18. 魔道具つくります
死んでると扱われている私が悪者にされているのは、納得がいかない。
グレン様からは「死ぬ直前に何かした」だったり「断罪される前に仕組んでいた」などと思われていると説明された。
王家に圧をかけたのは、表向きでは公爵家の名誉を保つため、ということになっているらしい。
そんなこと、私には関係無いのだけどね?
ちなみに、あれから私には必ず二人の護衛が付くことになってしまった。
だから大人しく部屋に戻って、庭師さんのための魔道具を作ることにしている。
「奥様、これは一体……」
「魔道具を作るための道具よ」
負担になる仕事は減らして行った方が、お屋敷の空気は良くなっていくはず。
そのために魔導具を活用しない手は無いと思うのよね。
「魔道具ですか? あの、今は存在しないはずの……」
疑うような口調で問いかけてくるカチーナは、私が気でも狂ったのかと心配するような表情を浮かべていた。
どうやら、この魔道具の存在は私の狂言だと思われているみたい。
カチーナもアンナも、私の信頼できる人
リストに入ったから、魔道具の存在も明かすことが出来る。
「私になら作れるみたいなの」
「確かに大昔に作っていた人と同じ髪色はしてますけど、一体どこからその技術を……」
「アルタイス家の書庫に置いてある資料に書いてあったの。好奇心で試してみたら、出来ちゃった」
私が魔道具を見つけたきっかけを話しながら、魔道具の中心になる魔法陣を、銀の板に描いていく。
この魔法陣は、学院でも習う初級魔法の儀式魔法と同じものだから、魔法の知識がある平民にも描ける。
儀式魔法は簡単に言うと、魔法陣を地面に描いて使うものなのだけど……手間だから誰も使わないのよね。
「これは水魔法ですか……?」
「ええ。井戸から水を汲まなくても大丈夫なようにしようと思ってるの」
「本当に完成したら、庭師と料理人が腰の痛みから解放されそうですね!」
笑顔を浮かべながらの言葉だけれど、瞳の奥には「まだ信じません」と書いてある。
私が初めて魔道具を完成させた時の、家の使用人達の反応と全く一緒だわ。
もしかしたら、周りに言われても誰も信じないのではないかしら?
「ねぇ、もしかして信じてもらえてない?」
「当然です」
「普通はそうよね」
「ええ。どんなに熱心に説明されても、新手のカルトなのかと思ってしまいます」
「カルトなのね……。少し眩しくなるから、気をつけて」
そんな言葉を交わしながら、全ての属性の魔力を同時に魔法陣に向かって流していく。
魔力は使う魔法の属性によって使い分けるものなのだけど、日常で複数の属性の魔力を同時に練ることは無い。
だから、この同時に流すところが一番難しいのよね。
でも、これに成功すれば魔法陣は何十年も使えるらしい。
「これで動くと良いのだけど……」
「本当に出来るのですか?」
カチーナが問いかけてきた時、魔力を流し終えた。
その瞬間、魔法陣から
試しに魔力をそのまま流してみると、魔法陣から少し離れた場所から水が流れはじめて、用意していた桶の中に溜まっていく。
「上手くいったわ」
「私には魔法を使っているようにしか見えないのですが……」
「試しに魔力をそのまま流してみて」
「こんな感じでしょうか……?」
まだ信用していない様子だけれど、私の言っていることは受け入れてくれているみたい。
水が流れ始めるとカチーナは言葉を失って、しばらく固まっていた。
「大丈夫……?」
「……これ、世界が変わるじゃないですか! もっと作りましょう!
厨房と洗い場にも欲しいですね。あとは洗濯する場所にも!」
目を輝かせながら、グイグイと迫ってくるカチーナ。
どうやら魔道具の凄さに気付いてしまったみたいで、あれこれと案が飛び出してくる。
嬉しことだけれど、少し困ってしまった。
「これ、作る時に魔力をたくさん使うのよね……。
何かあった時のための魔力を考えると、一日に三個くらいが限界なの」
「そうなんですね……。それなら、今日はもう一個だけお願いします。
料理長が腰を痛めてしまって……」
「分かったわ」
頷いてから、もう一枚の板にも魔法陣を描いていく私。
その間、カチーナにはさっき作った魔道具を箱に入れてもらう。
板のままでも使えるけれど、傷が付くと使えなくなってしまうのよね。
「奥様、私の方は完成しました」
「分かったわ。ありがとう」
それから二つ目の魔道具も作り終えた私は、庭に向かった。
庭師さんは何人かいるのだけど、さっき腰を痛めていた人の姿はすぐに見つかった。
「奥様、どうかされましたか?」
「少し試して欲しいものがあるの。この魔道具なのだけど……」
「魔道具? 名前は聞いたことがありますが、どのような物なのでしょうか?」
「魔力を流せば分かるわ」
私がそう口にすると、魔道具から水が流れていく。
すると庭師さんは固まってしまった。
やっぱり、みんな同じ反応をするのね……。
護衛さん二人は、見向きもせずに周囲の警戒をしていた。
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