24. 魔力が少なくても

「どういうことですか?」


 私の家が魔物に襲われた。

 そう言われた瞬間、背筋がスーッと冷たくなっていく。


 家族はみんな魔法を使えるけれど、使用人さん達が無事とは限らない。

 それに……災厄を起こすような魔物が相手なら無事では済まないかもしれないわ。


「幸いにも怪我人は出なかったが、屋敷の壁に穴が空いたそうだ。

 もう一つ、大変なことが起きた」

「大変なこと、ですか?」

「ああ。聖女になったパメラ嬢が魔物に頭を噛まれたらしい。

 今は気を失っていて、いつ目が覚めるかも分からないらしい。


 バチって本当に当たるのね。

 ふと、そんなことを思ってしまった。


 家の出費が増えるのは痛いけれど、壁の穴なら土魔法で防げばなんとかなるから、あまり心配しなくても良さそうね。

 それに、癒しの力を持つ人が探されていると言われても、私は死んだことになっているから関係のないお話し。


「それで、癒しの力を持つ人を探しているらしい」

「は、はぁ……。

 でも、私には関係無いですよね?」


 もし今までの噂が消えて、私の不名誉な二つ名が消えて、悪意を向けられなくなったとしても。

 私を罠に嵌めてくれたパメラ様の怪我を治すつもりはない。


 私は聖女になれるほど心が綺麗な人ではないのよね。


「平民にも聞き取りをするようだ。だから、治癒魔法を使う時は気付かれないようにして欲しい」


 グレン様はそう口にしているけれど、誰かが困っている時に助けられないなんて、私は嫌だ。

 それに……。


「髪さえ隠していれば、気付かれないと思います。

 ただ、当家の制服で外に出られると困りますから、町娘がよく着ているデザインのワンピースを仕立てましょう」


 ……アンナもそう言ってくれたから、隠し方を変えることに決めた。

 外に行く時は着替えないといけないけれど、これくらいは我慢しなくちゃ。


「私もアンナと同じ考えですわ。

 グレン様、ワンピースを何着か買っても宜しいでしょうか?」

「もちろんだ。むしろそうして欲しい」


 うんうんと頷くグレン様。

 他の侍女達も私がワンピースを着ることには賛成みたいで、喜ばれた。


 そんなに期待されても恥ずかしいのだけど?




 このお話が終わってからは、さっきまで居た洗い場に戻って、さっきの侍女さんに声をかけた。


「待たせてしまってごめんなさい」

「いえ、待っていないので大丈夫です!」

「それなら良かったわ」


 私が魔法で水を張っておいた桶を使って、服を洗っていく侍女さん。

 その横で、私は魔道具の上に魔石を置いて、手渡そうとした。


 けれども……。


「わっ……」

「どうされましたか?」


 魔力を注いでいないのに魔道具から水が溢れてきて、間抜けな声を上げてしまう。


「何もしていないのに魔石から水が出てきたの」

「もしかしたら、魔道具は魔石に触れさせるだけで効果が出るのかもしれませんね。

 少しお借りしても?」

「もちろんよ」


 頷きながら魔道具を手渡すと、そのまま一番大きな魔石の上に置く侍女さん。

 次の瞬間、さっきと変わらない量の水が現れた。


「すごいです! これなら魔力が使えない私でも腰を痛めずに済みます!

 本当にありがとうございます!」

「役に立ちそうで良かったわ。

 魔石が切れそうになったら、声をかけて欲しいわ」

「分かりました!」


 満面の笑顔を浮かべて、頭を下げる侍女さん。

 彼女はそのまま洗濯の仕事に戻っていった。



 邪魔してしまったから、お詫びも兼ねて私も少しだけ洗濯に参加しようかしら?

 ふと、そんなことが頭に浮かぶ。


 嫌がられることは無いわよね?

 だから侍女さんの横に並んで、桶に水を張っていく。


 人数が多いから、洗濯物もたくさんあるのよね。

 家でも洗濯をしたことはあるから、その時のことを思い出して服を揉んでいく。


 こういう時、擦ると生地が傷んでしまうのよね。

 今日の洗濯物にドレスは無いけれど、例え汚れても良い服でも長く使えた方が良いと思う。

 すぐに捨てたら勿体ないもの。


「ここからは私一人でも大丈夫です」

「私のせいで遅れてると思うから、その分だけ手伝わせて欲しいの」

「では、お願いします」


 この言葉を聞いて、笑顔を浮かべる私。

 それからは黙々と服を洗っていって、まだ日が高いうちに全て干し終えることが出来た。


「お疲れさま。私は中に戻るわね」

「最後まで手伝って下さってありがとうございます!」


 お礼の言葉を受けてから屋敷に戻ると、アンナが声をかけてきた。




「奥様。これから新しいドレスを仕立てるので、こちらにいらして下さい」

「今日仕立てるの? ワンピースを買う話だったと思うのだけど?」

「ええ、そうですね? ついでにドレスも仕立てることになったのです」


 私が問いかけると、そんな答えが返ってくる。

 もう公爵家お抱えの仕立て屋さんも来ているみたいで、後には引けない状況らしい。


 後ろの逃げ道は護衛さんに塞がれていて、横は侍女さん達に塞がれている。

 どうしてこうなったのかしら?

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