませたので、幸いにも彼は自力で回復しましたが、そこから病が広まったのです」


 最悪の状況を想像してしまったけれど、無事で良かったわ。

 けれども一歩間違っていたら取り返しのつかない事になっていたから、この自覚症状が無い状態の原因は探った方が良さそうだ。


「なるほど。病の自覚が無くなったのか。

 その人物に会う事は出来るか?」

「はい。呼んできます」


 グレン様も同じ考えになったみたいで、その人を呼ぶように指示を出した。



「お待たせしました。彼が王都から帰ってきた者です」


 紹介された人からは、人の感覚を狂わせる魔法――幻惑魔法の気配を感じた。

 きっと、この魔法で症状を感じられなくなっていたのね。


 痛みも苦痛も感じられない状態だから、足の指の骨が折れているのにも気付いていないみたい。


「幻惑の魔法……」

「レイラ、それは本当か?」


 うっかり出てしまった私の呟きはグレン様に聞こえてしまっていて、問い返されてしまった。

 治癒魔法をかけながら、問いかけに答えようとする。


「はい。私の感覚が違えたことはありませんから、間違いは無いと思います」

「そうか。

 君はパメラに治癒魔法をかけて貰ったそうだが、パメラは平民には治癒魔法をかけてくれないはずだ。

 一体、どんな手を使った? もしくは、その聖女が偽物か、だ」


 グレン様は他の違和感に気付いたみたいで、そんな問いかけをしている。

 言われてみれば、あのパメラ様が彼のような平民を治すことを受け入れるとは思えない。


 事実として病は治せないから、何もしていないみたいだけど……。


「実はとある商会に貢献をして、大金があったんです。

 病を理由に辞めることになったんですが、大金を払えばどんな怪我や病も治してもらえることを耳にしたんです。

 まさか、平民の私が王宮に入ることになるとは思いませんでした」

「それなら、偽物の可能性は低そうだ。

 あまり考えたくないが、パメラは病を治したと偽って、幻惑の魔法をかけて誤魔化していたことになるな」

「闇医者と同じ手口ですわね……」


 一瞬何もしていないと思ったけれど、何もしないよりも酷いことをしていたみたい。

 こんなことが許されるだなんて、今の王家は何を考えているのかしら?


 グレン様も酷い表情を浮かべて王都の方を睨みつけている。


「これを指示したのが王家なのかは知らないが、今後は王都との往来を無くそう。

 情報感謝する。また何かあったら来るが、出迎えは最低限で良い。

 俺達はこれから他の街に指示をしに行くから、これで失礼する」

「分かりました。

 レイラ様、本当にありがとうございました!」


 簡単な挨拶を交わして、私達はブランの背中に乗って村を後にした。

 



 眩しい太陽を直視しないように後ろを向く私。

 みるみる離れていく地面と、私から少し離れたところに座っているグレン様が目に入る。


 彼も後ろを見ていて目は合わなかったけれど、お願いしたいことがあったから彼に近付いてから口を開いた。


「グレン様。

 すぐに終わるのでアルタイス邸に寄っても良いでしょうか?」

「分かった。義父上にこのことを伝えるのだな?」

「ええ。流行り病を領地に入れる訳にはいきませんから」


 私の家なら上手く対策出来るはずだけれど、初動は早い方が良いのよね。

 だから、ブランに急いでアルタイス邸に向かうようにお願いした。


「しっかり掴まっててね」

「うん」

「ああ」


 直後、普段は感じられない加速感に襲われる。


「うわああああ!?」

「グレン様、叫びすぎです」


 この感覚に彼は耐えられなかったみたいで、叫び声を上げている。

 もうアルタイス領にある屋敷の上に着いているのに……。


 下の方では衛兵さん達が何事かと私達の方を見上げている。

 そんな中をゆっくり降りていく私達。


「急に来てごめんなさい。お父様はまだ居るかしら?」

「ああ、ここに居る」


 後ろを向いていたから気付かなかったけれど、衛兵さんと同じ格好をしていたお父様と目が合った。

 なんとか間に合ったみたい……。

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