4. まずは契約から
「まず、レイラさんが婚約破棄された時の状況についてお話しします。
レイラ、僕が話して良いかな?」
そんな風に問いかけてくるグレン様。
婚約破棄された時のことを話すのは難しいと感じていたから、この提案は嬉しかった。
「お願いしたいですわ」
「分かった。
……では、ジャスパー殿の状況から」
そう言って、私が婚約破棄された時の状況を説明し始めるグレン様。
それを聞いたお父様は、今度は怒りを感じたみたいで、拳を握りしめていた。
お母様も怒りを感じているみたいで、小さく震えている。
でも、相手の方が地位が高いから、私達だけではどうにも出来ないのよね。
「……冤罪については、他の貴族にもお願いして無実である証拠を集めてもらっています。疑いが晴れるのも時間の問題でしょう」
グレン様はその言葉で説明を終えると、小さく一礼した。
「状況は把握しました。
その上でお尋ねします。娘を迎えたいというのは、本気ですか?」
「はい。ギリギリまで婚約者を作らなかった理由をご存じであれば、納得して頂けると思っていましたが……」
「分かっていますが、信じ難いです」
私は完全に蚊帳の外で、グレン様とお父様のあいだで交渉が進んでいく。
それから少しして、お父様が折れる形で交渉は終わった。
この状況での公爵家から縁談を頂けたら、私の地位も家の名誉も保たれる。
けれども、相手に迷惑をかけることを嫌うお父様が渋っていたのよね。
「レイラ、僕と婚約して頂けませんか?」
婚約の申し出は嬉しいけれど、今はグレン様の行動も疑ってしまう状態。
ここで婚約を受け入れても、良い結果にはならないと思う。
「ごめんなさい……。私には無理ですわ」
だから私は首を縦には振らなかった。
「理由を聞いても?」
「裏切られて罠に嵌められたばかりですから、他人を信用出来ませんの。
ですから、今婚約を結んだとしても、グレン様に好意を向けられるとは思えないのです」
今は何も思っていないけれど、一緒に過ごしている間に彼を嫌いになってしまうかもしれない。
そう思うと、この婚約を受け入れたくはないのよね。
「もっともな理由だな。
婚約するとは言っても、表向きだけで構わない。俺がレイラの後ろ盾になるだけでも良い。
婚約破棄された時のパメラ嬢の顔は見ていたか?」
「ええ、少しだけ。理由は分かりませんけれど、私を憎んでいる様子でしたわ」
「そうだな。パメラ嬢は、一度嫌った相手は徹底的に潰そうとしてくる。
去年、子爵家の令嬢が一人処刑されたのは、パメラ嬢が原因だ」
そこまで聞いて、ようやくグレン様の意図が理解できた。
きっと彼は、幼馴染に嫌われる覚悟で私を守ろうとしてくれているのね……。
「グレン様の意図は分かりましたわ。
でも、今の私はグレン様の期待に応えられるとは思えませんわ」
「構わない。ここでは守り切れないと思うから屋敷に来てもらうが、自由にしてもらって良い。
パメラ嬢が断罪されてレイラの身が安全になったら、出ていってもらっても構わない」
「分かりましたわ。
ところで、グレン様に利点はありますの?」
一応は政略的な婚約になるから、お互いに利点が無いと後々揉めることが多いのよね。
だから確認だけしておきたいわ。
「レイラの魔法の力を得られることが利点だ。
怪我をしてもすぐに治せる治癒の力も、どんな魔物も遠くから倒せる魔法の力も、喉から手が出るくらいには欲しいと思っている。従う必要は無いが、魔物が迫ってきたり、怪我人が出たりしたときは手を貸して欲しいと思っている」
「分かりましたわ。では、パメラ様が断罪されるまでの間、よろしくお願いしますわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
お互いに礼をしてから、婚約のための書類の準備に取り掛かった。
貴族のしがらみから逃げるつもりだったのに、どうして国一番の大貴族と婚約することになったのかしら?
貴族の家に嫁入りすることも諦めて、身分を捨てて自由に生きていくつもりだったのに、自由とは程遠い公爵邸で暮らすことにもなってしまったのは、本当にどうしてかしら?
圧に負けた私が恨めしかった。
それから婚約についての話し合いを進めて、私とグレン様は正式に婚約者の関係になった。
どういう訳か、明日には書類上で結婚することになっているのだけど。
一度離婚したら、本当に良縁なんて望めなくなってしまうから、その時は今度こそ勘当してもらうわ。
平民になれば、こういう経歴は関係無くなるもの。
「娘をよろしくお願いします」
「はい。何があってもお守りします」
お父様とグレン様は笑顔で握手を交わしている。
明日から私は公爵邸で暮らすことになるのだけど、上手くやっていけるかしら?
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