3. 婚約破棄の重み
グレン様の馬車に揺られて家に帰った私は、まずお父様に報告に向かうことにした。
「送って頂きありがとうございました」
「友人なのだから気にしなくて良い」
お礼を言ってから、玄関に入る私。
でも、後ろから足音が聞こえてきたから振り向いてみると、グレン様も一緒に入っていた。
どうして勝手に入っているのよ?
「あの、グレン様?」
「「いらっしゃいませ、カストゥラ様。お帰りなさいませ、お嬢様」」
少し睨みながら声をかけると、グレン様の返事よりも早く、侍女達が出迎えの声をかけてくれた。
「言い忘れてた。今日はレイラの父上に話があって、約束してたんだ」
「そうでしたのね。睨んでしまって申し訳ありません」
「勘違いさせた俺も悪いから、気にしないでくれ」
嫌な汗を背中に感じてしまったけれど、この言葉を聞いて少しだけ胸の緊張が解けた気がした。
これからお父様に勘当してもらうのだから、完全に安心する事なんて出来ないのだけど。
グレン様の案内は私がすることになって、彼よりも少し先を行くように階段を上っていく。
突き当たりの廊下を曲がって少し歩くとお父様の執務室に着くから、扉をノックしてから声をかけた。
「お父様、レイラです。グレン様をお連れしました」
私の声に少し遅れて扉が開けられると、お父様が私達を招き入れてくれた。
こういう時、他の貴族だと使用人が出迎えたりする。でも、お父様は相手に礼を尽くすためにと自ら行っているのよね。
それが功を奏して、私の家アルタイス伯爵家と仲の良い家は多くなっている。
パメラ様のアルフェルグ家とも良いお付き合いをしているのだから、お父様の手腕はかなりのものだと思う。
「グレン殿、お待ちしておりました」
「ユリウス様。本日はお忙しいところ、このような場を設けて下さってありがとうございます」
そんなやり取りから始まった情報交換に私が口を出せるはずがなくて、ただ待つこと十数分。
ようやく雑談になったと思ったら、今度はこんな話題になっていた。
「グレン殿は領主になる勉強で来ていると聞いてますが、婚約者は決められたのですか?」
「まだ決まっていませんよ。レイラさんから許しを貰っていませんからね」
そんな言葉と共にグレン様から視線を向けられて、首を傾げる私。
グレン様の婚約者決めに私の許可なんて必要ないのに。
「僕はレイラさんと婚約しようと思っているんです」
「ちょっと待って下さい。レイラには婚約者が居るんですよ?
それとも、先に縁談を申し出てきたマハシム家を優先したことに、今更文句を言われるおつもりですか?」
驚きの発言に、お父様の声色が変わった。
相手は公爵家なのに、強気の姿勢を取れるのは本当に凄いわ。
私はというと、予想外の婚約の提案を飲み込めなくて、固まってしまっている。
どうして私なの……?
「もう居ませんよ。レイラさんの婚約者は」
「まさか、この世を去ったのですか?」
「いいえ、今も元気にしていますよ。多分、浮気相手とよろしくパーティーを楽しんでいるでしょう」
お父様の顔色が変わった。
ここまで分かりやすく顔色を変えるお父様を見るのは初めてだから、どうしたら良いのか分からないわ。
けれども、直後にお父様の身体が傾いて、椅子から転がり落ちそうになった。
「お父様っ!」
「ユリウス様! 気を確かに!」
「旦那様!」
私とグレン様の声が重なった。
幸いにも私がお父様の倒れてくる方向にいたから支えることが出来たけれど、反対側だったら危なかったわ。
グレン様はテーブルの上に身を乗り出してお父様の身体を支えようとしてくれているけれど、私の方が少しだけ早かったみたい。
「不味いな、言い方を間違えた。
ソファに横にさせる」
「分かりましたわ」
お父様の身体をグレン様に預けて、侍女と一緒にソファの上の物をどける。
お父様は顔を真っ青にして気を失っているけれど、息はしているから……驚きすぎただけよね。
婚約破棄ってこれくらい重大なもので、お父様の反応が普通なのだけど。
少し前に子爵令嬢が婚約破棄された時は、気絶して頭を打ちつけて大騒ぎになったのよね。
「時間が経てば意識は戻ると思う。
こんな事になってしまって、本当に申し訳ない」
「いえ、私が伝えてもこうなっていたと思うので、謝らないで下さい」
グレン様から婚約を申し出られたことを気にしている余裕なんて無くなったから、戸惑いは吹き飛んでしまった。
お父様が倒れてしまったから冷静になっているけれど、こうならなかったら私は軽くパニックに陥っていたと思う。
今は治癒魔法を使っているのだけど、効果は無かった。
病気や怪我には効くけれど、身体の防衛反応にはあまり効かないのよね……。
それでも、数分経てばお父様は意識を取り戻してくれた。
駆けつけたお母様や使用人さん達、グレン様の表情が少しだけ緩む。
私も安心したから、少しだけ身体の力を抜いた。
「……気絶してしまって申し訳ない」
「お気になさらないでください。僕の言い方も悪かったですから」
「お気遣い、ありがとうございます」
また気を失うといけないから、お父様はソファーに横になったままで話しを再開することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます